第36話
瀬戸内海の航海は続く。朝出発して、もう日が暮れかけておるが、予はずっと暇である。
本職の水夫たちはは結構忙しいがのう。
海の上で、ずっと追い風が続くわけがない。凪(無風状態)となったり、横風が吹いたり、時には向かい風が吹いたり、色々する。
それに会わせ、帆を下ろしたり、間切ったりする。時には全員で櫂走したりもする。
だから、みな、予、いや拙者意外は結構いそがしい。
この船は今までの和船と違い、間切りが出来る。だから通常の和船より、結構距離が稼げ取るらしい。船頭がさっき言っておった。
しかし、周りが暗くなってきた。そろそろ帆走をおえ、近くの港か、島に碇をおろし、夜をすごすさなければならん。
これが瀬戸内海の帆走じゃ。羅針盤もろくにないこの時代、夜間走行はしない。
常に海岸を見ながら、海岸沿いの暗礁を警戒しつつ帆走する。けっして海岸が見えないほど沖には行かない。
本日終わり~~~じゃ。
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小さな漁村に停泊しておる。堺を出発して三日目の夜じゃが、始めての漁村での停泊である。
一日目、二日目とも人気(ひとけ)のない海岸に碇を降ろし、夜を過ごした。
いや~殿様生まれの拙者には辛かった。飯は魚ばっかりだし、便所は舵を上げた船尾の開口部でする。落ちそうでコワイコワイ。
乗組員全員、荷物室や、甲板など空いたところでごろ寝するのであるが、それを知ったせ拙者(言いにくいのう)は、ハンモックを提案した。
まあ、あみで作れるから、直ぐできて、狭いところで沢山眠れるということで、みな喜んだわ。
それに、なんだか、ハンモックで寝たほうが船の揺れが少ない感じがする。
それやこれやで、みんなハンモックで寝ることで、一日目、二日目を過ごした。
そしてそして三日目の今日、待望の漁村に泊まるのである。
漁村の元締め、網元?というのかな、そこに我ら三人組は転がり込んでおる。
他の者は全員上陸禁止である。上陸させると何が起こるかわからんからのう。
たとえば、女問題や、船からの逃亡、飲酒、ケンカなどがおこりかねんからのう。
地位に伴う特権として、予はここにいる。二人は護衛としてここにおる。
や~、地位が高くて良かった、良かった、布団で寝れるぞう~~~
いま、お座敷におるわけじゃが、身体が揺れておる。一日中、船中にて揺れておったからからのう。
これはイカン、早く飯を食って寝たいわ………
「ようこそ、我が福村にお越しで、えー、木村様。豊臣様の重臣様をお泊めするは久しぶりでございます」
「うむ、世話になるぞ」
網元に泊るほどの客は久しぶりとて、下にも置かぬもてなし。
我ら三人は新鮮な海の幸をたらふく食らい、拙者はさっさと寝る予定であった。
食後、満腹でボーっとしておると、孫一め、前にきて土下座しよる。
「孫一、一生のお願いにござる!」
「な、何用じゃ!」
虚をつかれ、ビックリし、仰け反る秀頼。
「は、妻と離れ、幾歳か……お察し下され」
なんだ、なんだ?
見兼ねた棄丸が口添えする。
「お拾い、い、いや重成さま。おんなが欲しいということでござるよ」
「しかし、お主だけでは他の者に悪いのでは?」
「いや、これこそ上にたつものの特権、これぐらいの役得がなければやっとられません、部下たちもこの場に居れば、そう言うでしょう」
「なるほど、そう言わせん為、船に閉じ込めか」
「う、ろ、露骨に言えば……まあ、その、三人で行きましょうぞ。みなで行けば問題ござらん」
「いや、おなごは欲しいが、買いたくはない。二人で行け」
その言葉に歓喜した孫一、躊躇する棄丸を引張り、宿を出て行く。
「つ、妻にばれたら、お虎にばれたら困る!困る!」
「大丈夫、大丈夫。黙っとったらわかりゃせん!わかりゃせん!」
「ほんとですな?ばれませんな?お虎は怖い!巴御前のごとき女、ああ、もちろん巴御前と違い、美人でござるが。以前、バレたときはそりゃ~もう、大変なめに……」
「がはははは…」
二人の声がだんだん小さくなって行く。宿を出たらしい。
いいなぁ、ともえと離れてずいぶん経つ。男はいったん覚えるとサルなみ、いやそれ以上じゃからのう。
じゃが、性病、梅毒が怖い。ポルトガル人がもたらしたこの性病、梅毒が蔓延しはじめとるこの時代じゃもの。へたに商売女に手をだすのが怖い。
やはり、ある程度以上の身分のおんなをナンパするのが一番よ。
ああ、そういえば、水夫のひとりに背中にあざやかな発疹、いわゆる『バラ疹』のやつがいた様な気がするのう。実物を見たことがないが、明日確かめとこう。まあ、確認したところでなにもできんが、抗生物質がないでのう。せいぜい性交を禁じるぐらいしかできんわ、無力じゃ……
あいつらにも警告しとった方が良かったか?しかし、楽しみに水をさすのも悪いし、なあ?
ああ、つまらん、寝るとしよう。
宿のものに頼み、寝室で横になった。
目をつぶる、疲れで直ぐ眠れそうじゃ。
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「あの、もうし……」
消え入るような小さき声。
「うん?だ、だれじゃ!曲者か!!!」
あわてて飛び起きると、薄暗闇の中に、平伏した髪の長いオナゴが、オナゴが~~~
「父に命じられ、伽に参りました」
「なんと~~~」
「娘のサキにござります」
「わ、わかった。近う寄れ、ちこう~」
「は、はい」
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こうして我らはひとつになった。
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翌朝、拙者は本当の名をあかし、驚く娘に、なにかあったら(もちろん、ピンポーンだったらと言う意味)と言う意味をこめて、ナンパ用に作らせた、18金の取っ手のついた柘植の簪をわたした。
実はこの時代、簪は柘植製が多いのじゃが、取っ手がついて無いため、拙者に使いづらかったため、設計して、京の職人に作らせたところ、オナゴに思いのほか好評で、今回大量に持参して居ったのじゃ。
それを髪にそっと刺してやると、サキは喜んでのう、予のことを内緒にすると約束してくれたわ。
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イヤ~お早う。今日もいい天気。三日続きて晴天で、ずいぶん距離を稼いだわ、良かった、良かった。
それに昨晩は楽しかったな、ふ、ははは……
スッキリした三人と、鋭く何があったか悟って、機嫌の悪いその他の乗組員たちのメンバーで再び朝靄の中、クジラ丸は出発した。
九州までの距離、半分はすごしたか、それにしても、海賊が出らんのう。成敗して、娘をいただくぞうと、昨夜のこともあり、ホラを吹いておると、孫一に論破された。
「良いですかな、お拾いさま。海賊なんぞ、今、おりません。秀吉様の禁止令で瀬戸ではなりたたなくなって居ります」
「ほう、それはまたどうして?」
「海では人間、暮らせません。巣には海岸や、島が必要でござる。でござるので、通行料や、払わぬ船の身ぐるみはがしで暮らしがなりたって居りました」
「フムフム、面白い」
「それを豊臣秀吉様が強大な軍事力を背景にヤメよとおっしゃったのです。逆らえば、攻められて全滅まちがいなし。逃げて行く所さえござらん。ま、そういうわけで海賊は今、いなくなったというわけでござるよ。おわかりかな?」
「うむ、あい分かった」
「じゃが、アレは一体何じゃ?」
「え?………か、海賊じゃ~~皆の者、出会え出会え!!!」
拙者が指差した海の方には少し小さな船、小早船というのかな?それが三隻、波を蹴立てて櫂走してくる。目的はやはりこのクジラ丸らしい。
丸に上の旗指物が船の上でなびいておる、これは村上水軍か?
三隻は直列になって進んできよる。
戦いの太鼓を鳴らしておる。あれはいくさの合図ではないか?
なんでまた、村上が我らを襲うのじゃ?
村上は味方である毛利の配下になっておったのではなかったかのう。
ま、まさか?裏切りか……
棄丸が問う。
「いかがいたしますか?お拾い様」
「知れた事、取り敢えず、一発警告を行い、従わぬ時はみな沈めてやるわ。
皆の者、攻撃の用意!!!」
「はッ!!!」
甲板には三門の木散弾砲が並び、迎え撃つ準備完了じゃ。
ドンドコドンドコ煩い村上海賊船は我がクジラ丸と並走する。
一隻につき、十数人が櫂を漕ぎ、必死じゃ。そして、残り数人が鉄砲をこちらに見せびらかし、威嚇する。
威嚇?こいつら……
「我らを獲物と、ホントの商船と思っとらんか?あの態度」
孫一が笑って答える。
「は、そのようでござるな、コイツら本当に海賊を始めたみたいですのう、は、は、は」
「どうやら、クジラ丸に止まれと言っておるみたいでござる」
棄丸も呆れた顔で答える。
「いかがいたしますか?」
「一発お見舞いして驚かしてやるがよい、そうじゃのう、木砲で帆柱を折るというのはどうじゃな?派手で良いぞ」
「は、おもしろし、良い訓練にもなりましょう。みんな!聞いて居ったろう!それぞれ各船に狙いを付け、折っちゃれ~~~」
「おオーー」
三門の木砲は狙いをつけ始めた。
「ああ、そうそう。撃ち漏らした奴は今夜の焼酒は配給、なしじゃ~~成功した者たちで飲む」
「うえ~~~~」
みな、一段と狙いに気がこもる。
「ダ、ダ~ン」「ダ、ダ~ン」「ダ、ダ~ン」
バラバラと発射され、散弾が飛ぶ。
次の瞬間、三隻とも柱が折れ、海面に落ち、プカプカと浮かんでおる。
「ふ、は、は、は。見事じゃ。見よ、慌てておるわ、見よ見よ」
コチラの思わぬ火力を知った村上海賊、慌てて逃げ始める。
さすが、海の民、チャンと風上にむかって 逃げ始めた。
「逃がさんぞ、追え!」
「は!」
「上手回し、始め~~~」
船上はドタバタと大忙し。大帆が動かされ、間切が始まる。
追跡じゃ~~~
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