第51話

立花のものより知らせがきた。すぐに来てくれと。


 なにやら情勢に変化があったみたいである。


 我等主従、使いの者について行く。


 あっ、その前に孫一をたたき起こし、我が隊にとりあえずの準備をするように指示。

 あいつめ当然のごとく酔っ払っておったわ。酒はどうした?城内は飢餓状態ぞ。

 また酒精を盗んだな、後でひどいめにあわせちゃるまったく、ブツブツ。


 などと怒りながら使いのものについていったら、もう着いた~~いや~~小城じゃのう。


 えとここは??


「は、城の屋根上の見張り台にござる。臨時のものでござるので危うくござる。落ちぬようお気をお付けくだされ」


 城といっても二階建てだし、大して高くないが、屋根の上はさすがに見晴らしは良い。


 だがしかし……


 こ、このやっつけ仕事の見張りはやばいぞ。ぎしぎしゆらゆら。いまにも抜け落ちそう。


 怖いぞ!!!


 こんなとこで落ちて死んだら馬鹿みたい、と思ってびびってた。


「おう、秀頼様、来られましたな」


 うわ、突然話しかけないでね、びびってるんだから。


 予はあわてて四つんばいになり、体勢を固めてから振り返る。

 

「な、直次どの。お招きに従い来ましたぞ。なにかありましたかな?」


「あれをごらん下され」


 直次め、仁王立ちして一点を指差す。


 黒ずくめの甲冑すがたがそりゃ~もうかっこいい。


 負けてなるかと秀頼すっくと立ち上がり、ではなくへっぴりごしで立ち上がり指差す方向を見る。


 すると遠くに新たな軍勢らしきものの旗指物が見え、見る見るうちに膨らんでくる。


 使いをやった加藤清正が駆けつけてくれたか、それにしては早やすぎるのう、それに旗指物が違うようである。


 ふむ、新たな敵か味方の軍勢か?



「あれはどこの者たちか?敵か味方か?」


「丸に十字の旗指物が見えまする。島津でござろう」



「何故に島津がここに現れたのじゃ、敵か味方か?」


「味方でござろう」


 後ろから声がする。振り返れば家来に支えられた宗茂が立っておる。


「む……宗茂、もう傷はよいのか?」


「は、お蔭さまにて、この様になんとか動けるまでに回復してござる。さて、あの島津の軍勢はおそらく味方でござろう」


「ほう……してそのわけは?」


「さる関が原の戦いのおり、義弘どのは約一千の兵と共に東軍にあり。勝敗が決したあと、東軍を突破し、家康殿の本陣そばを通って帰国したという剛のものでござる。その後、瀬戸内にてわが立花勢と偶然にも会い、そのあとは一緒に九州に戻りましてござる」


「うむ、しかしそれだけで援軍を送るとは思えぬが?」


「兄上、あとは拙者が話す……われらが島津と瀬戸内にておうた時、彼らはボロボロでたった八十人でござった。それを見たとき、拙者色めき立ち申した。もちろん我が立花勢もひとりのこらずでござる。なぜなら我らが父はかの義弘に討ち取られましたから、仇でござるよ」


 直次、遠く島津勢を見つめ、直立不動で語る。


「ここなら討ち取れる。立花の積年の恨みが晴らせると思い、兄に進言しました。ここで討ち取ろうと。しかし兄に諭されました。『義を見てせざるは勇なきなり』と……拙者は『据え膳食わぬは男の恥』と思ったのですが……」


「ははは」


「わは、わは、わは。直次、笑わせるな~~~傷にひびくではないか!」


「はは。まあ、そんなわけで立花、島津合同軍は仲良く瀬戸を渡りました。途中、落ち武者狙いの海賊をさんざんに打ち破ったりしながら何とか帰国してござる。

 最後、別れる時、共に島津へ来い。そして共に戦おうと誘われました。断るとわれらの恩に報いるため、援軍を送ろうと言って去られました。じゃによってあれなるは義弘殿の恩義の兵でござろう」


「なるほどあいわかった。して数はいかほどじゃ?そして今後どうする?」


「は、しかとはわかりませぬが、およそ三千ほどかと。そして兵糧もつきましたゆえ、これを好機に全軍で打って出ようかと……」


「うむ、あいわかった。予も同意見である。直ちに打って出るぞ」


「は」


「おう!!!」


 急げ急げ直ちに打って出る準備じゃ、戦じゃ戦じゃ~~~~


 


 

 

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