第42話
投じられたとっくり弾、かねての訓練通り第一の脅威となる鉄砲を持った男めがけて飛んでいく。
一発目は船長らしき男のむかって左で鉄砲を手に笑っておった大男にじゃ。
そのひげ面の男(みな一様に髭をはやしているのじゃが)、それも我ら和人にとって珍しき赤毛の髭の男なんじゃが、あわてて予らに向かって発砲しようとしたが、今まで笑っておったのに突然戦闘態勢に切り替わるはずもなく、そっぽを向いておった筒先をようようくじら丸に向け終わった所にとっくり弾が一発到達した。ちょうどその鉄砲の上にじゃ。
ガシャンという音と共に、どす黒い液体は広がり、次に導火線の火薬により着火する。火は鉄砲から両腕、一部は飛び散った胸の上に広がる。
一瞬余りのことに惚けておった男は次の瞬間、「ギャ~~~」この世のものとは思えぬ悲鳴を発し、後ろに倒れ込む。甲板上に人型の火炎が出来た。すぐに人型は崩れブスブスと黒煙を上げて燃える。
残り二発は慌てたためか、側舷にあたり、火は発したものの甲板には落ちなかった。
無念じゃ………じゃが、船の横っ腹で広がり黒煙をさかんに発し、目くらましには成ったかのう?
残り二発とも甲板に落ちておれば制圧は簡単であったろうが、一発ではこれで五分か?イヤまだこちらが不利か………とにかく敵が慌てているまに攻撃せねば、そう思い命令を発しようとしたところ、とっくの昔に我が秀頼隊はつながれた縄を伝って渡ろうとする者、カギ綱を投げて渡りやすくしようとする者、火縄銃で毛唐を狙撃する者でおおわらわであった。
予はそれを呆然と見つめるのみ、イヤ、手に汗を握ってみつめておった。まあ、この様な時予の指示を待っているようでは遅いであろうがのう………
我が手を離れた以上、予にできることは傍観者として楽しむことじゃ。
敵も立ち直りつつあり、黒煙をかいくぐり鉄砲を突きだし、発砲する者あり、繋いだ縄を切ろうとするものあり、だが大部分の者たちは敵を無視して、必死で消火しようとしておる。
それもそのはず、可燃物で出来た帆帆船にとって一番大敵は火事である。どうしても第一にせねばならん。
なーに、この程度の火事、人力を集中すればすぐ消せる、土人の攻撃など取るに足らんと敵の船長は考えたか、秀頼隊からの攻撃は二の次、取りあえず少人数で防ぎ、その間に消火するという考えであったのであろうか、海水をぶっかけて消火しようとしておる。
じゃがタールの火は少々の海水では消えるはずもなくしぶとく燃え続けて、一部の帆を繋ぐ綱には火がつき始めており、敵はそれ以上の延焼を防ぐため、綱や帆布を一部切り取っておるようじゃ、黒煙が充満し、その光景ぼやっとしか見えんがのう。
そうこうしてる内、敵の防御を瞬く間に火縄銃の狙撃で倒した秀頼隊、綱を伝わり、西洋船に攻め込む。
その姿、赤銅色の小男達、ふんどし一丁に背中に大刀を背負い、
その数、数十人。 剽悍で、怖い。 敵なればもっと怖かろう。
まさしく東洋に鳴り響く、倭寇の姿なり。
「チェーイ!!!」
「をりゃ~~~」
「こなくそ、けとうめ!!!」
「この野蛮人ども~~砲丸のお礼参りじゃ-」
先程の土下座に対する鬱憤もあったか、秀頼隊、怒れる、怒れる。
さすがに、ここにきて迎え撃つ毛唐達、ここに至っては接近戦のため、片手持ちの長刀で迎え撃つ。
あれはなんと言ったかな?ん~と、『カットラス』突然思い浮かぶ名前、西洋の船乗りが使う刀だなあれは………
だがしかし、毛唐め身体は大きいが、その武器では我が秀頼隊の日本刀にはかなうまいよ。
「イヤ~~~」「ドシュッ」
などと、嫌なおとが聞こえてあちこちで赤鬼、くろおに、金髪鬼などが倒れていく(ちなみに髪と髭の色で区別しとりま~す)
こりゃ勝ったな。んーー、はよ降参してくれんとこのままでは皆殺しだな。
それにしても弱い。いくら秀頼隊が優秀としても、弱すぎる。思うにあいつ等職業軍人ではないようだのう。
我らを攻撃した背景が知りたい、じゃがここからでは攻撃中止の命令もできんし、するつもりもない。
は、早く降参してくれんかのう………
「******!!!」
「おらおらおら」
ん?なんか雰囲気変わった、どうした?
手を挙げてる奴がいるぞ、降参か???
「へ、ヘイュプ!!」
ヘルプと言とるのかのう、あれは?
まあ、どうするかは現場まかせじゃ、よきにはからえ、ふはは。
と思っておる内に棄丸からの連絡が来た。敵は降伏し、生き残り全員拘束。
火も消えた、すぐ来てくれとな、さてさて参るとするか。
予は例の如く縄でぐるぐる巻きにされ敵の船に引っ張りあげてもらう。
甲板に立ち、廻りをフンドシ一丁の怒れる男達に囲まれ、縄で縛られ意気消沈した毛唐どもの前に立つ。
気分よ~し、股間涼し。しまったフンドシなしじゃい!
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