第24話

我ら、木砲実験隊は、大坂城西の丸前の、広場に陣取った。

  ここを選んだのには理由がある。ここには関が原の戦いの前に、徳川家康が居座っておった。 

 その時、家康め、自分の権力を誇示する為、西の丸に四重の天主閣を築きおった。

 なんとまあ、いやらしいやり方ではないか!

 このようなもの、今の大坂城にはいらん。

 そこでじゃ……

 これを木砲の的にする!

 そして、ボコボコにして、我ら豊臣の心意気を示す。

 それと、家康に対する嫌がらせの意味も込めておる。

 ここに、雑賀衆や、槍隊などの、五条隊隊員全員を招集した。

 木砲は、彼らからまず、使わせる予定じゃからのう。

 まず、簡単な木馬を作る。丸太で作った大砲の実験台じゃ。

 その四つ足は、発射時に動かないよう、頑丈に地面に埋め込んだ。

 それに、木砲をくくり付け、適当に火薬を装填する。

 それに合う砲丸は間に合わんので、石工に命じ、硬くて重そうな石を、口径に合わせて真ん丸く加工させて用意した。

 正式には鉄の玉を鋳造させる予定である。

 最後に火口に着火薬を突っ込んで、準備完了である。


 「いよいよ発射じゃ、わくわくするのう?」

 「左様、左様」

 孫一はうれしそうに肯き、副将の参吉にむかい、あごをしゃくった。

 参吉も緊張した様子で、肯き、部下に命令する。

 「五平、主じゃ。撃ってこい!」

 「ひえ~。あ、あっしですかい?そりゃ、殺生な。まだ死にたくありませんや」

 「ばかやろう!お前は独身で、一番下っ端じゃ。こんな仕事は一番下っ端ときまっとる、わしも下っ端のときは、新銃の試し撃ちをさせられたもんじゃ!

 つべこべいわず、さっさとやれ!」

 「こ、こんな木で出来た大砲なんぞ、爆発するに決まってますがな」

 「ば、ばかやろ、切腹したいのか、おめーは」

 あわてて、参吉は五平のまげを持って、引きずり倒した。

 そして予の方向に頭を強引に向けると、二人して土下座した。

 「申しわけありません」

 「あー、気にすな、予はなんとも思っておらん。だが、これはお主たちの仕事よ。わかっとろうの?」

 「わかっとります、わかっとります」

 さすがにここにきて五平、覚悟を決めたか、へっぴり腰で、点火した火縄を持ち、近づいていく。

 鉄砲衆だもんで、火薬の怖さを知ってるだけに、えらく怖いみたいじゃのう。

 ようやっと砲尾に達すると、おそるおそる火口に火縄を近づけた。

 が、そこで止まって、震えておる。

 「阿呆!」

 参吉が叫ぶと、あわてて点火する。

 「ドーン!」

 鉄砲の発射音より太い音が響き、火口から火炎と大量の煙が発生する。

 一瞬ののち、『ドコン』という音がした。

 「よし!成功じゃ!

 当たったとこを見に行くぞ、ついて参れ!」

 予は玉の当たった西の丸の天守閣に向かって駆け出した。 

 後から、わが親衛隊の面々が、わらわらとついて来る。

 五平は腰を抜かして、砲のそばにへたり込んでおったがのう。

 「うーむ、これは……」

 「お拾い様、い、いかがですか?」

 「いくら、急造の石弾とはいえ、威力が弱すぎるのう。

 ほれ、白壁にひびははいったが、貫通しておらんわ……

 これでは大量の火薬を消費して、割りあわんのう」

 「そうでござろうか?拙者には中々のもんと思えましたが。 

 あと2~3発おみまいすれば、崩れましょう。

 それにこの音と振動。敵の戦意をくじくのにも、うってつけだと思います。

 のう、棄丸殿?」

 「そのこと、そのこと。拙者も音と振動に驚きましてござる。 

 それで、門に穴が開ければ、十分でござろう。期待以上でござる」

 「ふむ、ならばもう2~3発発射してみるか?」

 「それがようござる」

 二人の同意を得て、再び一行は木砲にもどり、発射準備を完了した。

 「待て!こたびは点火薬を長くして、火をつけた後、離れられるようにしよう」

 孫一、雑賀衆に命じておる。もう、木砲の運用を考え始めおったな、孫一、さすが鉄砲衆の頭じゃ。


 「ドーン」………「ドコン」

 

 再度、木砲は発射された。まだ穴は開かん。


 三度目。すこし穴があいたぞ!もう一度じゃ。


 四度目で穴は広がり、屋根瓦がガラガラと落ちてくる。


 なかなかのもんじゃな、これは……


 五度目でそれは起った。

 「バコン」という変な音とともに、砲は爆発し、かけらが周りにと飛び散った。

 「ウワーッ」

 みなが逃げ惑う。

 「お、驚いた!じゃが、予定通りじゃ。結構もったのう。やはり安全を見て、三発までかのう」

 「そ、そのようですな。あー驚いた。怖かった」

 「ほ、ほう。鉄砲の頭でもこわいか?」

 「は、火薬の怖さを小さいころより叩き込まれておりますから、ついつい反応いたしますな、ははは」

 孫一は照れくさそうに笑いながら、再び木馬に新しい木砲をくくりつけようとした。

 「まて、孫一。今度は木馬ではなく、人が持って発射する。それでなくては実用化できん」

 「しかし、手に持っては、大砲、遠くの目標に狙いをつけられませんが?」

 「さ、そこでじゃ。予は考えたのじゃが、散弾銃、いや散弾砲として運用しようと思う」

 そこにおるもの達、全員わけがわからず、きょとんとしておる。無理もない。この当時、散弾銃の概念はない。一から説明じゃ。

 「よいか、鉄の大玉は陣地の攻略には役立つが、野戦では無理じゃ。それで、大玉の代わりに、小さい鉄砲の弾を大量に詰め込み、ぶっぱなす。すると、どうなると思う?」

「なるほど、密集した敵には効果ありそうですなあ。おもしろい!やりましょう、やりましょう」

 新しい木砲に火薬をつめ、一番小さい鉄砲の弾を適当に流し込み、押し固める。

 その後、こぼれてきては困るので、その上から和紙を押し込む。これで持ち運んでもこぼれることはない。


 いざ、準備が出来た。今度は3人で発射する。

 前後を槍兵に持たせ、砲尾を雑賀衆が持ち、照準し、発射する。

 「いざ、砲を持て!」

 爆発を見てるものだから、皆、腰が引けておる。

 二人の槍兵は恐る恐る片足を折り、肩に担ぐ。

 顔は真っ青じゃ。まあ、無理もない。

 早く馴れてくれよ。

 「ホレ、雑賀衆、誰か、取り付け、早く!」


 「……」


 「腰抜けどもめ!秀頼様の御前ぞ、なんたること!」

 「待て!予が悪かった。まず予が手本を見せなければのう」

 「え?と、とんでもござらん、せ、拙者が……」

あわてた棄丸が言ってる間に、孫一が取り付いた。


「この位置は、雑賀の者ではなくてはだめでござるよ」

 「か、頭、すみやせん。替わりま…」  

 「うるさい!見ておれ、雑賀の魂を!」

 

 みな、押し黙り、緊張して見つめる。

 か、かっこいいぞ~予もやりたかったのう。


 孫一、二人の槍兵に指示をあたえておる。

 「よいか、拙者が『てッ』といったら、発射じゃが、決してその瞬間に手に力をいれてはならん。狙いがずれるでのう。

 その後、キツイ反動が来る。その時こそ踏ん張れ、よいな!」

 「しょ、承知!」

 「それじゃいくぞ……」

 「てッ!」

 ズドンと言う発射音と共に散弾は飛び散り、前面の白壁がボコボコになった。

 「うおーつ」

歓声が上がり、拍手がおこる。

成功じゃ!

 散弾木砲の誕生じゃ!


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