第29話 支配者

「やってみろ」


 そう言った途端、アマンダの力の籠った右ストレートが颯太の顔面に迫る。


 その拳は槍の男とは比にならない程に速い。


 しかし、


 颯太はそれを予測していたかの様にアマンダの拳を手のひらを使い、流れる様に避ける。


「なっ!?」

「物体支配発動!」


 俺は攻撃を受け流すと同時にスキルを発動させる。


 そして、


『顎を狙え!』


 そう言った瞬間、颯太の右足がアマンダの顎へと迫った。


「っ!!」


 それをギリギリ颯太から手を離す事で避けたアマンダは、驚きの表情を見せる。


 先程まで胸倉を掴まれ、吊られていた敵に何の予備動作も無しで自分の顎を攻撃されたのだ。驚きもするだろう。


 颯太は顔から焦りを見せるアマンダに向かって言った。


「何だ? さっきまでの威勢は何処に行ったんだ?」

「っ!! ……ふぅぅぅ」


 アマンダは一瞬額に血管を浮かび上がらせるが、冷静さを取り戻す為か、大きく深呼吸をした。


 …少しでも怒ってくれたら儲け物だったが…流石は闇組織の頭領ってとこか。


 颯太は懐から1本のアイスピックを取り出す。


「…それが支配者ルーラーの武器かい。随分ちゃっちいモンを使ってんだねぇ」

「お前が相手ならこれぐらいで十分って事だ」

「ほざけ!!」


 アマンダは右拳を振りかぶりなら近づく。


 ……此処で実戦形式も悪くないかもな…物体支配に頼りきりじゃ、この先やって行けない。


「空間支配発動」


 俺は回避を優先させる為、小さく呟き、空間支配を発動される。


 そして颯太はアイスピックを持って構える。


「はっ!!」


 アマンダの拳が颯太の顔何十センチ前まで迫る。


 これはさっきも見た。視線ではギリギリ追える程度の速さ。


 避けれ……



 いや!! マズイ!!


 空間支配で捉えたアマンダの動き方から、何か不吉な予感を感じた颯太は先程よりも早く回避行動を取る。


 スパッ


 颯太のフードが深く切れる。


「くっ!!」

「へぇ! よく気づいたねぇ!」


 最初此方にも見える様に拳を握ってこっちに向かってきたと思っていた…


 しかし今のアマンダの手は拳ではなく、手を開き、指先をくっつけている。


 俺の顔面を捉える瞬間に貫手に変えたのだ。


 これは実戦じゃないと体験出来ないな。


 颯太の口角が上がる。


「随分余裕そうだねぇ」

「いや、良い経験だと思ってね」

「そんな口二度と聞けなくしてやるよ!!」


 アマンダの拳、貫手、蹴りが颯太へと迫る。



 しかし、颯太の"空間支配"がそれを全部無に帰す。


 避けて、受け流し、相手が来るである所に置く様にアイスピックを構える。


 それを何度も、何度も繰り返す。



 そしてーー


「ぐっ!!?」


 アマンダは口から苦悶の声を上げ、床に膝を着いた。身体からは小さいながらも擦り傷が数十箇所出来ており、見るからに痛々しい。


「…そろそろ諦めたらどうだ?」

「お前はアタシの親父をバカにした!! 許される事ではないぞ!!」

「…確かに死んだ者をバカにするのは良くない。だが…跡継ぎがこんな奴だとたかが知れる」

「何だと!?」


 アマンダの拳が颯太の顔スレスレを通る。


「お前の今の活動は本当に人類を平等に接しているのか?」

「何を…!!」

「いいから聞け。俺は此処に来るまでにお前から風俗店の経営を任せられるという1人の男がいた。そいつが言ってた事が本当ならお前のやってる事は正反対だ」

「……何だと?」

「そいつらは……」


 颯太はこの屋敷の玄関にいた2人の会話をアマンダへと伝えた。


「…嘘だろ?」

「嘘でもこんな胸糞悪い話はしない」


 ま、それで俺が死ぬってなったら別だがな。


 颯太は心の中で呟きながらも、アマンダを見た。

 アマンダの真っ赤だった顔が真っ青に変わっている。


 交渉の場ではもっと精神的に強い奴だと思ってたが…今や親を貶された時と言い何かと弱点は多そうだ。


「……すまない。今回は此処で終わりにしてくれないか。用が出来た」


 アマンダは掌で顔を覆うと、天井を見上げる。


「…分かった」

「少しAOSから膿を取り除くとするよ。アンタの花形食堂の話も詳しく調べてみる事にする。そうだね…1週間後のこの時間にまた来てくれ」

「…容赦するなよ。それと…花形食堂に手を出した奴がもし居たら…分かってるよな?」

「…あぁ。責任は取らせて貰う」


 颯太は入ってきた時とは思えないボロボロな部屋から廊下へと出た。


 そして、扉を閉める瞬間。


「アマンダ。言ったぞ。責任は取って貰う」


 バタン


 部屋に残った者の額から汗が流れた。






 最初から最後まで主導権を握られていた…


 そんな気がしてならなかった。


 そしてアマンダの口から一言、漏れ出る様に声が出た。




支配者ルーラーか…」

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