第28話
予を先頭に、棄丸、ともえの順で入って行く。
下座に、右から、片桐且元、黒田長政、藤堂高虎と並び、頭を下げておる。
ああ、高虎はなにやら苦しそうであるがのう、ほほほ。
予は気取った態度で上座にて正座をする。
斜め後ろに、棄丸が、さらにその後ろにともえが座った。
本来は側用人が仕え、色々、政事を補佐するのじゃが、予にはおらん。
いや、実は母上の推薦で、大野治長がやってきたが、予が棄丸と戦え、その結果で採用するかどうか決めると言うと、恐れて帰って行きおった。その後、連絡はない。
まあ、どーでもよい。予は現代人まじりの小心ものじゃから、自分でやるからのう。と、言うよりも自分でやらんとすまぬたちであるからのう。で、護衛兼、雑用係として五条棄丸と、ともえを伴っているわけじゃ。
「中納言、豊臣秀頼様である。頭が高い!」
「ははーっ」
棄丸の号令と共に、三人は平蜘蛛の如く平伏する」
「表をあげい!直答を許す」
「何ようじゃ!」
めんどくさいんで、予がさっさと声をかけ、会談を進める。
「さすれば、失礼して、拙者がお答えいたします」
頭をあげた高虎、予を睨み付けながら、答える。その態度、傲岸なり。とても予を尊敬しとるとはいえんのう。
「このたび、豊臣家の天下を揺るがす謀反者、石田三成をば、大老徳川家康様、ご成敗なされました」
そこで、頭を再びさげ、また予をにらむ。こいつ、予にではなく、家康に今、頭をさげとらんか?イヤなやつじゃのう。
「さ、そこで、戦のご報告を秀頼様にと………」
「ほう、今から、ここ大坂城に家康はくるというか?歓迎するぞよ」
「い、いえ……家康様、ご高齢、体調不良につき、出来ますれば、伏見城までご足労いただけないかと………」
おいおい、すごいことをその様な顔で言うか?普通。予を何だと思っておる。
ひょっとして、顔で威嚇してるつもりか、このデブ!
「おまえ、馬鹿か?なんで臣下のもとに報告を聞きに行かねばならんのじゃ?ここに来るのが当然であろう?
そもそも伏見城は我が父、秀吉様が築いたもの。それを当然の如く占拠しおって。さっさと予に返せ!」
「な、なんと言われる!拙者、馬鹿ではござらん。だ、大体、いま、天下は家康様のもの。さっさと伏見まで来られるのが身の為でござるぞ」
「おまえ、この間まで、豊臣秀長様にべったりだった癖に、死なれたら家康に嫌らしいぐらいべったりじゃのう。感心するわ?」
「な、なんと………いくら秀頼様でも……」
「ほう、ここで暴れるとでも言うか?良いとも、良いとも。棄丸、相手してやれ」
「はっ」
棄丸が大太刀を持ち、立ち上がろうとする。
「ま、待たれよ!これ高虎どの、お詫びするのじゃ。おぬしが悪い。秀頼様に口答えするなぞ、失礼千万。ここは、ここは拙者に免じてお許しくだされい~~」
黒田長政はあわてて高虎の髷をつかむと、強引にさげ、二人して這いつくばって平伏した。
「ふむ、長政殿がそう言われるなら………お父上、黒田官兵衛殿は我が父、秀吉様の御親友であり、軍師であったお方。予は尊敬しておる。ぜひ、ここ大坂城にお招きしたい。九州でご活躍とお聞きしたがいかがかな?長政どの」
「は、ありがとうございます。父、孝高は九州で、わが領土を守りおります」
「ほ、ほ、ほ。お父上が守って、じっとしておるものかよ、ご活躍、聞き及びますぞ」
「は……なんともはや……」
「それでのう?長政殿にはこれをお父上に持って行ってほしい」
予は例の『秀頼様東軍撃退』を渡す。
「こ、これは噂の書物でござるな」
「ほう、ちっとは噂になっておるかの?全国の武将にだいぶ送ったが、市井でも売っておるでのう。千部を超えたぞよ」
「は、さようでござるか。これは何とも…………派手、い、いや立派なものでござるのう」
長政、興味ぶかけにパラパラやっておる。
「さ、そこでじゃ。長政殿、この小冊子、直々にお父上に渡してもらいたいぞよ」
「は?父にすぐにでござるか?」
「さよう、さよう」
「わかり申した。直ちにこの長政、九州に帰り、父に渡します」
「うん、頼んだぞよ」
取り込んだ!かな?とにかく、黒田を九州に返せるぞよ。
にこにこしておる長政、なんということだと驚いておる高虎。
じゃが、もう喋れまい!高虎。ここで追い打ちをかけてやる。
「高虎!近々、伏見はもらい受けに行く。そう家康に伝えとけ、よいな!」
「そ、それは………」
驚き慌てる高虎を尻目に予はサッサと退室した。
* * *
「棄丸!」
「はっ」
「戦の準備じゃ~~伏見を攻める。新兵器と新秀頼軍の、力のみせどころぞ、よいな、気張れよ!」
「は、は~っ。ではこれにて!」
急ぎ戦の準備に帰る棄丸。一室に残された予とともえ。しばらくはお別れかのう?今夜がんばらねば………
不埒なことを考えておった予にともえが問う。
「戦が、徳川様との戦が始まりますのですね……もしも、もしも家康様が大坂城にいらしたら、戦はなかったのでしょうか?」
「ん?来たらもうけた!と思って、押し包んで殺す。もしもてあますようじゃったら、城に火をつけて焼き殺せばよい。まあ、来るわけないわ。狸じゃからのう、ほ、、ほ」
「あちらの体制が整う前に伏見城を攻める。そして、予と家康の戦いがはじまったことを天下に知らせる。勝てばまた小冊子を出すぞ、宣伝じゃ」
且元がすっ飛んできおった。
「お拾い様、伏見を攻められるというは本当でござるか?時期尚早ではござるまいか?」
「じい、切腹しとうなかったら、黙っとれ。戦は予の領分ぞ。内政を頼むぞ」
「は…………」
しおしおと帰る且元。ちょときつく言い過ぎたか?反省~あとで甘えて機嫌を取ろうぞよ、ああいそがし、いそがし。
などと気ぜわしくしておった所に一報がはいる。
「お拾い様、訪問者でございます」
「なに?正則来たか~~何名の兵を連れて参った?」
「さにあらず。正門に、小汚い浪人らしき集団が現れましたので、募集兵かと思い、そちらの方に廻そうといたしましたところ、真田昌幸様が一子真田信繁様と名乗られ、豊臣への臣従を求められております。五条様が急ぎ秀頼様にお伝えするようにとのことでございます」
な、なに~~そ、そのお人は、かの有名な真田幸村ではないか~~~~~~~~~~~~~~~~^~~~~~~~~~~ 「すぐ会う!今あう!準備せよ~~~」
予がばたばたあわてて、喜んでいると、皆はその名に余り感動せず、うろんな目で予を見ておる。
有名人なんだよ、このひと。
まだ活躍前だけどね。
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