第57話
「飯ぞ、飯~~」
甲板に倒れこむ負傷者や、死者をものともせず、安宅の船内に入り込むおんぶ隊の者ども。
次々に米俵らしき物や、味噌、乾物らしきものを運び出し、孫一なんぞはもう干物らしき物を食うとる。
それを見た予は思う。
「ゴクリ」
そして叫ぶ。
「さっさとこちらにもってこんか!予は腹減っとるんじゃ!」
「ヘイ、ヘイ」
ヘラヘラしながら、食べ物は運び込まれ、わが船の上にて、一部の不運な監視兵を除き、
直ちに、宴会、ただし酒ぬきじゃ、が始まる。
干物、糒、漬物、味噌。
どれも味が濃く、普段なら食せぬもの成れど、うまい。
「う~ん、生き返る様じゃ」
「やはり、濁り酒だけでは生きていけぬの」
「や、拙者は毎回、濁り酒でもよいですぞ」
「ぬかせ、一番に干し魚にかじりついて孫一殿にぶん殴られたくせに」
「あれは非道ござる。しかも取り上げたもんを食ってござるし」
「ワハハ」
楽しそうじゃ、何も言うまい。というか、予も食うのに忙しい。
一刻ほど過ぎたころ、予、孫一、棄丸の三者会合が始まる。
この安宅をどうするかとか、ぶつかった勢いで銅板が緩み、船底で水漏れがしてる
とか。いやそれを言うならわれらの船も船首が壊れて穴が開いてるし、帆は穴だらけで
帆走りは無理であろう。それでは戦利船として持ち帰れぬのか、どこに持っていくんじゃ、
われらは江戸に潜入する秘密部隊じゃぞ。沈めるしかない。それより修理をせねば。
捕虜をどうする。え?捕虜なんか居ったんか、面倒じゃ、みな殺そう。
などなど。
そうこうしておると、突然、あたりが暗くなるはじめ、
「ドーン」「バリバリバリ」
電流が走った。
「雷神様じゃ!海が荒れる!」
「嵐じゃ~~~~」
水夫たちは驚き走り回り、おんぶ隊は茫然自失」
「しまった。見張りの者どもを呼び戻せ」
安宅におったものたちを戻し、とも綱を解き、嵐に備える。
ザザ~という音とともに大雨が落ちてきて横殴りの風が吹き、
波は大波となり、わが帆船はあおられ、もう無茶苦茶に揺れる。
沖へ、沖へと流される。
ふと、安宅を見ると、船首を下に海に突っ込んでいる。
これは沈没だな、明日は我が身か…
いや、死んでたまるかこんなところで。
「みな、何とかせい!予は死にたくないぞ」
「は、は~~」
皆は必死で動き回り、遭難に備える。
予は柱に括り付けられて様子を見守る。
船内はいやじゃ、まだここのほうが気楽である……酔うかも。
大波に乗り大きく上がり、また落ちてくる。
沖へ、沖へ。
これは海流に乗ってしまったか、黒潮…
うわ~太平洋に乗り出しちゃった、どうするんだこれ。
………………………
う~みは広いな大きいな~
本日はいい天気じゃ。
ぐるりを見てもすべて海、な~んもなし。
海鳥さえ居らん。
「遭難じゃのう」
「まことに、まことに」
うなづく、棄と孫の二人組。
「まあ、仕方なし、飯はあるから、当座は何とかなるか。水漏れは止まったか?」
「は、水漏れは止まり申したが、われらの水も止まりでござる」
ん?
「飲む水がないということか?」
「さようさよう。まだ飲み水を積み込んでおりませんでしたもので」
「干物は喉が渇きまする」
「ば、馬鹿もの!水がなければ死んでしまうわ!」
ど、どうしよう。二三人殺して、血と体液を絞り出すとか…
何を考えてるのだ、予は、さすがに無理だ。
……………
そうか、絞り出せばよいのだ、その手があったか!
「皆の者、直ちにとにかく魚を釣れい。それから、しょんべんは捨てる出ない!ためて、飲むのだ」
「くさい?なら死ぬがいい。いやなら、飲めい~~~」
「は!」
皆はどたばたと予に従い、行動する。
待つ間、貯めた自分の小水を飲む。
む、アンモニアくさいのう、だが自分のはかろうじて飲めるか。
「孫一のは飲みたくないのう」
「は?なんでござるか」
「いや、何でもない」
そうこうしているうちに幸運にも大量の魚が集まった。
すり鉢で魚をすりつぶし、きれいな木綿にて包み、力自慢の男たちが圧搾していく。
結構、魚の体液が集まった。
皆で平等に分け、こぼさぬように飲む。
「う、ちょっとさかなくさいのう」
「命あってのものだねでござるよ、小水よりうまいわ」
「それにつけても秀頼様にはありがたし」
「さよう、さよう」
ま、とりあえず危機は逃れたか。
早く島を見つけねばのう。
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