第39話

ようよう登り切ったところにこぢんまりした城が広がっておる。


 二の丸はもう通り過ぎたか、ここは城の本丸であろう。


 予の感覚としてはこれは館じゃがのう。


 まあ、大坂城や伏見城と比べられては青影城もたまるまい。


 「お側の方がたはこちらのお部屋にてお待ち下され」

 

 「馬鹿な事をいうでない!!!我ら一名たりとも欠けては進むことはござらん!!!

 我が主君、秀頼様を何と心得る!!!!」

 

 大声で、村中友進をしかる棄丸。


 「う………」


 助けを求めるようなまなざしを予におくる友進、もちろん、無視じゃ。

 そこまでお主らを信用できる訳が無い、護衛は保険である。


 「さ、さすれば………、皆様がた、どうぞこちらへ」


 「うむ、あいわかった。 ゆくぞ、棄丸」


 「は」


 棄丸を先頭に、ぞろぞろと城の中に入っていく一行。もちろん槍鉄砲は持ったまま。

 まあ、幾分エチケット違反じゃが仕方あるまい。


 長くもない廊下を渡り、一行は大広間というか、中広間というか微妙な大きさの畳敷きの部屋に案内された。


 下座には土下座をした数人の男達が並ぶ。


 上座に相対するように予が座り、それを守るように棄丸以下、十人の護衛兵が包むように座る。


 槍や鉄砲を持ったままじゃから我らが異様な雰囲気なのは仕方ないのう。


 予はチラッと頭をわずかに下げ、言う。


 「お招きにより参上した。豊臣秀頼である」


 もちろん、思いっきり横柄に身分違いを思い出させるように………

 イヤなんだけど仕方ない。


 最前列に座る三人の内、右側の男が頭を上げ、予を見つめながら言上する。


 「この様な山の上までご足労いただぁき、申し訳ございませぬ~まぁさかこの様な高貴なお方とはつぅゆしらず御失礼おば致しましてござぁる。拙者、当主の叔父、村上本吉でござぁる。そして、こちらが当主にに遠からぁずなりおりまぁす村上元充でござぁる。これ元充、自身でご挨拶申し上ぁげろ」

 

 中央の男が面をあげ、挨拶を言上する。


 「は、はじめまして。村上元充でござる。よろしくお願いします」

 

 うむ、子供じゃ。いや、少年か?こんな若年者が当主か、一体何があったというのであろうか?

 まて?予もまだ九歳であったの、まいったのう………


 「この子が当主か?子供の予がいうのもへんじゃが、おさないのう~~」


 「はぁ、実は我が因島村上は毛利様の命により、能島村上元吉殿と共に伊予松前城を攻撃したのでござぁるが、武運つたなく、当主村上吉忠は戦死致し居りまぁした。それで、若輩なぁがら村上元充が名代となぁり、次期当主になぁりおりまする」


 「ほ、ほう~。お互い、苦労しますのう元充どの、は、は、は」


 「は、有り難きおことば~~」


 堅い、堅いのう元充どの、まあ予が砕けすぎか?まあ、それはよい。アレを聞かねば。


 

 「おお、そうそう。忘れるところであった!!!


 例の、わがくじら丸を臨検しようとした件であるが、因島村上衆は何の権限あってのことぞ。

 確か先年、我が父、豊臣秀吉によって海上権などについては禁止されたはず。ましてや海賊行為などもってのほか。どの様な存念であるか?」

 

 「さ…………そ、そぉれは………」


 「も、もうしわけござらん!!!」

 

 村上勢の大合唱が響き渡る。もちろん平伏平伏平蜘蛛のごとし。


 「存念はと聞いておる」


 左側の重臣らしき白髪ヒゲの男が答え始めた。


 「はは~~。じ、実はこのところ先の戦いにて戦費はかさむは当主は戦死して葬儀の費用はかさむはで手元不如意になりまして、毛利様に援助を依頼致しても、音沙汰なく、仕方なく…………」


 「で、昔取った杵柄…………に及んだというわけか?」


 「も、申し訳もござらん!!!」


 「まあ、戦いに起因するとなれば当方もまんざら無関係ではなかろう。じゃが、今後海賊行為は当分止めよ。その代わりじゃ………あれをもて」


 くじら丸船底のおもりにしておいたものの一部じゃが、大きな金の延べ棒を目の前に数本並べる。


 「こ、これは!!!」


 「援助ではないぞ。 当分の間、予、秀頼が因島村上の水軍衆を雇いたいということじゃ。どうかな?」


 「願ってもなきこと。よろしくお願いつかまつる」


 これにて瀬戸内海の連絡網は一応確保。ついでにこれを突破口として瀬戸の水軍衆を手に入れる。


 よーしっと…………




 「今、毛利はどうなっておる?村上衆には伝わってきておろう」


 「は………」


 本吉は村上衆と目配せしあった後、話し始めた。


 「実は、今、膠着状態でござる………………

 吉川殿がまぁず帰国され、自分の城に籠もられてござぁる。その後、毛利の殿様が帰国され、その城を大軍で取り囲まれましてござぁる。すぐにも攻められるかと思いましたが、未だ囲んだままでござぁる。手紙のやりとりが行われているだけでござぁる。今では囲む軍勢も、三千人程度とか。毛利様はご家族に愛情深き方なれば思い悩まれておらぁれのご様子かと……」


 ま~~~輝元らしい。優柔不断なんだよ。どうせ側近が許すと許せんで半分に分かれておって身動きとれんのであろう。

 

 ならばよし。ここは恩を売って、利益をえらねば…………


 「されば、予が仲裁つかまつろう。手紙を書こう。村上殿、届けて下され」


 「は、喜んでお手伝いつかまぁつる」


 村上衆の了解もとった、では手紙を作ろう。


 「五条殿」

 

 「は?」


  普段、呼ばぬ呼称に戸惑う棄丸に予は命じる。


 「聞いておったろ?手紙じゃ、手紙。今すぐ書け」

 

 「せ、拙者が、しかも今、ここででするか?」

 

 「もちろん。おぬしが一番そういうのに向いておろう。なにしろ公家の末じゃから」

  

 「ええ~~っ」


  村上衆に道具一式を借り、部屋の隅で手紙を書かせる、おお苦吟しとるのう、五条どの。



 「ああ、待っておる間、暇じゃのう」

 

 「あ、し、失礼つかまぁつった!直ちに………」


 広間に、料理や酒が運ばれてくる。


 まっておったぞよ、山海の珍味。


 この時代、一人一人膳の上にのせられてくる。十何人で来とるので用意が大変じゃったろう、みな同じもので良いぞよ。


 うん?予の膳を運んできたおなごは………………コナミちゃんじゃないの~~~~~


 おおお、呼び止めたい、呼び止めたい~~、出来ないのがつらいのう。

 お、彼女がこちらを見てチラッと笑ってくれたぞ、よし後でさがすぞ~~

 

 彼女たちは去り、宴会が始まる。飲めや歌えの楽しき宴の隅で棄丸が苦吟しておる。


 「で、出来ました」

 

 「おう、ご苦労」


 予はチラット見て、さらさらと花印を書き封をして村上衆に渡す。


 うまくいけば、毛利は纏まって予の上京軍に参加してくれようぞ、うまくいくように祈ろう。




 飯も食ったし、コナミちゃんを捜しに城をうろつくかのう、は、は、は。

 


    *********************


    *********************



 コナミちゃんを捜しに城内をうろつこうとしたら、村上衆に止められました。


 それで、この部屋で彼女を待ってますドキドキです。こ、子供に戻った気がします。


 この様なチャンスを得られたのも予が秀頼であるおかげ、いや~偉くて良かった良かった。


 「失礼致します」

 

 お、き来た~~~


 膝立で襖を開けた彼女は部屋の入り口で正座すると、一礼して、恥ずかしそうにうつむいて言った。


 「先程は失礼致しました。お呼びにより参上いたしました。ご用は何でございましょう」


 「ああ、そんな堅くならず。この間も言ったとおり、お友達になりたいなあ~~と。もそっと軽く、軽~く考えて下さい。 あ、ちょっと失礼」


 予は素早く近づき、手を取り部屋の中までみちびきいれる。


 「おお、あの櫛を使ってもらっておるか、うれしいぞよ」


 「は、はい。とっても素敵な櫛を頂きましてありがとうございます」


 そういって彼女は髪に簪代わりに差した櫛をそっと右手で触った。


 むむ、似合うぞ。柄の十八金がキラリひかってとっても素敵である。


 「あのう、秀頼様はあの、あのおんぶ大将でございますか?」


 「おう、その様に呼ばれることもあったのう」


 「まあ、それでは私は今、秀頼様東軍撃退のご本人とお会いしておるのですねえ~~」


  なんと!コナミちゃんはあの小冊子を秀頼様東軍撃退を知っておるのか、意外なところで役にたったのう。


 「予の小冊子をもっておるのか?それはうれしいのう」


 「いえいえあの様な貴重な物、私のようなものがもっておるはずもございませぬ。お城でいとこの元充様に一度見せて頂きましたが、とても素敵でした」


 「そ、そうでござるか。ならばお待ちあれ」

 

 予は立ち上がると室外に控える護衛兵に声をかけ、荷物入れを持ってこさせるとその中をさぐる。


 「確か、この中に………あったあった、これじゃ」


 予は『秀頼様東軍撃退』を取り出し、彼女に渡す。


 「エッ?わたしに?」

 

 「もちろん、持って読んでくれたらうれしいです」


 うれしそうに、櫛よりうんとうれしそうに受け取ったコナミちゃんは表紙をじっと見つめる。


 「今、読んで、読んで」


 「え?はい………」


 彼女は嬉しそうに読み始めた。


 真剣に読んでる彼女を真剣に見つめる秀頼である。


 時が静かに過ぎていく。ああ、時よとまれ、君は美しい………


 と、どこかで聞いたような事を思う秀頼であった。


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 その夜、秀頼は正室ではないが、生涯の愛しき人を手にいれた。







 


 




 

 




 


【後書き】

秀頼君ついに海賊の姫ゲット!!!

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