第56話


赤く輝く安宅がずんずん近づいてくる。

我が船と安宅船は船首付近でぶつかる航路である。

安宅の甲板には、多くの黒い刺し子をまとった男たちが武器を手放し、頭を抱え、

四つん這いになっておった。

さすが海の者たちとて、衝突は避けられんと、衝撃防御体勢である。

こちらは、どうかと見てみれば、突然の帆走による振動と、かじを切ったことによる傾斜で流石に眼は醒め、気づけば船は衝突寸前、みな大慌てじゃ。

まあ一蓮托生である。

と、すっかり予は諦めておる。

走馬灯のように、人生が…。

え?

なんとしたことか!我が船は急に右に廻りだした。

そういや、先程、むちゃくちゃ舵輪を回したな。

おかげで、こする寸前で離れていく。

「た、助かった。舵輪を回したのが良かったんじゃな」

「回さなきゃ、近づかなかったではござろうか」

「うむ。そうかもしれん…なに!孫一、いつの間に来よった!」

「はは、さすがにあんな騒動があれば、寝てはおられません、ホラ、皆も」

皆、起きて、いつの間にか何もなかったの如く、水夫は船を操り、

武者は武器を手入れしておる。

「なんと!!!」

変わり身の速さよ。

「だが、孫一、ぬしだけはせっかんは覚悟しとろうな」

「ななな、皆で決めてやったことでござる。なぜに拙者だけでござるか」

「しれたこと、主は責任者じゃ、一番に罰を食らう」

「ならば、五代殿も」

「あやつは手伝ったで、罰が軽い、後で言い渡す。主が一番じゃ」

「ああ~」

初めて事態を認識し、頭を抱える孫一であった。


「それはそうとて逃げますか?」

「うむ、それが利口であろうな」


ドン、バシューン。


「うわ!」

「前帆が吹っ飛んだ!」


んぬぬーこちらが素直に逃げようとしておるのに、頭にきた。


「皆のもの、仕返しはしなくてはならん」

「ここで逃げてはおんぶ隊の名折れぞ!」

「おお~~」



皆、勢い勇んで、帆に向かい、舵に取り付き、刀、鉄砲を用意する。

船は再び回頭し、赤き安宅の方へ向かう。

だが、困ったことに攻撃法が見当たらん。

「棄、孫、どう攻撃したもんか。あちらは胴張り、こちらは木製。

まともに打ち合ったら勝ち目ない。船の高さも同じであろう。かえって

こちらの帆が有る不利じゃな」

「ふむ、鉄砲を打ちつけるにしても、側面の銅板で跳ね返されましょうな」

「耐えて、耐えて、ぶつかった瞬間、敵に乗り込み斬る、これしかござらん」

「ぬしはそれでよかろうが、我らはそれまでに死屍累々よ」


 「ウ~ン……」


  *


予に名案が浮かび上がる。

「木砲があったよの、木散弾砲が」

「一つだけありまするが、潮にあっとりますので、一、二回撃てればいい方でござろうか」

「あれをのう、ゴニョゴニョ」

 二人は嫌がったが、代案とてなし、決定し、準備に取り掛かる。

 

棄丸が前に、両脇になるべく力の有りそうな兵を配し、その上に孫一が乗り、続いて廻りを人壁にて強化した。

次に、弾込めした木砲を肩に抱き、敵を睨む。

「うむ、重いぞ。吉原の太夫を担いだときより重い」

「天下のやんごとなき姫様と思い耐えるんじゃよ孫一殿」

中々によいコンビじゃ、あっぱれ。

さて、これにてかなり高目線での攻撃ができよう。

これなら、甲板の黒刺し子どもを結構、うちはらえよう。


ズゴーン、砲丸が時折、飛んでくる。

予も、皆も、歯ァ食いしばって耐えるのみ。


近づいた、接敵も、もうまもなくじゃ。


「いま!」

「ズゴーン」

甲板の上を散弾が走り、黒刺し子たちがなぎ倒される」

「あちィ!」

孫一、木砲を大きく投げ捨て、人力馬が解ける。

木砲は海に落ち、ジュッという音ともにバラける。

ありがとう、木砲どの、予は感謝を捧げる。

2つの船は寄り添うように接し、ゴツンという音とともに、

銅はまがり、我が船は一部、吹っ飛ぶ。

五代棄丸、刀を握るないなや、大きく飛び、敵の甲板に降り立つ。

「ぬん」

敵を横殴りに斬る。

なんと、素っ首が飛んで、首なし胴体はピューと動脈血を巻きちらしながら

どうと倒れる。

臆したか、敵は下がり、大きく間をとって、囲むのみ。

ま、そりゃそうだろう、素っ首をさし出したくはないよの。

「いまの内だ、来い!」

「おう!そりゃ~」

次々、わが船より、戦士たち、その後から、水夫も刀を持ち、全出陣じゃ。



「わーわー」

「ぎゃ~~」


そして、われらが勝利した。


おんぶ隊バンザイ!


「バンザイ! バンザイ」





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