第34話
フン、安宅船はダメであったわ。
我が西軍の水軍の要であった九鬼嘉隆め、西軍が関ヶ原で敗れたと知るや、逃亡し、答志島におるという。何処だろ?そんな島知らんぞ…
まあ、そんなこんなで、諦めて、商船の千石船をチョイと改造して使うこととした。この間乗ったのより大きくて、全長三十メートル位あるかな。だけど、この間の船に乗っておって思ったんだけど、強度がたらん。間切ったら、船体がギシギシ言って歪んでるのがわかる。これはいかんだろう。コワイわ。
大体、和船は西洋船の様な竜骨がない。船底の分厚い板に、側板を貼りつけていって作る。作るのは比較的簡単だが、強度は不足気味じゃ。
まあ、沿岸で物を運ぶのには、大きさの割に容積がデカいし、喫水が浅いから川にもある程度入っていける。じゃが、外洋ではだめじゃ。補強が必要だし、外洋の荒い波にも耐えられるようにしなければならん。
で、色々考えたんじゃが、時間がない。一週間で改造させたのが以下の通りである。
一、船体の内面に沿って、進行方向と垂直に、補強材木を前部、中部、後部の部分に張り巡らし、その補強の中をそれぞれ、×の形につなぐ。つまりレースカーの補強からヒントを得たのじゃ。
ついでに従来の梁(横方向の補強材)も倍にした。
二、真ん中の補強の部分に、帆柱を括りつけることにより、帆の強度を高める。
三、床を張り、廻りに手すりを全周作り、木砲のアタッチメントとして使えるようにした。
四、平底とて、安定が悪いので、両側舷から安定板を降ろせるようにした。唐船からヒントをえた。
以上である。ついでに、船底のフジツボ等を綺麗にした。この貝どもがやっかいで、一週間ぐらいでビッシリ付く。そして当然ながら抵抗となり、船足は落ちる。対策としては銅板を張るのである。これは銅から、銅イオンが出る為、毒となり、生き物が住み着けないという寸法である。が……、時間がない。銅板もじゃが、取り付ける銅くぎがない。仕方ない、タールでも塗ってごまかすか……
海に浮かべると一見、普通の大型和船じゃが、両側のヒレにもにた安定板を降ろすと、鯨に似ておる。船首に口を描いたら、似てるじゃないの~~~命名、くじら丸。
さあ、くじら丸で出発じゃ~~~といくわけがない。
まずは操船訓練である。
間切りができる船頭と水夫を若干名雇った。
先生として、我が秀頼隊、二百人近くが訓練を毎日受ける。きびしいぞよ。
櫂をあやつり、帆の綱を引張り、鉄砲、木砲、トックり焼夷弾の訓練をし、船に酔い、
ああこれは予であるか。まあ、とにかく忙しく、訓練の日々は過ぎていく。
大阪湾に繰り出した和船は、大帆を使った操船の練習をくりかえす。
素人が大半とて、失敗の連続じゃ。
「引け引けー。もっと引っ張らんか!遅いぞ、それでも武士か!!」
「ええ、もう~武士は帆を引っ張ったりせん!戦うのみじゃ!」
「え?………」
ベテランの水夫と我が秀頼隊の精鋭との間に、亀裂が走る……
兵士の一部が操船を習うことを拒否したのじゃ。このままでは困るのう。どうしたもんか?
やっぱり、あれでいくか?
「棄丸、孫一、何とかしてくれ」
「は、承知仕る」
「へいへい、御拾い様、まかせてくだされ」
二人はあっさり承知した。
その後は問題なく、みな真面目に訓練を受けておる。
うむ?どうやったのかって?詳しくは知らんが、ボコボコにしたんじゃないの?
軍隊なんてそんなもんじゃよ、命令違反は制裁を受ける。
いざという時の、みなの命にかかわるからのう。
「いくぞ、上手回し、間切るぞー」
「オオーッ」
みなが船上を走り回り、綱を引張り、固定する。大帆は曲がり、風向きに対して八〇度ぐらいで帆走し始めた。これくらいではやや風上より程度であるが、大帆一枚ではなかなか難しい。訓練で七〇度ぐらいにはしたいものじゃ。
吹いてくる風にたいして左舷および右舷乗詰め開きを交互に繰り返して、操船を行う訓練をおこなう。
熟練すれば、順風、横風の時のみではなく、ある程度の逆風でも前に進めるのじゃ。
上手まわしが難しいのう。下手回しは出来るようになったんじゃが、やはり上手回しが上手くならんと問題よ。
なになに?上手回しと下手回しがよくわからんとな?ド素人の予が詳しいわけなかろう。
それに我が船の船頭も、最近、間切りをやり始めたとて、説明があやふやでのう、どうもカンが半分らしい。
いつか毛唐の船乗りを雇って、教わらなければのう。ちょうど良い、この航海で、西洋船に出会ったら、教えてもらうぞ、ついでに西洋船を買いたいのう。金はあるぞよ、ふ、ははは。
ああそうじゃった、説明をしなければのう。上手回しとは予の少ない知識によるとじゃ、帆船の方向転換で、風上に向かって船首方向を変える操船方法で、下手まわしとはその反対である。わかったかな?
で、それを繰り返して、むりやり風上方向に進むというやりかたである。
例 上手まわし
風に対して帆を左にずらし、帆に風を受けると船は右方向におしやられる。
次に帆を右にずらすと、今度は船は左方向に押しやられる。
これを繰り返すことによって、ジグザグと風にさからって進む。
下手まわしはいったん、逆方向に進んで、一回転するように回ってから、逆方向に進む。
風に逆らわず、回り始められるので、失敗はすくないが、最初、逆に進まねばならんので非効率である。その点、上手回しは直接風上に進めるが、強引な方法なので、上手くやらんと失敗してえらい目に遭う。訓練では何度も立ち往生したもんじゃよ。
かんたんに言うとそんなもんである。実際はとても大変、細かくは予はわからん。
「ほ、ほ~」とおもって見てるのみ、なんせ、予は船主じゃもの、ははは。
ああ、船頭はこの間やとったベテランがて行う。いくぶん船の経験がある孫一は戦闘部隊長。司令官が予。
棄丸はなんでも補佐をする役の、副長と決まった。五郎はお留守番。
兵は鉄砲隊、槍隊から、うまく操船になじんでくれた約百名。
ベテランの水夫が約十名。
以上である。
日々訓練あるのみじゃ~~。
そうそう、船酔いせんようになったぞよ、喜んでくれ。
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