第26話
いやー、火炎弾の材料としては、アルコールはちょっと問題があるのう。
その威力は予想以上で、敵にこれをバンバン投げつけたら、威力あるぞ。
接近戦の多いこの時代には有効じゃ。
近くで投げられたら、太刀打ちできる敵はいまい。
武器として、魅力があるのう……
が……じゃ。
いかんせん、この時代の者にとって、飲むと美味過ぎる!
かように酒として人気があると、盗み飲みされて、肝心な時に中味が無い!ということになりかねん。
それに、アルコールは製作に手間がかかる。
そして、金が、半端でなくかかるし……
うーっむ、頭痛いのう、ズキズキするぞよ。あ、これは二日酔いかも?
そこにほら、孫一、棄丸、五郎の面々が、地べたに転がって、苦吟しておるぞよ、ほ、ほ、ほ。
「どうした、どうした、だらしない。
おぬし等、酒の豪傑ではなかったのか?」
「め、面目しだいもござらん」
頭を抱えて、蚊の様な情けない声で答える棄丸。
孫一なんか、うめき声で答えるのみ。
五郎に至っては無言じゃ。
ああ、弧理庵は平気のようじゃなぁ
患者の世話で忙しく動き回っておるわ。
なにしろここの怪我人ども、強い酒で麻痺しとったか、怪我の身まま、平気で踊りまくりよって、今ごろその傷の痛みで苦しんでおる。
「こりゃ~。怪我したまま激しく動けば痛むのは当たり前じゃ、これで強い酒に懲りたろう。
ちなみに予は懲りたぞ、二度と飲まん」
「へ、へい。ですが、直ったら、ぜひもう一度、あの酒、飲ませてくだされ。
今度の戦で、手柄を立てまするで」
「拙者も」
「拙者も、いたた」
こりん奴らよのう……
ならば戦の報奨品によいかも?
「ならば、次の戦の報奨品としてすこし出すかのう?」
「ウおーっ」
「有難し、がんばるぞ~あいってて」
とまあ、こんな感じであった。
もうひとつ火炎弾の成分が見つかった!
予が木砲の材料の材木を主に調達してる材木屋の親父に、直々値引きを強要しておる時であった。
「のう、もう一割は負けてくれ、さすれば、独占的に、大量に買おうではないか!」
「これはしたり、秀頼様、高貴な方がお金のことを言われまするか?」
「言うに決まっとろうが!予を誰とおもっとる。おんぶ大将と異名をとる
「し、仕方なし。ですが、一割引きでは利益が余りござらん。炭なども扱わせてくだされ」
「おう、良いとも、良いとも」
話は大体まとまって、その後、楽しくお茶のみ話をしておる時であった。
ふと思いついて、よく燃えるものについて聞いてみた。
「そうでございますな、木ではおが屑なんぞが、一たび燃え始めれば長く燃えますなあ。
ちょいと着火が悪いでございますが……
そうそう、もうひとつ思い出しました。 炭を作るときに出る、液状のものが着火性がよく、かつメラメラ燃えますなあ」
「なに?そのようなものがあるのか、直ちに取りよせい!」
「わかりました。廃物でございますので、少々は無料で結構でございます」
「ん、有難し」
* * *
で、ここにその材料がある。
その正体は、木タールであった。
西洋では、船板の表面に塗られ、腐食防止と、防水に使われるしろものじゃ。
殺菌性があるで、これは、アルコールの代りに、殺菌、消毒剤としても使えるのう。
確か、北欧では傷の手当に使うと言う事を思い出したぞ。
この代物を、アルコールと同じようにとっくりに詰めてみた。
それと、おがくずも俵でもらってたから、木タールと混ぜたのも作ってみた。
そしたら、両方とも結構いける!
特におがくずと木タールを混ぜた奴が良かった。
我らが見守る中、木タールとおが屑のとっくり弾は、案山子に向かって投擲された。
「バリン!」
音とともにとっくりは破裂し、おが屑と、木タールの混合物は案山子をおおいつくし、ブスブスと燃え始めた。すごい黒煙じゃ。
次の瞬間、全体に火が広がり、メラメラと燃え始めた。アルコール弾の爆発的な火炎とは違い、しぶとく燃えるという風じゃ。
「ちょっと水をかけて見よ」
「はッ」
案山子には桶で水がかけられるが、消火しない。むしろ炎の勢いがました。メラメラとしぶとく燃える……
うん、敵に着火したら、すごく有効じゃ。
「これは……強力な……」
アルコール弾と木タール弾を併用すれば強力な武器になるぞよ。
「うん、出来たのう。専門の兵士を作るぞ」
「え?」
「はあ……」
驚きはするが、予のすることを信用してる孫一、五郎は直ちに行動を開始した。
城下、近郊の素人を募って兵を集めた。
その数、約千人、すぐに集まったわ。
そして、とっくり弾の訓練が始まった。
ああ、それから投擲しやすいようにとっくりの尻に棒を取り付けた。
丁度第二次大戦のドイツ軍の棒状手榴弾を真似たのじゃ、そしたら投げやすく、飛距離も伸びた。 そして、訓練で、とっくりを使うと金がかかるので、同じ重さに石で作り、とっくり弾の訓練をおこなっておる。
もちろん、木砲も訓練を行っておる。
大工や左官を集めて、百門以上は製作した。
後は訓練じゃ。
砲持ちは集めた素人にやらせ、照準、発射は雑賀や、根来の兵を使う。
言い忘れたが、この頃は、雑賀や根来から鉄砲兵を募って、何百人かに秀頼鉄砲隊は増えておる。
木砲訓練と投擲の訓練で、大阪城そばの広場は大賑わいじゃ。
「投(とう)!」「投(とう)!」
「打(てっ)!」「打(てっ)!」
にぎやかじゃ~
あの孫一も、木砲の照準兵として、日々訓練をしておる。
木砲は、そのまま発砲では火薬の消耗や、砲の損傷がたまらんので、火縄銃にて通常は訓練をする。
「てっ!」
孫一は叫けび、木砲の上の火縄銃が発射された。
50メートル先の的に、穴があく。
「オ、オー」
廻りの雑賀衆から賞賛をうけて、得意になっておるのう。
「これこれ、いい腕じゃのう、孫一。さすが二代目!」
「これはこれは秀頼様。いかがされましたかな?」
長大な火縄銃を木砲からはずし、肩に担ぐと寄ってきた。
「ほう、なかなかに、立派な銃じゃのう。銃身になにやら模様が刻んであるのう、それはなんじゃ?」
「ヤタガラスでござるよ。3本足の神鳥にござる。この銃の愛称が『ヤタガラス』でござるで」
「ええっ!」
孫一の側にいた参吉が驚いた。
「何時の間に、『ヤタガラス』を親父さまから譲り受けられました?」
「あのくそ親父がくれるわけなかろう!黙って頂いてきただけじゃ」
「し、しかし、それでは……」
「これぐらい良いんじゃ!あの親父のおかげで、母とわしはどんな目に合ったと思っておる!遠征から雑賀に帰ってきても、家にはちっともおらんで、おなごの家を泊まり歩きおって……
老後はわしが面倒みれってか?この銃ぐらい貰っても、良いじゃろ?」
「はあ……しかしお頭、いまの生活は、先代そっくりではござらんか?」
「う?……
お、親子じゃから似るのは仕方なかろう!」
こいつ等と居ると、アホくさくてこころが休まるわ、ホ、ホ、ホ。
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