第30話

我が方の『草』が調べた報告によると、現在、伏見城は焼けた天守修復中であり、『関が原の戦い』で破られた正門や、石垣は、現在、修復されてしまっておるとのこと。

 そして、われ等大坂城に、徳川方がにらみをきかせる拠点となっておる為、一時は全国の親、徳川方大名が派遣してきておった兵たちで、一万を超えておったようじゃが、膠着状態が長くなった為、みな本国に帰り、いまおるのは家康の家来のみだという。


 その数、約二千。少ないのう………この数はチャンスかもしれんし、罠かもしれん。

 あの海千山千の家康のこと、予が伏見を攻撃をするのを待っておるのか?あの無礼な高虎はわざとで、予を怒らせる為であったのかもしれん。


 あのあほさ加減、とてもそうは思えんが……


 それなれば、ここで伏見を攻めるは、愚かか意味をもしれんが、それでも予は攻める。

 天下に予を知らしめる為、そして、天下はまだ家康のものではない。全国の武将にまだチャンスはあるぞ、そして、その挑戦一番目が豊臣秀頼であると言うことを知らしめんが為、予は徳川を攻めて勝たなければならん。


 ………………というのは理屈で、本当は大坂城に籠もるのがあきたのと、新兵器を使いたかっただけかも?


 ま、どちらでも良い、とにかく新生、豊臣軍は会談後、三日にて伏見城を出発した。その数、約六千。

 人数的には、伏見城を攻めるにはかなり少ないのう。


 火砲部隊が、孫一を長として、雑賀衆、紀州衆に、新たに雇った兵を加え、約二千。

 鉄砲隊、木砲隊、とっくり投擲隊が含まれる。

 斬り込み隊が、五条棄丸を長として、五郎を中心とした長槍隊。毛利、宇喜多の兵の一部。大坂で集めた新兵。以上で約二千。

 荷駄を担当する輸送部隊と、それを護衛する部隊があわせて約1千人。なにしろ、荷物がやたら多い部隊じゃからのう。そして、この部隊には新人兵が多い。

 まあ、徳川方はまだ準備が出来ておらんはずであろうから、新人でも、荷駄の護衛は大丈夫か?と思う。

 残りが伏見城の周りを囲み、警戒する兵となる。後詰めも兼ねておる。

 ああ、それから、予の護衛として、ベテラン約百人が予の側にへばりついとる。

 

 朝靄の中、大坂城を出発した豊臣軍の真ん中あたりに、予は羅都鬼と棄丸とともに進む。


 「お拾い様、伏見につき、草からの情報でござる」

 「ん?、なんじゃ、棄丸」

 「は、昨晩遅く、伏見に藤堂高虎の軍勢、約二千が急ぎはいったそうでござる。昼夜を問わず駆けつけた模様で、皆、疲れた顔であったそうでござる。中には、鎧、兜を着ておらん兵もおった模様」

 「ふむ、左様であるか。高虎め、また家康へのゴマすりか。まあ、そこまでやれば感心するわ。

 目にもの見せてくれようぞ」

 予はみなに檄をとばす。

 「皆のもの!はりこめ(気合をいれてがんばれ)!伏見を取り戻そうぞよ!!!」

 「うおーっ」

 「はりこめ!はりこめ!はりこめ!」

 意気軒昂いきけんこうじゃ、行軍する部隊にそって叫びが広がっていく。

 うーむ、予の軍勢じゃのう……… 嬉しいわ~~~


 ああ、そうそう。戦車も今回、投入する予定。

 あ、ご存知の、『ズガン、ズガン』と撃って走行するあの戦車とは違う、もちろん!

 

 この時代、全木製の、二輪荷車がある。車輪、車軸(車輪を支える棒)、荷台すべて木製。釘も木釘である。みごとに木ばっかりで出来てる。

 しかも、けっこう高価であるし、町中でしか使えん。とにかくどこ行っても坂坂、でこぼこの道ばっかりじゃからのう。

 これを見て、半分冗談で作ってみた。装甲荷車じゃな。

 でも、戦いに使うくるまだから、戦車、じゃろ~~?ホ、ホ、ホ。

 荷台の底を人が入り込めるように抜く。そして、大坂城の武器庫にあった、よろい用の薄い鉄板を貼り付けた木板で、荷台の前面側面と後ろを地面近くまで覆う。

 正面、側面、後面すべてに、小さいのぞき穴が細く長く開けてある。

 その中に2人入り、普通引っ張る方向とは逆方向に、鉄板の内側につけた押し棒を持ち、穴から外を見つつ、押しながら前進するというわけである。

 つまり、荷台の方を前にして進むわけじゃ、当然、通常と逆に進む。

 さっそく実験してみた。お、重い~~~

 車軸が木じゃから、現代のベアリングを使った車軸と違い、動きが悪く、当然ながら、動かすのに力が要る。そんでもって、鉄板で重い。よろよろとしか進まん!

 それで、天板は鉄ではなく、竹板で葺いた。これでかなり軽くなった。

 そして、防御は、周り鉄板で、地面ギリギリまでおおっておいて、前進するわけである。

 二輪だから、前面の防御壁は車軸の角度で調整できる。

 この鉄板で、地面をこするように前進する。

 この鉄板さえ、敵の銃で撃ち抜けられねば、大丈夫(?)

 実験では、この鉄板、みごと火縄銃の玉をはじき返した。

 これは何とか使える!ということでここにある。

 これを使えば、鉄砲、矢を防ぎながら敵陣近くまで行ける。

 ただ重たいし、まともな道がなければ進めない。ところが、この時代、まともな道はすくない。

 幹線でさえ、せいぜい砂利を敷き詰めた土の道である。アスファルト敷きみたいな、平たい道はない。

 だから、まあまあ道の整備された正門、大手門を攻撃するのには使えるじゃろう。

 文字通り、戦う車輪の戦車いくさくるまに、露払いをしてもらうわけじゃ。

 上手くいくかのー、やって見なければわからんのう。


 いよいよ伏見城攻略の始まりじゃ。

 正門をはるかに見える石垣の入り口付近に、秀頼火器部隊の全員が集結した。

 その陣容は、以下の通りである。


 孫一率いる木砲、木散弾砲。そして鉄砲隊。

 五郎率いるとっくり焼夷弾兵、戦車。そして護衛の槍兵。

 後方に控える、棄丸を隊長に、毛利兵、宇喜多兵、などからなる斬込隊。

 ずっと離れて、予と護衛兵による本陣。

 さらに後方に火力兵器を運んだ補給部隊とその護衛の新兵達。 

 そして裏門や、城の周りをおさえる役目の部隊、後詰めも担当。

 以上である。


 予の陣取った本陣から、遠く、小さく、石垣の奥にある大手門が見える。

 三百メートル近く離れておるが、細部までよく見える。この時代、パソコンもゲームもないゆえ、皆、予も含め、目が良いからのう。

 われらがここに陣取ったとゆうのに、敵は静かじゃ。満を持して待っておるということかのう、旗さしもの一つ見当たらん。誰もみあたらん。

 きっと、石垣の影や銃眼にお裏に、多数隠れておるに違いない。

 予が攻めるのを、今や遅しと待ち構えているのであろうのう……


 さすれば、ご期待に沿って攻めるとするか!ただし、予の攻め方であるがのう、さぞかし驚くにちがいないぞよ。


 「いざ、はじめよ」

 「はっ」



 始めの合図として、本陣より、おやじ様ゆずりの、千成瓢箪が振られる。その金色の瓢箪、が大陽光線を反射し、きらきらひかる。


 「攻めよ!はりこめ!はりこめ~~~~い!!!」


 号令と共に、始まった!


 『ズガ、ガ~ン〉〉〉』


 一斉に両側の石垣にめがけて放たれる500丁ちかい鉄砲の斉射。

 当てるためでなく、しばらく、敵が石垣から頭を出さぬようにするためである。

 その間をぬって、弾丸を防ぐ為の竹束に守られ、投擲兵達が素早く石垣に囲まれた道にはいりこむ。


 両側に、素早く、掛け声とともに、火薬に点火したとっくり焼夷弾を投げ込む。


 「投(とう)!」

 「投(とう)!」


  花火のように煙を放ちながら、とっくり焼夷弾は十メートルの高さの石垣の上に落ち、ボアッという音と共に発火する。一瞬の後に、石垣の上が黒煙に包まれる。

 一メートル間隔で次々と石垣に沿って投げ込まれていくとっくり焼夷弾。

 次々発火した、黒煙に包まれていく、両側の石垣の上。

 最初に投げ込んだところは、もう黒煙ではなく、メラメラと炎をだしてもえあがっている。

 

 「うわー」

 「ぎゃー」

 「た、たすけてくれ、火が、火が消えん!」

 「消せ~~~~」

 「反撃じゃ、撃て撃て~~」


 隠れておった敵兵の悲鳴。

 反撃しようとして、とっくり弾の直撃をくらい、火だるまになった敵兵が落ちてくる。

 静かだった伏見城が、一瞬のうちに阿鼻叫喚となる。 

 風に乗って聞こえてくる敵の声である。

 味方の掛け声も聞こえてくる。


 「それ、それ、それ!とう、とう!」

 「はりこめ、はりこめ!」


 うむ、『はりこめ』が掛け声として定着してきたのう。

 まるで、冷静な予がそこにはおった。


 敵兵の反撃、火縄銃の音、音、音。

 大量の矢も石垣の上から飛んでくる。鉄砲は少ない、散発的じゃ。

 敵は石垣の縁付近は火災のため、近づけない。

 その為、少し遠くから、山なりに弓を撃っておるらしい。

 しかし、矢は竹の束で用意に防げる。それに、めくらめっぽうの射撃のため、こちらに被害は少ない。

 鉄砲は山なりには撃てんからのう、狙い通りじゃよ。


 孫一率いる鉄砲隊は、大量の竹束に隠れつつ、寝撃ちや、立ち撃ちを臨機応変に用いつつ、投擲兵の援護射撃をおこなう。

 投げ終わった投擲兵は、竹束に隠れつつ後退する。そして再び、新たなとっくり焼夷弾をもつ投擲兵が竹束に守られ、前進し、より少し前の、石垣の上へ投擲する。

 炎と煙に包まれる石垣がだんだんと長くなってくる。

 炎の壁にも次から次へと投げ込み、火の壁を強化する。

 石垣付近に潜んでおった敵兵はひどいやけどでその場で死んだか、大やけどで、もう戦えまい。

 新たな敵兵も炎の壁を突破することが出来ず、おろおろするのみ。

 

 おう、今、ひとりの投擲兵が不運にも、矢に貫かれた。

 投擲兵は点火したとっくり弾をもったまま、倒れた!やばい、その場で破裂したら大変じゃぞ!

 その兵が落としたとっくり弾は幸運にも割れず、ブスブス火薬を燃やしながらころがっておったが、あわててそばの兵が拾い、近くの石垣になんとか投げた!

 少し届かず、上ではなく、石垣の壁の上方に当たった。

 その瞬間、割れて発火し、おがくずと木タールの混合物が流れ落ちたその上を、火が燃え落ちて来る。 石垣の上の方から、火流がおりてくる、まるで火竜が降りてくるようじゃ。恐ろしくも、美しいのう。


 「うわー、きれい!」

 横におった木村重成が言いおった。

 ああ、言い忘れておったが、こいつはともえの代わり、秘書見習いとして、予の側におる。

 「ふん、あれが身体についたら、熱いぞー」

 「そ、そうですね」

 と、まあ、この様に、予の話し相手となってくれとる。


 お、石垣の上の、敵の抵抗が止んだぞ。焼夷弾に恐怖して、撤退したとみえる。

 いまじゃ!


 「重成、戦車じゃ、戦車!直ちに発進するよう、伝えよ」

 「は!」


 小さな身体に、豊臣家、母衣武者の印である黄色い衣をまとった重成は、全速力で駆け、待機しておった二台の戦車に伝えた。


 「おう!発進!」

 「いちに、いちに」


 大げさな大声と、掛け声とはうらはらに、よろよろと進み始めた。

 おそい、おそい。排除したとはいえ、危険な石垣の間の凸凹道を、必死で進んでいく二台の戦車。

 「勇まし!勇まし!」

 戻ってきた重成が手をたたいて喜ぶ。

 なに、あの、よろよろ車がか?

 そう言って、喜ぶ重成をからかおうとした予は、周りの護衛の槍兵たちも目を輝かせ、手をたたいているのを見て、驚いた。

 「ふーむ、そうか?」

 予は周りの反応に戸惑い、重成をからかいきれず、キレ悪し。

 「はい、お拾い様考案の戦車、勇まし、です」

 「ふん……そ、それは良かった」

 キレ悪く答えた予は、再び戦車に注目した。

 大手門周りの銃眼からの弾丸は飛んでくるが、跳ね飛ばしつつ、進んでいく戦車たち。

 さすがにココの銃眼まではまだ火がまわっとらんので、反撃してくる。

 目指すは大手門じゃ。それは大きく、頑丈な木の門である。

 ついに大手門に近づいてきた戦車たち。

 しかし、さすがに正門近くでは銃眼や、石垣の上から、銃弾や、弓矢を浴びせられ、ついには立往生してしまった。

 勢いづく徳川勢。ここぞとばかり二台の戦車に攻撃が集中する。

 鉄板はよくその攻撃に耐えておるが、もうボコボコじゃ。中の投擲兵たちは、必死で耐えておる。


 「孫一!木砲で、援護射撃せよ」

 「はっ」

 孫一を射撃手とする三人の木砲隊が出てくる。

 「戦車あぁ!両側によれい!真ん中を空けよ!」

 孫一の指示で、あわててよろよろと両側に戦車がよった。

 門から、数十メートル離れて、木砲は止まった。二人のかかえ砲兵は、廻りに突き刺さる敵の弾丸に耐えて、肩に抱え込む。

 まあ、遠いから当たらんじゃろう。数もすくないしのう。

 孫一は後尾にて照準を慎重に合わせる。


 「まだよ、まだ、まだ……」

 「てッ」

 『ドゴーン』


 木砲の、火縄銃と違う、凄みのきいた音が響きわたる。

次の瞬間、大手門の頑丈な扉の真ん中に、砲丸は命中した!

 大手門は激しく振動した。その屋根瓦は、衝撃で滑り落ち、門には大きなひびが入った。 

 驚いた敵の攻撃が、一瞬、止まった。


 「いまだ!」


 戦車から飛び出した投擲兵たちは、門にむかってとっくり焼夷弾を投擲する。

 門、全体に火炎の華が咲く。

 メラメラと黒い煙を上げて燃える大手門。

 まことに、焼夷弾のすごさよ!

 門には、先ほどの衝撃で、ひびが入っている上に、投じられた焼夷弾の中身である、おがくずとタールの混合物がしみこみ、へばりつき、十分に燃やした。

 しばらく燃えたあと、攻撃の第二段階である。


 

 戦車を両脇にうっちゃり、大きく開いた道の真ん中に、再び現れる孫一率いる何門もの木砲。

 ドゴン、ドゴンと鉄の大玉たちが飛ぶ。

 脆くなっていた門は耐え切れず、轟音と共に、崩れ落ちる。


 ついに大手門が開いた!!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る