第31話

やった、突破口ができたぞと予が喜んだのもつかの間、崩れた開口部に舞い上がるほこりの中に、黒い影が見える。て、敵の集団じゃ~~~

 こ、これはイカン。こんな事は想定してなかったぞ。門が崩れれば、徳川勢、心折れて逃げるか、降伏すると思うておった。

 棄丸は、ど、どうするんじゃろうか………


 長槍を持った黒具足の兵たちが、中から、ゾロゾロ出てきた。

 

 「反撃じゃー」

 

 「今こそ、三河衆の力、みせようぞ!」


 「おぉーー」


 喚きながら、出てくる出てくる。

 あっという間に、道が黒具足でうまった。

 遠く、本陣から見ておると、巣から兵隊アリがわいて出てるかの様にみえる。

 こ、これはなんか怖い光景だのう、と思ったその時。


 「ドゴーン」


 何時の間にか交代していたか、木散弾砲がうなる。

 何門もの砲から、大量の玉が飛び出し、大きく広がっていく。

 黒具足の先頭集団は、横殴りの雨のように、弾丸を受け、バタバタと倒れ、血まみれの堤防をつくる。

 黒軍団の突進がとまった。

 再び投擲兵の群れが現れた!停滞した黒軍団に、大量のとっくり焼夷弾を投ずる。

 空中に、きれいに花火の煙を引きずりながら、落ちた悪魔は、火の華を咲かせる。


 「うわーー」「ぐわーー」

 「熱い、熱い!」


 火だるまで転げまわる、とっくり焼夷弾の直撃をあびた黒具足たち。

 悪魔の液体を浴びるのが、少しですんだ者達は、武具を脱ぐのに必死じゃ、戦うどころではない。


 「いまぞ、斬込め!」


 棄丸を先頭に、斬込み隊二千が突進する。


 「うわーっ」

 「はりこめ、はりこめぃー」


 「こ、後退じゃーーー」


 徳川勢は、大量の死体を残したまま、城中に後退し、それを追って、斬込み隊が突入する。

 その後を追うように、孫一と、五郎率いる、鉄砲隊、投擲兵が続く。

 鉄砲兵と投擲兵はどうやら一対で行動して入る模様。お互い、カバーしあって行動をしているようじゃ。

 うむ、新しき運用か?後で、習おうぞよ。現場に予は弱いからのう、頭でっかち指揮官じゃよ………


 伏見城には、あちこちに火が上がり始めた。黒煙が城を覆い始めている。


 「勝ったな、これは。それにしても、ものすごい戦じゃったな。すごく金がかかったぞよ。

 大坂城の金蔵の金、一割は使ったんじゃないか。徳川家康に勝つまで、金が持つかのう。とほほ。」

 

 戦いの興奮もさめ、黒焦げの徳川兵を眺めながら、たそがれておった。

 こんがり焼け焦げた、兜の中の黒どくろをぼんやり見つめ、すまんのう、成仏しろよと、柄にもなく考えておった。


 

    で……………罰が当った!



 「お、お拾い様、お拾い様! て、敵が後ろより迫っております!」


 木村重成が叫ぶ。


 「な、なに?どこからわいた、伏兵か???」


 見ると、最後尾の補給部隊が襲われておる。

 赤い具足の兵団に襲われておる。しまった、気楽に考えすぎた。これが敵の手であったか。

 予も見え見えのに引っかかっておるな。じゃが、数は多くないぞよ、約千人くらいか。

 このぐらいなら、助けが行くまで、護衛兵によってなんとか…………

 って、全然だめではないか~~~護衛部隊が機能しておらん。

 護衛兵どもめ、荷駄兵と共に逃げ回っておるではないか。

 なんと情けない。いくら新兵とはいえ、少しは立ち向かわんか~~

 敵は、強兵ぞろいの徳川譜代衆でも、最強とうたわれた武田残党からなる、『赤備え』の異名をもつ井伊衆ではないか!

 う~~ん、赤具足が目立つのう。

 やはり、浪速なにわ兵はだめじゃのう。

 都会兵で、いらぬ知識は豊富じゃから、『赤備え』のことも知っておる。 

 最初からビビッておるわ。逃げ惑うのみ。何の役にもたっとらん。

 これはいかん、すぐ我ら、本陣も襲われるぞよ………


 「後詰めの兵たちはどうした!直ちに呼べ!井伊衆に立ち向かわせよ!早く!」

 「もう、伝えておりますが、城の周りに広がりすぎて、すぐには間に合いません。再集結は、時間がかかりまする」

  

 うーむ、間に合わんであろう、それより、城から棄丸達を呼び戻した方がよかろう。

 わが軍で、『赤備え』に対抗できるのは彼等ぐらいであろうからのう。

 だが、きやつらは、その前に、ここに攻めてこよう。


 時間稼ぎをせねばならん………………

 予は城に逃げ込み、い、いや、棄丸を迎えにいかなければならん。

 総大将たるもの安全第一じゃからのう。

 そのためには……………………………

 予は隣の重成をちらっと見る。

 こいつを身代わりに………

 

 「ああ、重成」

 と、言おうとしとったのに~~~~

 

 「お拾い様、拙者、身代わりになりまする。その具足、お貸しください」


 先にそう言われて、ムカッとした。

 思わず、こう言ってしまったのだ。


 「ふん、重ちゃんよ。ぬしには無理!」


 な、なにを言っておるのだ、予はぁぁぁ……違うだろ!すまんな、たのむ、だろ!


 「し、しかし。しゅの代わりを務めるのが家来の勤めでございます」


 ほ、ほら。彼もああ言っている。『うん』と言って、『うん』と!


 「予が防ぐ。重ちゃんは棄丸たちに火急を伝えよ、良いな!」

 「ええ~~、し、しかられまする」

 「うるさい!さっさと行け!」


 あわてて、重ちゃんは城に走って行きおった。


 うわ~、やばい!どうすんの~~行っちゃったじゃないの~~~

 え、え、え~~~もう、予の中の天邪鬼あまのじゃくがぁ~~~

 ~~~もうやけくそじゃ~~~


 わきに置いといた短槍をむんずと掴む。

 子供の予には、重くて持ち上げるのがやっとで、見栄で置いといたんじゃが、軽々と持てたぞよ。

 これはあれじゃな、火事場の馬鹿力。アドレナリンが全身を駆け巡り、興奮が予の全身を包んでいく。体内麻薬の力で、力がみなぎって来る。何でも出来そうじゃぞよ、気分良し!!!!


 短槍を振り回し、予は叫ぶ。


 「ぱわーあっぷ!!! 皆の者、予が指揮をとる!」

 「は、はーー。ぱわーあぷー」


 百人の護衛兵が槍を取り、予に、斉唱する。

 うん、盛り上がってきたぞう~~


 「羅都鬼ラッキこぅ~い~」

 「ブヒヒ~~ン」


 羅都鬼が、親友がやって来た!


 「おう、よし、よし。今日は一人で乗せてもらうぞ」

 「ブヒブヒ」


 予は羅都鬼にヒラリと、いや、ゴソゴソと乗る。

 は、初めて一人で乗ったぞよ、前が広い!気分よ~~し。

 予は戦鬼になったぞ、いざいかん!!!

 

 「予を中心に、魚鱗の陣!」

 「おおーっ」


 真ん中に予を置き、廻りに槍ぶすまの集団を作る。


 「さすれば、出発じゃ。目標、『赤備え』、歩調、並あしぃーー」

 「しゅっぱ~つ、ぱわーあっぷ!!!」

 「ぱわーあぷー」


 お拾い隊は並足で、丘を下り、『赤備え』に突進する。


 「いち、に。いち、に。いち、に」

 

 歩調を整え、真ん中に予を乗せた羅都鬼。廻りにハリネズミの様に長槍を突き出した槍兵達。

 まるで、生き物の様にその形を伸縮させながら、進んでいく。

 

 逃げ惑う荷駄部隊を攻めておった『赤備え』達、予たちに気づき、態勢を整えつつあった。

 そこに槍ねずみとなってつっこむ!!!

 『ガツン』という音がしたかの如く、かみあう秀頼勢と徳川勢。


 「ひるむな、押せ!押せ!敵は少数じゃ!押しまくれーー」


 むむ、確かに与たちはは少数。個々の兵士の勢いでは負けとらんが、数が少ないのは如何ともしがたい。


 予が叫ぶ。


 「耐えろ、耐えろ。もう少しじゃぁ~~」


 敵の指揮官が叫ぶ。


 「正面から押しまくれ!押して守りを突き破るぞ、、集まれぃ~」

 

 敵は数を頼んで、与らの正面に集まり、おめき、槍を向ける。


 「今じゃ!前、開けい!!!」

 

 すばやく、馬一頭が通れるだけ、羅都鬼の前が開く。


 「そうれ~~~」

 

 かけ声と共に、怪物馬、イヤ、戦鬼が飛び出す。

 

 「うわーー」


 あたるを幸い、赤具足達を足蹴にし、走り回る羅都鬼。

 虚をつかれた敵兵達、なすすべもなくちりぢりに広がる。


 「何をしとる!一騎ぐらい、押しつつまんか~~」

 「集まれ、集まれ!」

 「攻めるのじゃ、逃げるでない!!」


 敵が再集合をしておる間に、羅都鬼は槍ねずみの中にもどり、隙間が閉じられた。


 前面には、倒れ伏す赤具足が十数人。あわてて助け起こそうとする者達と、与らを攻撃しようとするもので、大混乱である。

 

 ふう、うまくいったのう、これで少しは時間が稼げたか、じゃが、二度目はこう、うまくはいくまい。

 次は予も覚悟しないとのう………………

 そう思いながら、槍を握りしめ、羅都鬼の『フガ、フガ』という荒い息を聞いておった。

 羅都鬼も、棄丸と共にあるなら、あれぐらいの時間では疲れまいが、予と二人で、羅都鬼が主導しての戦いとなれば疲労も格別じゃろうのう。

 

 「羅都鬼、良くやった。次は予も戦うぞ。 みなのもの、ぱわーあっぷじゃ~~」

 「おう!ぱわーあぷーー」

 「ぶひひ~~ん」


 みな、力強く斉唱し、槍を構える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る