第35話

あー、それで、徳川との戦いの件であるが、予が船にかまけてる間に、進展があった。

 家康め、いよいよこちらを攻めるつもりらしい。

 さすがに、予が伏見城を攻略したんで、決まったらしいぞよ。望むところ!と言いたいところじゃが、困ったことに、あれから条件が変わった。

 家出することになったからのう……

 誰か何とかしてくれ。

 ダメか………な?

 とにかく誰かに押し付けなければ。


 それで以下の通り押し付けました。


 「おう、真田幸村か、伏見では良くやった、お主のお陰で勝ったようなもんじゃな」」

 「は、有り難きお言葉、今後も励むしだいでござる」

 「それでな、今回、占領したというか、取り戻した伏見城の城代を申し付ける。わが新生、秀頼軍を率い、守ってくれい。徳川が近々攻めて来ようからのう」

 「な、なんと!新参者の拙者をその様な重き地位に!夢のようでござる。間もなく父、信幸

もここ大坂に来ましょうぞ」

 「おう、それは良い。親父殿が来たら、城主にも出来ようぞ。金は出す。兵ももっと集めよ、城の補修も任せようぞ」

 「は、有り難き幸せ」

 幸村くん、感激してね、その後すぐ来た親父さんと一緒に伏見に泊まり込んで、突貫工事で城を直しよった。それから、真田勢一千名も付いてきた。幸村の兄に全て譲って、ここ大坂に逃げて来たらしい。頑張って守ってくれよ、さすれば真田親子に城、進呈!!!


 問題は大坂城の方じゃ。イヤ、揉めた揉めた。

 

 「とまあ、船が準備できたので、チョト予は九州まで行ってくる。留守、頼むぞよ」

 言った瞬間、非難轟々の嵐が巻き起こった。

 「なんと!徳川どのと戦を勝手に始めておきながら、逃げ出されまするか!」

 片桐のやつ、なんちゅう言い草か!まあ、当たって居るがのう、だって家出じゃもの。

 「違う!!!」

 「思うように我が方に味方が集まらん。かくなる上は、こちらから勧誘するのじゃ。そこでじゃ。古来より、九州にて軍をつのり、京に大軍を率いて上京し、敵を打ち破って天下をとった例多し。予もそれに習うのじゃ。な~に、ほんの三、四ヶ月であるぞ、よいな?」

 まあ、取ってつけたような理由じゃが、嘘は言っとらん。

 「し、しかし。今の大坂城に秀頼様が居られませんと、もう立ち行けなくなっております」

 「さ、そこでじゃ……重成!」

 「は、ここに」

 そこには予と同じ姿をした木村重成がいる。

 その側にすばやく寄り添って、予はみなに言う。

 「どうじゃ、そっくりじゃろうが?」

 「はあ、遠目には似とりますが、近くでは顔が……」

 「なに?どこが違うのじゃ?予にはわからんぞ」 

 「はあ、重成殿のほうが、いい男?あ、いやいや……」

 「そ、そこは目をつぶれ。側近のお前たちが秀頼様、秀頼様と言っておれば、なんとかなる」

 「さ、左様でござろうか……」

 「そして、予は木村重成として、豊臣秀頼の名代となり旅をする」

 「淀様にはなんと申しましょうか?」 

 「う、母を騙すのは無理じゃ。予が出発した後、正直に話すがよい」

 「無理です!!!」

 そこにおった、重臣ども、重成も含め、顔をぶんぶん振って否定しおる。

 し、仕方ない。

 「予が置手紙で、そなた等の無実を証明する、な~に大丈夫じゃ」

 それで上手くいくとは予も思わんが、後は野となれ、山となれぃ~~~

 

 話し合いは強引に終わり、出発の準備が始まる。

 

  くじら丸は全長百尺(三十メートル)幅二尺半(七、五メートル)この当時としては最大級の千石船(実際は千五百石級)である。

 乗りこむのは船頭、水夫等の、海の専門家が二十人ほどである。

 操船の補助員としての訓練を受けた鉄砲、」槍混成部隊員が、約百名。

 その他、雑賀孫一、五条棄丸、木村重成(予のことの指導者たち。


 以上である。


 船底に、バラスト代わりの大判多数。とっくり弾、木砲。鉄砲、弓。その他の武器などを大量に積み込んだ。

 船倉底に火がつけば、くじら丸、大爆発じゃよ、ははは。

 まあ、食料その他の嗜好品などについては面倒なので説明省略である。

 今、出発の時が来た。母に見つかって連れ戻されぬ内に、出発じゃ。

 家出、決行!!!


 「いざ、しゅっぱ~~~つ」

 「おう!漕げ、漕げ~~ぃ」


 いよいよ冒険の旅?へと出発である。


 ギイギイと総員による櫓こぎは始まり、くじら丸は堺の港を出た。

 

 大阪湾はいくぶん、小浪が立っておるが、まあ、凪の方じゃろう。

安定の悪い和船だが、くじら丸は全長三〇メートルに及ぶ大型船である。

 小刻みに上下にピッチングはするが、たいした事はない。

 いや~予は慣れた、すっかり平気である。


 そろそろ、櫓漕ぎを止めて、帆走に入ろうぞ。


 「漕ぎ止め~~、帆走に移れい!」

 「おおーー」

 「帆を上げろ~~」

 くじら丸の甲板を人が忙しく行き交う。轆轤ろくろに人が取り付き、キィキィと巻き上げられていく。大きな帆布が絡まぬよう、何人もの水夫が掲げ持つ。廻りには下端の綱をもった我が軍団の者共が、いまや遅しと引っ張るのを待っておる。

 木綿製(これも和船としてはお初である)の大帆がゆっり昇がっていく。

 広大な帆布は風を受けて、縦の縫い目にそい、幾つものふくらみとなり、全体で、こぶを幾つも持つ大きなふくらみとなる。

 順風じゃ~~

 「綱引け~、風にまけるな、繋ぎとめよ」

 くじら丸はグンと押されるように動き始めた。

 「いや~快適、快適。気分良いぞー」

 空にはカモメやウミネコが飛び交い、海面に日差しがキラキラ反射して、まるで昔見た映画の一場面のようじゃ。

 じゃが、なんか足りんのう?なんじゃろう?くじら丸の甲板上をじっと見る……

 忙しく行き交う水夫たち。くたびれてそこここにひっくり返って居るわが秀頼隊の者たち。

 花がないのう、小汚い褌尻ふんどししりを晒すでない!

 分かったわ!ヒロインがおらん!お姫様じゃ足りんのは。どこかで出会いを作るぞう。

 「ああ、これこれ、孫一」

 「なんでござるか?お拾い様」

 「ば、ばか。予は、いや、拙者は秀頼様が側近、木村重成ぞ」

 「あ、そうでしたな。それで、重成どの、何の用でござるかな?」

 「うむ、せ、拙者は『花』が欲しい。どうしたらいい?」

 「はあ?花?海にはござらん。夜は海岸にて停泊して休みますので、そのおり調達しまする」

 「いや、文字通りの花ではなく…」

 「おなごでござろう?わかっとります、わかっとります。わ、は、は」

 「違う、違う、娼婦ではないわ。可愛い姫との出会いが欲しいと言っておる」

 「へ?お姫さま?む、無茶な」

 孫一はあきれ、空を見上げる。

 「ミャー、ミャー」

 空を舞うウミネコが鳴く。孫一は薄ら笑う。

 予は、いや、拙者は本気じゃ。

 「そうじゃ、海賊の親分の娘を側女そばめにもらうぞ」

 「ヘイヘイ」

 「ミャー、ミャー」


 船は快調に瀬戸内海を航行する。


 西へ、九州へ。

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