第5章 毒々しい未来
第58話 未来を求めて
これまで、世界では多くの犯罪が蔓延って来た。
勿論それは、人類が進化を果たさない前からも。
この世界の犯罪は常軌を逸している。
弱者を痛ぶり、蝕み、搾取する、平凡者には人権すらも危うい。
そしてそれを今まで誰も不思議とは思わない。
そんな常識が、今の世界では普通で……こんなふざけた世界の何かが変わった所で、良い事など有りはしない。
過去の様々な思いや、積み重なってきた複雑な感情を忘れる事は出来ないのだからーー。
◇
ビル群の路地裏にある地下室。
SNSに流れて来るニュースを見て、颯太は思わず口角を上げた。
「一先ず、挨拶は済んだか」
世界数カ国による同時テロ。
俺はキムの手を借り各国へ爆発物を設置した。そしてキムの信頼出来る人脈から爆破をして貰う事に成功した。
「挨拶ですか……これは挨拶程度では済まないと思うんですけど?」
「いいや、キム……俺達は世界をぶっ壊すんだ。これぐらいは挨拶の内にしか入らないだろ?」
地下室にある長テーブル、その近くに座っているキムに俺は笑い掛ける。
実際、俺達はこれとは比べ物にならない事をするんだ。
世界をぶっ壊す、これはまだ序章に過ぎない。
キムは颯太の言葉を聞くと、少しタメを作り大きく息を吐いた。
「だとしても、まだ私達には手が足りな過ぎる。私だけの人脈を使うにも無理がありますよ?」
「安心しろ、俺にも人脈がある」
「……颯太さんに、ですか?」
「……まぁ、言いたい事は分かるがな」
俺は平凡者だと周りに蔑まれ生きて来た。
今も先行者として進化はしたものの、見た目は平凡者のまま。
そんな俺に人脈などある訳がないと思うのが普通だろう。
「颯太では無く、
「あぁ、そっちの……どういう関係で?」
「前の……釈放して貰った奴関係で少し知り合ってな」
「あぁ。花見さんって言いましたっけ?」
そう。花見関係……そこで俺は知り合った。
「闇組織AOS。アソコには貸しがある」
闇組織AOSのボス、逆町アマンダ。
火龍人で、強さはinfのオブロよりは弱い程度。
その時は花見に迷惑を掛けたとして、貸しを作ったが……アマンダは平凡者だった父親を先行者達に殴り殺されている。
手を貸してくれる可能性は高いだろう。
「AOS……聞いた事がありませんね」
「使えなかったら……処分すれば良いだけの話だ」
その返答にキムはゾッとする。
それはキムが使用するスキル【感情読み】を使わずとも分かる、颯太の冷たい感情が流れ込んでくる様な声音をしていたからだ。
「……そうですね。ただ、使うにしても何らかの不安要素はあります。急ぎはする……でも、慎重に行きましょう」
キムにとっての1番は自身がどれだけ儲けられるか。
俺達に失敗はない。
してはいけない。
「そうだな……俺とキムで話をしに行ってみよう」
キムのスキルを使えば、信用出来るかどうかは分かるだろう。
颯太とキムは、京から出されるお茶を傾けながらこれからについて話し合うのだった。
◇
あぁ、まただ。
昔から、何度も夢に見る。
私が知らぬ誰かに手を引かれ、暗い水底に連れて行かれる、そんな夢をーー。
気持ちは、悪くはない。
ただ、目が覚めれば自身は汗だくで、ドン ドン ドンっと、低いドラム音の様な動悸がした。
もしかしたら、今の自分を何処かへと連れ去ってくれるという妄想を夢見ているだけかもしれない。
そんな事を思ってからか……いや、"平凡者"だったという事が大きいだろう。
昔から私には居場所が無かった。
周りから目立たない様に隠れ続けて、罵倒され、蔑まれ生きて来た。
そんな時出会ったのが、料理。
料理をすれば妄想も忘れて無心で要られた。
妄想も、痛みも、何もかも忘れられた。
現実を逃避する様に料理をし続け、その果てに運良く店を開く事が出来た………花見 未國という男は、そんな情けなくも臆病な人間だった。
「これから、どうしますかね……」
ビルが立ち並ぶ、幾つもある細い路地裏の隙間で私は1人でに呟いた。
私は過ちを犯した。
夢で見る妄想、今まで以上に苦しい現実に耐え切れず、私は薬物に手を出したのだ。
楽だった。
料理をし続けている時よりも顕著に、私は深い水底では無い、雲の上に居た。
でも、今は現実を突きつけられている。
コンクリートから伝わる心を抉る様な冷たさが、自身の身体を痛めつける。
私は、自分と同じ様な生活を送っていたであろう平凡者の少年を裏切ったのだ。
心も、おろし金に擦られるかの様にすり減っている気がする。
「最初に裏切ったのは、私か……」
あの子の手を振り解かなければ、恐らくーー。
恐らく私は水底へと連れて行かれただろう。
だけど、行けそうで行けない中途半端な所でもがくなら……。
未國は歩き出す。
心地の良くなる場所を目指して……夢が指し示す方角へーー。
「おい、アンタ」
そんな時、未國は声を掛けられ顔を上げた。
視線の先には筋骨隆々で、髪や髭はモジャモジャ、にしては身長は低いというあべこべな男が佇んでいた。
突然の光景に、未國はポカンと口を開く。
が、それに痺れを切らした男は、もう一度未國へと声を掛ける。
「アンタ……数日、此処で寝起きしてるよな?」
「あ……す、すみませんッ!! 直ぐに此処から居なくなります!! 二度と顔を見せません!!」
早口に捲し立て、その場を離れようとするとーー。
「いや……アンタが良ければだが、ウチに来る気はねぇか?」
「え?」
その男の言葉に未國は思わず立ち止まり、眉間に皺を寄せた。
ーー私の今の服装では、腕に何も生えていない鱗も何もかもが隠せない、見るからに平凡者だと分かる。
平凡者は蔑まれて当然な存在。
ーーそれなのに、何で?
「警戒している事は分かってる。それでも、来ねぇか?」
「あの、いえ……大丈夫です」
公衆の面前でボコボコにされる可能性もある、もっと酷い事もーーそう思った未國はまた離れようとする。
しかし、男の次の言葉にまた足を止める。
「……お前と同じ、平凡者だとしてもか?」
筋骨隆々な男……"ジャック"は服の裾を捲って腕を見せた。
そこには、何の特徴もない。強いて言うなら毛むくじゃらで太い腕が堂々と掲げられていた。
世界に嫌われる平凡者は、世界と平和を天秤にかける ~意思は無くならない、感情は存在する ゆうらしあ @yuurasia
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