第43話

 甲板の上はそりゃもう凄惨なもんである。アチラコチラに屍体がごろごろ………


 「ウ~~~」「ア~~~」

 

 うん、息のあるものも少々おるか。いささかうるさいのう。

 

 「あ~~棄丸」

 

 「は」

 

 「うるさいのう。静かにさせよ、それから生臭い」


 「は、わかり申した!!」

 

 棄丸、胴田貫どうたぬきを抜くとまだ息のある者たちの心臓をば、ひと突きにしていく。


 そしてみなに命じ、ウッセウッセと抱え上げザブンとばかり次々に海に放り棄てる。


 「お拾い様、終わりましてござる」


 「う………ご、ご苦労!!!」


 いささか引いたわ、いきなり放り捨てるとは………まあ、戦闘直後じゃから気が立っておるで仕方ないか、傍観しとった予とはテンションが違うのは仕方なし。

 

 それに静かになったしちょうど良い脅しにもなったであろう。ほれほれ毛唐ども次は自分の番かとおびえとるわ、ふはは。


 どこから持ってきたのか捕虜の正面になにやら見慣れた彫刻の施された椅子が置いてある。この模様は風呂敷の唐草模様ではないか?この様なのがこの時代受けるのか、ふむふむ参考になるのう~~と現実逃避を予はしておった。

 だって異国人の尋問なんてめんどくさいんだもん、よしおしつけるぞ。


 予はふんぞり返って椅子に座る。


 一尺ほど離れて毛唐達がふん縛られて座らせられておる、その十数人か………少ないのう。

 この規模の帆船ならば百人は居るはず。先程海に放り込んだものを含めて五十数人か、残りはどうした?逃げたか隠れたかそれとも乗っておらなんだか、知る必要があるのう。


 まずは………………


 「棄丸、ん!」

 

 予はあごをしゃくる。

 

 「はぇ?」


 腹芸で意思を通じるのが得意な典型的な日本人である棄丸は直ちに何をすべきか理解した。が、異国人と意思を通じるのがにがてな典型的な日本人でもある彼は『これはしたり、絶体絶命じゃ。じゃが主命とあらば致し方なし』という考えをまき散らしながら捕虜の前に立つ。

 

 「よいか!おぬしらこの方を誰と心得る。先の太閤様、豊臣秀吉様が一子中納言豊臣秀頼様なるぞ、かしこまれぃ!!!」

 

 捕虜達は無反応、みなうつむいて知らぬ顔である。


ふむ、言葉が通じないのかのう、それとも海に放り込んだ者の中におったか?はたまた知らぬ顔をしておるのか?


 「おぬしら、わからんのか???秀頼様に大砲を向けた罪は重い!!!」


 わめく棄丸の声、その時、敵のリーダーらしき赤毛の男が『罪は重いと』いう言葉でピクリとしおった。


 は、は。ちょいと脅かしてみるか?


 「棄丸、言葉がつうじぬのなら無用ぶつじゃ。海に棄てるか?」


 「は、承知つかまつる」


 「ワ、ワタシスコシワカリマ~ス~~」


 棄てられてはならじとあわてて敵のリーダー赤毛が叫ぶ。


 「やはりの、棄て、あとは予がせめてみよう」


 「は」


 嬉しそうにひっこむ棄丸。ああ予はまだ修行がたらんついつい口を出してしまう~~まぁ…よいか。


 「主は誰じゃ?なぜに我らを攻撃した?」


 「ハイ、ワタシエゲレスジン、ウイリアム・アダムスイイマス。マカオからカエルトチュウカイゾクオソワレタ。マタカイゾクトオモッタネ。ゴメンナサイ。バイショウスルカラユルシテ」


 ほんとかのう?まあ、賠償金が入るのは有り難い。うんとふっかけるか、いやまてよ???


 名に覚えがある、ウイリアム・アダムス………三浦按針だ、こやつバリバリの徳川派ではないか!!!

 

 「うそをつくな、おぬし徳川家康の子分ではないか」

 

 「イエ、シ、シリマセン。トクガワダレ?ニホンゴアマリワカラナーイ」


 こやつ、ならば良し。


 「棄丸、久しぶりに刀の腕を見せてもらうぞ。例の鉢割じゃ~~」


 そう言って、予は棄丸に笑いかけた。


 腹芸得意の棄丸、直ちに悟って赤毛を一人引っ張りだし帆柱に改めてくくりつける。


 秀頼隊のみなも大体さとって期待に充ち満ちてみつめておる、もちろん予もじゃ。


 アダムス殺されると思い、「ヘルプヘルプ」といいながら身もだえしておる。動くとあぶないぞよ。


 「こりゃ、アダムス動くな!!死にたいのか?」

 

 理解した彼は棒の様に硬直した、ガタガタふるえとったがのう。



 五条棄丸、アダムスの前に立ち、すらりと同田貫を抜く。


 神経を集中する。


 シーン、いや、海の波音があったはずじゃがそれも聞こえなくなった、シーン。


 スーと大刀を八相に構えた棄丸、ピタリと静止する。


 「えぇ!!!!」

 

 裂帛のかけ声と共に白刃は放たれる。


 シュパッと音がしたかのような錯覚と共に赤毛が舞う!!!


 血か!いやまるで血のようにバッサリと赤毛が飛んだんだ。そして後には頭頂がこっぱげたウイリアム・アダムスが目を回しておる。


 「やんや、やんや」

 

 秀頼隊、その妙技にみなで褒め称える。


 それに嫉妬したか、孫一が出てきて無理矢理こっぱげた頭に落ちておった西洋の帽子?らしきものを乗せる。

 こりゃ、撃つつもりだなとわかったが、面白そうなので止めない。


 ダダダーと離れた孫一、自慢の『ヤタガラス』を構える。


 船はユラユラ動いておる。


 そこで気絶しておったウイリアム目を覚ましおった、覚醒して初めてみたものが自分を狙う火縄銃。

 火縄の火が見える気づいてパニクった瞬間____


 「ドーン」


 「シュパッ」

 

 帽子が飛んだ、ウイリアム再び気絶する。


 「やんや、やんや」


 拍手大喝采。


 孫一棄丸と肩を抱き合いたたえ合っておるわ。



 さてさて尋問を再開しようかのう。ウイリアムをここに引きずってこい、海水もぶっかけてやれよ、そうそう。


 ああ、めんどくさい。コナミちゃんが恋しいよう、こんな毛唐ではなく。



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