第21話
【本文】
この紙に絵を描くのじゃ。
一枚、一枚、お馬さんを描く。
すこしずつ、足をずらして、位置もずらして描くと、あーら、懐かしい。
パラパラ漫画の完成じゃぁ……
昔、小学校で、授業中退屈すると、教科書の隅にHBの鉛筆で描いて、
先生の目を盗んでは、バラバラやって楽しんでおったのう。
懐かしいぞ!
バラバラバラ。
うむ、上手くは無いが、何とか見れるの、完成じゃ!
「これ、重成、目を覚ませ」
眼を覚ました重成。寝ていたことに気づき、慌てた慌てた。
「もも、もうしわけ……」
「よいからこれを見よ」
「バラバラバラ」
「こ、これは!」
「どうじゃ、うん?この絵は」
「すてきです、お拾い様。絵が、絵が動いております。犬が、犬が走っております」
「い?そ、そうか、面白いか。それはよかった。」
馬を描いたつもりじゃったのだが、絵が下手すぎたか?ガッカリじゃ。
小学校の時も、マンガ描くのが好きで何度か友に見せたが、
話は面白いが絵が下手と言われたものなあ。
あげくが、絵が邪魔、とまで言われて、とうとう絵なしになってしもうたから、
まんま、小説じゃ……
予は絵の才能ないのう、とほほ。
「お拾い様、これはおもしろいです」
おお、ともえも眼を輝かせて見ている。
バラバラバラと何度もめくって見ている。
「二人とも、描いてみい。こつは少しずつ位置をずらすのじゃ。
それから足も少しずつ動かしているように描くのじゃ、よいな」
「はい」
「はい」
二人とも声をそろえて返事して、熱心に筆で描き始めた。
薄暗い部屋の中で、一角だけ明るい。
その中に、熱心に絵を描くふたり……
なにか、ほのぼのして、ささくれ立った心が落ち着くのう、ほほほ。
「出来ました!」
「わたしも!」
「どれ見せてみよ、まずともえからじゃ。うむ、これは……
狛犬か?これは、また変わったものを描いたのう。
じゃが、まずまずの出来じゃぞ」
まあ、ほんとは予とどっこいどっこいの、へたっぴいな絵であったがのう。
「………だんな様、狛犬ではありません。狆です。実家で飼っておりました。」
悲しそうな顔をしている!ま、まずい、なんとか、誤魔化さなくては。
「おお、狆であったか、こ、狛犬と狆は似てるからのう。
知ってるか?ともえ、狆はもともと中国から来たんじゃぞ」
「まあ、ほんとですか?知りませんでした。
だんな様(いい響きじゃ) 物知りでございますねえ、ウフフ」
「ま、まあな、ホホホ」
ふたりして笑いながら見詰め合っていた。
「あの、だんな様、私のも見てください」
お前がだんな様と言うな、気持ち悪い。
と思いながら、せっかくの楽しいひと時を邪魔された予は、
邪険に重成の絵を取り上げた。
「どれ、うむ?」
う、うまい!犬じゃ、犬が駆けている。
絵も上手く描けている、しかもホントの日本犬じゃ。
ピンとたった三角耳に、細い三角目。
目のぎょろっとした洋犬とは違うとこまで描いてある。
もっとも、この時代、ダルメシアンやシェパードは居らんがの、
日本犬ばっかりじゃがのう。
どれ、バラバラバラ……
「おー、走る、走る。まさしく、ぱらぱら漫画じゃ。
重成、うまいぞ、あっぱれじゃ!」
「まあ、ほんと。重成さま。お上手〜」
「あ、有難き幸せにございます」
嫉妬することも忘れ、予は驚いていた。
絵心というのはあるやつはあるんじゃのう?
うむ?彼らの喜ぶ様はどうじゃ。こ、これじゃ!
武将に送った檄文は堅い、漢文じゃ。
まあ、この時代、正式の
荒くれの武将達は読める者は少なかろう。
信長様や、秀吉様の文も、私的な文は、ほとんどひらがなだったぞ。
ということはじゃ……祐筆に読んでもらってるに違いない。
予もそうしておるぞ。まあ、読めるほど教養のあるのもいるであろうが、
そういうのにかぎって、新しいものに熱中するもんじゃよ。
漫画じゃ!漫画を描いて送るのじゃ。
みな、楽しく読んでくれよう。
そのなかで、予の宣伝をするのじゃ。
そうすれば予のことに興味を持とう。
それがこの現状の突破口になるに違いない。
うん、まずは漫画家、漫画集団を早急に作らねばならん。
絵師を、描けそうな絵師をまず探すぞ。
やるぞ〜〜
だが、夜も遅い、今日は止めじゃ。
「二人とも、奥に帰って寝るぞ、明日はいそがしいぞよ」
「はい」
「はい」
予は気分もよく、二人を連れて奥に帰っていった。
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