第46話
船着き場には先に到着した立花勢が待っておる。
我らクジラ丸は四苦八苦しながらようように船着き場についた。
川中で流れに逆らい、クジラ丸ほどの巨体を櫂で操つるのは難しい。
すっかり立花勢に遅れをとったわ、まあ仕方ないか?それに待つより遅れていった方が偉そうじゃし。
この際、下手にでるより上手のほうがいいじゃろう。
とにかく着いたわ、碇をおろしとも綱を投げる。
さて、降りるぞ。
まずは棄丸を始め、秀頼隊の半数が降りる。
みな大荷物でよろよろしとるわ。持ってきた武器をほとんど持ち込もうとしておるからのう。
こんな所を敵に攻められたら一発で秀頼隊は全滅であるのう。
じゃが、今は立花勢が守ってくれておるので安心である。
立花の鉄砲部隊が船着き場を中心に半円状に配置され、折り敷いて《かたひざをつく》鉄砲を構えておる。
船着き場には少数の立花兵がおり、その中に丸い
なかなかに偉丈夫である。あれが立花宗茂か?
予はいつも通り、縄で胴をぐるぐる巻きされて降ろされる。カッコ悪いったらありゃしない。
リーダーの尊厳とかどこにもないぞガキだガキ、そう思いながら地面に降り立つ。
そこへすばやく近づいてきた日輪の武者、予の前で折り敷き言上する。
「ははー。立花のものにござる。お迎えに参上つかまつり申した」
「うむ、ご苦労。初に会うのかのう?立花宗茂殿か?」
「さにあらず、弟の直次にござる。兄はよんどころなき事情にて城内にてお待ちしておりまする。ご容赦つかまつりまする」
「うむ、城主なればそうであろう。予は気にしとらんぞ」
「は、ありがたし。ではいざ案内つかまつる」
そう言うと直次はくるりと廻りしゃがみ込み、おんぶするように手を広げた。
おいおいまたおんぶさまかよ~~勘弁してくれ、予は拒否をする。
「ありがたいがここは
「は、これは失礼つかまつった。ならば低くおぶります。城の堀を徒歩で渡るはおんぶしなければ秀頼様には無理でござるで」
「ならば堀の側にておんぶを頼もう」
「は、承り申す」
「おぬし、言葉が堅い。もっと気安く頼む」
「は……」
そうこうしてる内に準備が整い、秀頼隊は周りを立花勢に守られながら堀に向かって出発する。
クジラ丸もゆらり下り始めた。船頭、水夫二十名によって有明海に出、兼ねての打ち合わせ通りそこで待機してもらう予定である。
大荷物で動きの鈍い秀頼隊とそれを守る立花勢数百名は、もたもたしながらも何事もなく無事に柳河城の堀側に到着した。
鍋島勢、立花の反撃がよっぽど驚いたのかまだ撤退したまま、姿をみせぬ。
まあ、この時代何事にも時間がかかる。ようようこの事態が上のものに伝わってどうしたもんか相談しておる最中であろう。攻撃してくるのは早くて明日。下手をすれば一週間後だってあり得る。
そのようなのんびりしたというか人力の時代なのじゃよ。
「いざ、秀頼様」
「うむ、頼むぞ」
予は日輪の武者におんぶされる。
ふと堀を見ると、そこには立花勢に導かれながらこわごわと堀を渡っていく秀頼隊のものども達。
「さ、次は私たちですぞ、用意はよろしいか、くれぐれも騒がれぬようお願いしまする」
「うむ、わかっておるわ、海に比べたらちょろいものよ、ハハハ」
とはいったものの、なぜか怖くてたまらん。澱んで黒々した水面。そこを渡るなんぞ本能が反対しとるわ。みよ、身体が震えとる行くなとな。
「はっは、はっは。さすがのおんぶ様もこれは怖くござるか?震えてござる。初めて子供らしきお姿を見ましたぞ」
「ええ、うるさいわ棄丸。堀を歩いて渡るなんぞ初めては怖がって当然予はまともな精神の持ち主と言う証拠じゃ」
「それでこそ我が主君、秀頼様。なあに万が一立花どのが落としても拙者が命を投げ出してもお助け申す」
「うむ、よきにはからえ!」
「これはこれは聞きに勝る麒麟児でござるのう。なーに落としはしませぬよ」
笑う武者達と、何を言われようと震えておる予がいた…………
「いざ、いきますぞ」
「お、おう」
予をおぶった日輪の武者、そろりと堀に入り一歩をふみだす。
そろりそろり、ザブリザブリ慎重に歩を進めていく直次。
背には震える予がいて、背後には頼もしき棄丸がついてくる。
震えながら水面を見てるがどこが橋の部分か全然分からん。遠くからならいざ知らず、この様に近くから見ても分からんとは何か工夫があるな?ウーム興味深い。どんな材質か、この時代なら普通木橋か石橋であろう。表面にどの様な処理を施してあるのか?まあ費用の点から木製であろう。そこに藍でも塗ってあるのか?しかし水中なれば剥げるし腐れるし、水草が付くし維持が大変であろう。どの様にしておるのか興味深いわ。
突然、直次が立ち止まる。後ろの棄丸が慌てて立ち止まる。すると直次、慎重に一歩右に移動する。そして再び前進を始める。
「ここで道が一歩ずれておりまする。後ろの方、気をつけくだされ」
「お、おう」
棄丸もならって一歩右にずれ、再び予の後ろにつき前進始める。今気がついたが予の前のもの達もすべてその様に進んでおる。
なるほど、敵へのトラップであるな見事じゃ、それにしても材質が気になるああ気になる。
そうこうしておる内に竹橋に到達した、ほっとしたぞよ。
一気に城内まで緩い竹橋の斜面を日輪の武者は駆け上る。
ついに柳河城に到達した、ようよう遠征の終点じゃ~~~。
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