第29話

はいると、そこには、小男が平伏しておった。

 ……小男?………

 予は命じる。

 「くるしゅうない、面(おもて)を上げよ」

 男は、ゆっくり面をあげる。

 なんだ、なんだ、中年の、小太りのおっさんではないか?

 しかも丸顔で、どことなく、無精ひげのせいかどうか、小熊に似とらっんか?

 テレビや劇画の影響(?)か、予は紅顔の美少年と思っておったので、がくっと来たぞよ。

 まあ~~現実ってこんなもんだよなあ~

 仕方ないわ、じゃがガッカリしたぞ。やる気ないぞよ。


 予はぼーっとして田舎くさい無精ひげだらけの男を見つめておった。

 「お、お初にお目にかかりまする。拙者、真田昌幸が次男、真田信繁にございます。父の命に

より、はせ参じてございます。な、なにとぞ臣下にお加えくだされませ。は、はーっ」

 再び、土下座する信繁である。

 むう~~~

 予はなんとしたことぞ!遠くを、はせ参じてくれたものを、その様な目でみるとは!

 反省じゃ~~~。

 「うん!よくぞきた!待ちかねておったぞ。あの名高い真田昌幸どのが一子、信繁どの。

 さっそく召し抱えようぞ。そなたの父もどうじゃな?」

 どの様にあしらわれるか心配しとったようで、明らかにホッとした様子で信繁は答える。

 「は、父は徳川から隠れて逃れるため、遅れておりますが、おっつけやって来るに違いござらん」 

 「おう、来られたら、ぜひ一軍を率いてもらうぞよ、楽しみにしておるぞよ」

 「は、は、有り難し!」

 平伏して感激に、肩をふるわせる信繁であった。


 「ところで、ひょんな事を尋ねるが、そちゃ幾つじゃ?」

 「は、今年で、三十四になり申す」

 「ほうー、そうか」

 まあ、三十四歳では紅顔の美少年にはなりようがないな、しかもこの時代、老けて見えるで、予が四十過ぎに見間違えたのは仕方がない。

 あ?そうじゃ、それでは実際、大坂夏の陣の頃なら、初老の武将であったんじゃろうなぁ。予のおかげで、夏の陣があるかどうかはわからんが…………

 しかも、名からして違うから、イメージ、狂うのう。幸村じゃないし。

 あの名は後生のあだ名か?どうやら生前には使われとらんらしい。

 ならば………与えるのみ!

 「うん、そうじゃ。そちがここ、大坂城に来てくれた記念に、名を使わそう。今後、真田幸村と名乗れ、よいの!」

 「は、は~。あ、有り難き幸せ!」

 「いやいや、そのほうがこっちもしっくり来るでのう」

 「は?………と、とにかく励みまする~~」

 「うむ、よろしくのう。それで、徳川軍と真田との戦いはどの様であったのかな?大活躍で、徳川秀忠を退けたと聞いておるが。

 あやつめ、おかげで関ヶ原の戦いに間に合わず、廃嫡寸前と聞くぞ、いい気味じゃ、ほ、ほ、ほ。  じ、じゃがそれでも西軍は東軍に勝てなかったとはのう、全然だめではないか!」」

 「は、わが真田勢、三千五百。徳川秀忠軍三万八千を打ち破ってござる」

 「す、すごい!聞かせてくれい!」

 まあ、大体のところは知ってるんだけど、本人から聞くなんて、こんなチャンスないしねえ。


 「さ、さすれば、拙者、田舎ものにて、話し下手なものにて、好きな、琵琶法師の調べにておおくりいたします」


 な、なんじゃそりゃ?


 「べ、べん、べん」


 く、くち琵琶かい~~


 「祇園精舎の鐘の声ぎおんしょうじゃの かねのこえ~ 諸行無常の響きあり~しょぎょうむじょうの ひびきあり

 沙羅双樹の花の色さらそうじゅの はなのいろ~ 盛者必衰の理じょうしゃひっすいの ことわりをあらはす~

 おごれる人も久しからず~ ただ春の夜の夢のごとし~

 たけき者もつひには滅びぬ~ ひとへに風の前の塵に同じ~」


 おいおい、平家物語と違うんかい?予には意味わからんし………


 「べん、べん。ホ、ホウ~

 徳川勢、上田に押し寄せ~、真田、風前のともし火なり~

 わが父、真田信幸、英邁なり~

 ホウ、ホウ~~~

 奇計を持って、三万八千の軍をあしらう~

 ホウ、ホウ~

 べ、べんべん」

 ………………と気持ちよさそうに歌う歌う、信繁改め、幸村であった。


 しかし、こいつ、えらくホウ、ホウとぬかすのう。

 緊張がとれたか、こやつの口癖のようであるのう。今後、ホウホウオヤジと命名しようぞ、ほ、ほ、ほ。幸村には内緒じゃがのう。


 ………………………………………………………………

 ………………………………………………………………


 おお、やっと終わったか、長かった~~~


 「やんや、やんや。すばらしき活躍じゃのう。秀頼、感激したぞよ。でじゃ。予も活躍してのう、これを見よ!」

 肩をそびやかし、自慢の「秀頼様東軍撃退」を見せる。

 「ホウ、ホウ。道中、聞きましたぞ。秀頼様が活躍談、その書物があると、もっぱらの噂でござった。これがそうでござるか?ホウ、ホウ」

 そう言って、パラパラとめくって、見入る幸村であった。

 「うむ、そしてじゃ!今から、予は攻める!わが父、豊臣秀吉様が築いた伏見城を取り返す。その為の軍も、まあ、出来た。新兵器もあるでな。腕試しじゃよ、ほ、ほ、ほ」

 「ホウ、左様でござるか?しかし、この間、西軍が攻めたが、徳川勢、たった千数百人で防いだと聞き及びますぞ。落ちたのは内部の甲賀者を裏切らせて、やっとであったと聞き及びますぞ、ホウ。

 なんぞ、奇計でもありますのでござろうか?」

 「いや~予はいくさにはど素人である。じゃによって正攻法よ。正門を攻める。ぶち破って攻め入るのみ!」

 「ホ……しかし、無理では?」

 「大丈夫、新兵器がある。まあ、幸村、ついて来い。予の軍勢の戦いぶりを見せてやるわ」

 「ホウ。邪魔にならぬよう、真田勢、百人。ついていきまする」

 「おう、ついて来い、ついて来い」


 これにて、会談は終わり、次に棄丸との作戦会議が始まる。


 * * * * * * *


 まずは伏見城の守りについてじゃな。


 手に入った地図と、あそこにおった者の話からするとじゃ………



 外側半分は、水をたたえた堀。これが浅そうだが、幅広い。二十メートルぐらいあるのではないか。 ここを渡るのは防御をかためた船がないと無理。

 そんなもの、今のところないから渡らない。


 そして残り半分が、十メートルくらいの高さの石垣である。


 この作りがすごい。戦国時代も末期とて、築城技術がかなり上がっておる。

 まして、天下の大金持ち、豊臣秀吉様の隠居城だったところ、金に糸目をつけず、石組みをしてある。

 きつきつに組んであって、手がかりすらない。しかも、傾斜角が限りなく九十度に近い。

 ここを乗り越えるのは、なにか、中世のヨーロッパの攻城機でもないとのう。じゃが、狭くて山だらけのの日本、しかも山を利用した城ぞ、そんな物を据え付ける隙間がないわ。

 ハシゴはだめに決まっておる、内側からの手引きでもあれば別じゃがのう。


 もちろん、そんな工作、しておらんぞよ。


 城の、山ぎわの部分には、この石垣が延々と続く。その中に、入り口があり、それが大手門である。 正門である大手門は木製ではあるが、分厚く、鉄で補強してある。

 この正門までは、十何メートルも両側に石垣が続く、緩やかな坂道である。 

 ここから攻めようとすれば、正門に到達するまでに、両側の石垣の上から攻撃される。

 しかも、正門の周りには銃眼が並んでおる。

 従来のやり方では、ボコボコにされるぞ。下手をすれば全滅しかねない。

 しかし、予には、新たに考えた新兵器がある。そいつを揃える金もある。

 両方で、火力は従来の約十倍はあると思う。

 新兵器でもって、強引に正門を攻撃する。これが良かろう。

 家臣の反対もあったが、他にないし、これでいけると思うぞよ。

 これにて決定!


 いざ戦わん、羅都鬼(ラッキ)よ、いま行くぞよ~~

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る