第27話
「お拾い様!」
「ん?重ちゃんじゃないの?久しぶり。
何しとったんじゃ?」
「え、え~~。お忘れになったんですか?
わ、私はお拾い様の命だと思い、一生懸命やりましたのに~~~~」
「い、いや、覚えとるとも……漫画……だったかな?」
「な、なんか軽いんですけど。とにかく、ご依頼の作品が出来てございます。
岩佐又兵衛さま御謹製、『秀頼様東軍撃退』でございます」
「おお、いい名であるのう。まるで、予が東軍を打ち破って、
関が原で勝った様な感じを与える名称じゃ。
騙される奴が、い、いや。勘違いしてくれる者が出てこようぞ」
そう褒めて、(なにしろすっかり忘れておったもんで、機嫌をとらなくてはのう)
予はその
その表紙は極彩色で、巨大な馬に乗ったいくぶん小さい武者が、敵武者を何人か、馬の下に組み敷いておる絵が描かれておる。
派手な色つき表紙を持つものは、この時代、初めてではなかったかな?目立つのう、これは!
ん~~? 羅都鬼と棄丸しかおらんぞ!予はどうしたぁ?
おらんではないか~~?
「よ、予は~~~」
「その武者がお拾い様でございます。
棄丸殿を描くと、棄丸殿がかっこ良すぎて、お拾い様が目立ちません。
じゃによって、遺憾ながら棄丸殿は省いてございます」
「しかし、それでは棄丸が可哀相では……」
「棄丸殿を省くはお師匠様のご意見でござる。
偉丈夫な棄丸の背中におられる秀頼様では絵にすると目立たず、棄丸様のお子にしか見えません。
それで、勝手ながら、この様な、羅都鬼に跨る秀頼さまの絵になりました。
そうしたら、この公家顔の、お拾い様がたんと映えて、立派でござる。
なーに、家臣は主君のために働くもの、削られても、棄丸殿は何も思いませぬ。それに、もう許可とってございます」
「い、いやそんな問題ではなく、写実的ではないのがどうも……」
「現実の、秀頼様がおんぶされた羅都鬼の姿は異様で、なんとも言い難い威圧感さえありまする。
しかし、絵にすると、何とも貧相で、どうにもなりません。
師匠と共に、何度も描き直して頭を抱えておりました。
その結果がこの様な絵になり申した!」
「いかがで!!」
「あ、あいわかった」
重ちゃん、しばらく見ない間に立派になったのう。押しも強くなって。
絵師にしとくのはやっぱ、もったいない。もう一度、側近に引き戻そう。
まあ、それは後にして、中をみせてもらうぞよ。
一ページ目の上段に白黒で、雲の上に立つ仏様と秀吉様?らしき小男を見上げ、拝む子供が描かれておる。
下段には右半分にびっしり漢文が、左半分にはひらがなが書いてある。
読みたい方を読めと言うことじゃな、指示したとおりじゃ。平仮名さえ読めれば楽しめるという作りである。
なになに、なんと書いてあるのか?
『ちゅうなごん、とよとみひでより、ほとけのきょかをえ、このよのあらそいをただすため、ちえのかみのちからをえ、てんかにごうれいす。いざ、たたかいにおもむかん』
と、まあ、この様な美辞麗句を並べ立ててある。なんだか当事者としては尻がかゆいがのう。
次のページには予が英邁さをもって大阪城の者どもを信服させる様子が描き、かつ書いてある。
次々と、物語は絵付きで進んでいく。
久しぶりの読み物とて、メディアには海千山千の予が思わず引き込まれて読んでおった。
うむ、合戦の場面は再び極彩色であるか!おもしろし!
うーん、かっこいいぞ、秀頼殿~~
おもわず予は、作中の秀頼殿を賞賛しておった。
で、最後が未来図、家康を先頭に、たくさんの武将たちが平伏しておる。
めでたし、めでたし。
……完………
「なかなか良いではないか!何部刷った?」
「は、五十部ほどでございます」
「とりあえず、それを主な武将たちに直ちに配布せよ。それから、あと数百部を追加せよ。そして、余分は売ろう!」
「は……え?売るのでござるか?」
「うん、面白いぞよ、これは。原価で売り出せばきっと売れる。さすれば、予の意見が、天下の世論となろう。これは大きな援軍となるぞよ」
「は、わかりました。直ちにそのように」
重成は一礼すると、キビキビと下がって言った。
あいつ、いつの間にか使えるようになったのう。ほれぼれとその後ろ姿を見ておった。
いかん、いかん。イケメンのあいつにおなごをとられてしまうぞ。
予は心配じゃ………
* * *
東軍から?使者が来た。
徳川からの使者ではなく、東軍に参加しとった武者がきおった。
藤堂高虎と、黒田長政のふたりじゃ。
今、表御殿の大広間に通し、片桐且元に応対させておる。
且元には当たり障りのない対応をしとくように命じてある。
予は隣の部屋から、少し襖を開け、のぞきこんでおる。
高貴な人に相応しくない態度だが、予は現代人混じり、平気!である。ともえや棄丸がこまった体であるのを無視して熱心にのぞく。
藤堂高虎は大きいのう、背は棄丸と同じくらいか、違いはでっぷり太っておって、顔はひげだらけじゃ。好みでないのう、だっこされたくないぞよ。臭そうだし。
黒田長政は中肉中背で、けっこういい男であるのう。ひげも少ないし。こいつなら、だっこして、高い高いしてもらっても良いかのう………
お、予は何考えておるのじゃ、思わず、子が父親を見る目線で見ておったわ。
ん?何か言っておるわ………
「片桐殿、お久しぶりでござる。亡くなられた太閤様の葬式以来でござるのう」
「藤堂どの、お久しぶりでござる。豊臣秀長様が亡くなられてから、徳川家康殿に仕えられましたか」
「は、家康様には良くしてもらい、いかい満足しております。そしてこちらがご存じではあろうが、黒田官兵衛殿が一子、黒田長政殿でござる」
「お久しぶりでござる。やはり秀吉様のお葬式以来でござる」
「こちらこそ」
三人は米つきバッタのように、お辞儀しあっておる。
「本日は、遅ればせながら、此度の戦いの、ご報告に参った。
石田三成殿が軍を、関ヶ原の戦いにて、我ら、徳川軍が破り、徳川軍がこの日の本において、一番となりもうした」
「ほーー。それはお目出度うござる。しかし、そのおり、徳川軍は不遜にも、わが主君の秀頼様の軍を襲い、しかも撃退されて、逃げ帰ったとか………」
「い、いやそれは、逃げた宇喜多勢と間違えたもの。この件に関しては我らもお詫びいたす」
二人は深々と頭をさげた。
「さようか。じゃが、我が主君、秀頼様は厳しい方でござるで、お許しならんとおもいますぞ」
おう、且元、そのとおりじゃ~~
「し、しかし、八歳の子がいくら秀でていようと、戦の指揮が執れるはずがござらんではないか。且元殿、おぬしか、側近がほんとは指揮を執ったのでござろうや?」
なに~、こやつ、失礼な………
「いやいや。これが本当に指揮を執られたのじゃ。しかも、戦のただ中にも出られてござる。怪物馬に跨った、棄丸という豪傑の背中でな。大活躍であったと聞き及びまする。
それにより、『おんぶ大将』の異名を得られてござる。ここ、大阪では神のごとく思われておられまする」
「あの噂は、本当のことでござるのか?」
それまで沈黙しておった長政が初めて口を開いた。
「これこれ。秀頼様はバテレンの傀儡ではない。鬼神が乗り移られただけじゃよ、豊臣にとってはすばらしきことですがな」
「なるほど………確かにあの天海どのの仕打ちはいけませんでしたから」
そう言う長政を遮って高虎がいいおった。
「まあ、少し間違いがあったかもしれませんが、今、一番は徳川様じゃ。
ここはひとつ、且元どの、よきにはからってくだされ」
このやろう、強引に何を言いおる。一発、蹴りをいれとかんといかん。
「これ、ともえ、棄丸。今から予は乱入する。手伝ってくれ」
「え?」
「ど、どうされまするので?」
驚きあわてる二人に手順を素早く説明する。
うなずき、笑うふたり。
「な?おもしかろう?」
「は、はい。ふふふ」
予は黒い目隠しで目を覆う。だが、小さく穴を開けて外見にはわからんが、結構見えるようにしておる。
「では、はじめよ!」
ともえは口に手を当ててラッパにして歌い始めた。
「♪おにさんこちら、てのなるほうえ~~」
「お拾い様、こっち、こっち、こちらですぅ~~ほほほほほ」
「♪おにさんこちら、手の鳴るほうえ~~」
いまじゃ!
襖を大きく開け、部屋に駆け込む。
「ほ、ほ、ほ、ほ。どこじゃ、どこじゃ、ともえはどこじゃ~~」
叫びながら、手を広げ、ふらふらドタドタと、目が見えない風にして三人に近寄る。
「な、なな~」
「うおっ!」
且元まで驚いておるぞよ。
どこじゃ、どこじゃといいながら、高虎の元に近づいた予はここぞとばかり下腹を蹴り上げる。
「ぐわッ」
ひっくり返り、腹を抱えて苦吟する高虎。
長政はあっけにとられて、呆然としておる。
意外とこいつ、融通がきかぬのう、やはり坊ちゃんか?冷静に考えながら、『ほほほほ』と言いつつ下手に下がり、襖を開け、隣の部屋に消える予であった。
「ぐふふふ」
「フフフフ」
「ほほほほ」
ひとしきり、声を殺して笑った三人であった。
「いざ、正式にはいらん、棄丸、ついて参れ」
「は、お待ちあれ、今、声かけまする」
棄丸が居ずまいををただして叫ぶ。
「中納言、豊臣秀頼様のおな~りい」
いざ、いかん!
* * *
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