第13話
弟十三章(戦い〜その弐)
【前書き】
注意!! 内容に、残酷な表現があります。
【本文】
ワーッという喚声が聞こえた。
毛利軍に行く手を阻まれ、味方じゃと思い、宇喜多のものどもはへたり込んでおった。
そこへの敵襲!林の中から、槍を持った騎馬武者を先頭に、武者どもがバラバラとと現れおった!
あわてて追っ手に対処しようと立ち向かうが、いかんせん、武器が少ないし、気が抜けておる。
逃げる途中、邪魔とて、槍や鉄砲を捨ててきたものが多く、腰の大太刀のみで戦うもの多し。
追っ手は意気盛んじゃ。武器も充分。
話にならず、宇喜多兵は、次々斬られていく……
阿鼻叫喚とはこういうのをいうのかのう、ひどいものじゃ……
毛利軍は大将がはっきりしないもんだから、守りを固めて見つめておるのみ。
「秀頼様、いかがいたしますか?」
捨丸の背中が戦いに疼いているのがわかる。
予もじゃ!
「かかれ!宇喜多衆を助けるのじゃ!」
次の瞬間、羅都鬼と我らふたりは敵に向かって突進した。
体内では興奮を促すアドレナリンが駆け巡り、激しい興奮におちいっている。
もう、なんでもこいの気分である。
我ら、ランナーズハイ状態となった。
こうなると能力は5割り増し、斬られても余り痛くない。
おう、これが戦闘時の状態であるか……
捨丸と羅都鬼は合体して戦鬼となり、敵に突っ込んでいく。
戦鬼が敵の騎馬武者に槍をつける!
相手は小さい馬じゃ。イヤ、この時代、羅都鬼が大きすぎるのかのう。
うえから威圧するようにいどんでいく。
相手の馬は怯えて逃げ腰である。
敵の武者の命令に逆らってイヤイヤしておるのが丸解かりだ。
そこへ、戦鬼が槍をつける!
ガーンという金属音と共に、胸を突く!
鎧のうえからでは刺さらぬが、捨丸の
たまらず、敵武者はドウと落ちる。
敵武者は羅都鬼の足元にのみこまれてく。
重い羅都鬼に踏み、かつ蹴られては無事ではすむまい。
それを隙と見たか、赤黒い鎧をつけた騎馬武者が槍を突けた!
羅都鬼が素早く動いて、槍を空かす。
戦鬼、返した槍で、頭をなぐりつける。
兜飾りの金の三日月が、吹っ飛び、敵武者はあっさり落馬する。
落ちた武者の頭は変な角度にまがっておる!ピクリともしないぞよ。
つ、強い。まことに強い!まさしく戦鬼じゃぁ〜
槍は刺すだけでなく、殴りつけるも多いのじゃな。
戦鬼にとって、殴って戦力を奪うことも出来るのだのう。
予は捨丸の後ろで、妙に冷静になって観察しておった。
打ち倒した敵武者たちは、放置しておいた。
本来なら、家来の小者達に首を切らせて、手柄にし、褒美をもらうのが作法じゃ。
だが、われ等は小者は連れてきとらんし、主人は予じゃからのう。
で、そのままにうっちゃって置いた……
すると、敵の小者どもがわらわらと現れ、それぞれの主人の身体を引っ張ってもっていきおった。
これはこれで、珍しい光景じゃ、戦国もの映画には無かったぞよ!
面白いのう……
「槍隊前へ!あの怪物を仕留めよ」
「は!」
「お、おーっ!」
敵の大将の命により騎馬隊は引き、続いて、長槍隊が数をたのんで襲ってきた。
槍ぶすまをわれらの前につくり、押し包もうとする。
一般に、馬は利口で、当然ながら、槍ぶすまには危険を感じて嫌がり、操りがたくなる。
だが、羅都鬼は自分も戦っているつもりなので恐れず、向かっていく。
しかも捨丸は輪のりの名人じゃあ!
戦鬼は、正面の槍ぶすまをぎりぎりでかわすと、クルリクルリと横にあっという間に回りこみ、長槍隊に槍をつける。
穂先が槍兵の右頬に吸い込まれた!
一瞬の後に、槍は引き込まれ、黒々した穴が槍兵の顔に開く。
次の瞬間、頬から、どっとばかりに血が噴出してきた。
足軽はぱたり!と倒れる。
その後、ピクリとも動かず、あたりに動脈血がどくどく広がっていく。
どうやら脳をやられたらしい、即死であろう。
足軽の鎧は簡便なため、隙間が多い。
そこをめがけて、捨丸が次々突く!
「うわっ」「あがー」
あっという間に三人、突き殺した。
これを見た残りの槍兵たち十数人、槍を捨て、あわてて逃走しおった。
さすが戦いのプロ達、かなわぬとなったら早いのう。
映画と違い、現実の兵は、逃げるのが早い、早い。
この
それどころか楽しいぞよ、面白いぞよ。
捨丸の背中で、戦国ものの映画を見ておる気分である。
そしてまた、羅都鬼はすごい馬じゃ!
まるで自分も戦っているかの様に跳ね、動き、蹴り、雑兵どもを蹴散らしておる。
完全に一人と一頭で、一体である。予もおまけで居るがのう。
戦鬼に勝てるやつが居るわけがない、ホ、ホ、ホ。
戦鬼は前後に激しく動く。あるいは花びらの様に廻る。
まるで、戦場で舞っておるかのようじゃ。
彼らが舞うたびに敵は倒れていく。
見事じゃ!予は安心して、戦いを楽しみながら、おんぶされておった。
しかし、安心したときに事はおこる。
突然の気配、後ろから槍がつけられた!
間に合わん!予が左手に持った十手ではらう!
ま、間に合った!
子供の力なので、はねとばされたが、何とか槍の軌道は変えられた。
槍は斜めに捨丸の鎧にあたって、跳ね返される。
捨丸、振り返り、直ちに敵を難なく突き殺す。
「秀頼さま、かたじけなし」
「なんの!」
予は答えて気分良し、おおいに戦いに参加した気分である。
ダダーンという音がした。
そして捨丸の鎧に弾が当たった!
「だ、大事無いか?捨よ!」
「は、なんともござらん」
「よかったのう、南蛮仕立ての鎧で。五匁くらいの弾なら、なんなく跳ね飛ばしてくれるわ。豊臣家の蔵からちょろまかしてきた甲斐があったというもんじゃ。」
だが、敵はあまりの強さに、遠巻きにして近づいてこなくなった。
遠くより、飛び道具で討ち取るつもりらしい。
まずい、鉄砲がちらほらと、敵に見えるぞ。
ダダ、ダーンという激しい斉射の音。
「ウ!」
次の瞬間、敵兵どもがバタバタ倒れた。
孫一と五郎の率いる鉄砲、槍混成隊が駆けつけてくれたのだ。
寿命が縮んだぞよ。八歳なのに、十六歳になった気分じゃ。
秀頼隊は百名の長槍が魚燐の形をとり、そのなかに鉄砲隊が三人組を組んで、前進してくる。
「イチニ、イチニ。ヤーッ」
停止した混成隊は槍ぶすまを素早く作ると、その間から鉄砲隊が狙う。
「各自、目標に向かって、放て!」
三人組は勝手気ままに放つ、放つ。
斉射ではないから、音はばらばらだが、音がするたび、派手な鎧兜をまとった武者が次々に倒れていく。
ただでさえ名人ぞろいの雑賀の者に、三発同時に撃たれてはたまらない。
百発百中。そして雑賀お得意の、つるべ打ちの法。
次から、つぎから、弾は放たれ、壮烈な光景であった。
敵に残ったのは足軽ばかり……
指揮するものが居ない為、秀頼隊の槍ぶすまにたどり着いても、もたもた、右往左往、まとまりのない烏合の衆と化している。
そこへ、高田五郎の号令がかかる。
「槍隊、一段目、二段目。前進して攻撃。後詰め、三段目、一枚槍ぶすま作れ!」
「おう!イチニ、イチニ」
二列の槍隊は鉄砲隊を離れ、前面の攻撃に移った。
そして直ちに三段目の槍兵が鉄砲隊の前に躍り出て、薄いながらも一枚の槍ぶすまを作った。
二枚の槍隊は五郎の指揮の元、敵兵を突き、叩き、あるいは十文字槍を具足に引っ掛けて押し倒した。
あたりは敵の負傷者で足の踏み場も無い状態となっておる。
彼ら、槍兵も、戦えば強いのう……
その間も、雑賀衆は守りの薄さにびびりながらも、撃ち続けていた。
敵が逃げていくと、五郎は深追いせず、鉄砲隊の元に帰った。
そして再び槍ぶすまを堅固にすると、前進を再開した。
「なあ、五郎殿、イチニ、イチニ」
「何でござるか?孫一どの、イチニ、イチニ」
「われら、母じゃを失った子の様に心細かったでござるよ、イチニ、イチニ」
「われらも、子を手離した母のように気がせきましたぞ」
「ふは、は、は。イチニ、イチニ」
「は、は、は。イチニ、イチニ」
時々、部隊は立ち止まり、狙い撃ちをひときしり行い、再び前進する。
大坂の商人から金に糸目をつけず買い込んだ火薬の威力はすばらしく、敵の鉄砲より遠くまで届いているらしい。
戦場は弾に当たって呻いておる負傷者、ピクリとも動かぬ者、多数ころがっておる。
凄惨な光景となってきていた。
だが、敵は次から次から、ウンカの如く沸いてくる。
関が原の、勝ちいくさに浮かれて、戦意多し。
さすがの我らも、もてあまし気味になってきた。
「秀頼様を死なすな!」
「毛利の意地を見せよ!」
我らの奮戦を目のあたりにした毛利隊は、感動と恥じとがないまぜになって突進してきた。
先頭にはあの毛利輝元自らが槍をふるい、戦っている。
予もその姿をみて、背筋に感動のあまり寒気が走った。
「捨、我らも行くぞ!」
「承知!」
羅都鬼はあたりの敵をかきちらして輝元めざして駈けていく。
後ろからは宇喜多のものどもが「死ねや、死ねや!」とわめきながら死兵となって続く。
輝元は馬上で必死に槍をふるっていた。
生まれついての殿様のこととて、指揮したことはあれど、実戦で戦うのは初めての輝元である。勢いで来たものの、彼も必死であった。
側近の者たちは殿を守らんとあるいは騎上で、あるいは徒歩でまわりを固めて戦い続けていた。
ひとり傷つき、二人傷つき、輝元のために倒れていった。
戦鬼がやってきた!
「輝元どの、加勢いたす」
背中で秀頼、誇らしげに言い放つ。
その間も羅都鬼と捨丸はいそがしく動き回り、輝元の周りの敵を屠っていく。
「おんぶ侍じゃ」
「おんぶ大将じゃ」
「おんぶ様じゃ」
味方のものどもから、声が上がる。
これ以降、おんぶ様として秀頼は呼ばれることになる。捨丸はおんぶ侍と呼ばれる。
ふたりはこう呼ばれることを、いやがったが、その後、しぶしぶ認めたという。
まわりでは宇喜多兵が、「死ねや、死ねや」とわめき散らしながら、敵を斬りまくる。
毛利兵も釣られてテンション上がりまくりで、すごく強い。
予の鉄砲隊は、槍隊に守られながら、前進し、鉄砲をつるべ撃ちにする。
めぼしい敵はほとんど撃ち殺された。
勝ち誇っていた東軍も、弱気が見えてきた。
そこで、すかさず、次の一手を秀頼が命じる。
「いまじゃ!」
羅都鬼の上で、秀頼が長十手を大きく振ると、親衛隊の中に、高く高く馬印が上がった。
「千成瓢箪じゃ!」
「豊臣家の旗印じゃ!」
かねての手はずどおり、親衛隊の皆が叫ぶ。
「豊臣秀頼さまの御出陣じゃ!」
「ひかえい、ひかえい!」
この最後のダメ押しは効いた。
ぅウワーッ、敵は総崩れとなった。
「追え、追え、逃がすな!」
あわてふためいて逃げていく東軍を追いかけようとする秀頼連合軍のものたち。
「待て待て、追うでない!この場に留まり、兵をまとめよ」
すっかり秀頼軍になってしまった兵たちは、直ちに戦闘を停止し、再編をおこないはじめた。
そして、歓声がわきおこる。
「秀頼様、万歳!」
「おんぶ大将、万歳!」
「おんぶさまぁー」
予は長十手を大きく振った。
豊臣秀頼軍の完成だ。
「秀頼様、ご勝利、お目でとうございます。これより、いかがなさいますか?輝元どこまでもついてまいります」
羅都鬼のそばで片膝ついて輝元が言った。
すっかり家臣の顔つきである。
やっと予のことを認めたな、やれやれ。
などと感慨にふけっていると周りの者たちが口々にいう。
「秀頼様、御追撃を!」
「徳川に眼にもの見せてやりましょうず」
皆勝ち戦に浮かれておるわ。
下々のものは気楽でいいの、そうはいくか。
「イヤ無理じゃ。三成の西軍はすでに消え去っておろう。ここは一番、大坂城に戻り、武将どもに檄をとばすのじゃ」
「豊臣秀頼軍を作るのじゃ」
「そして徳川を討つ!」
「あのたぬきじじいを殺す、なにが誠実じゃ、正直じゃ。化けの皮をはぐぞ!」
一同、再び秀頼の神童ぶり、いや戦鬼ぶりにおそれいって感動し、トキの声をあげる。
「おんぶ大将、おんぶ大将!ウォーッ」
予は長十手をゆっくりかかげてそれに答え、そして命じた。
「回れ右!全速前進!」
それから、予らは必死で逃げた。
* * * *
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます