第14話

第十四章(帰城)


【本文】

東軍の勝ちが決まってしまった……

 こうなったら、大坂城に籠もるまでよ……

 時間を稼ぎつつ、体制を整えなければならん。

 さすれば、徳川家康と五分になれよう。

 いや、予の名前と、データの詰まったこの頭を合わせれば、有利かも?

 と、とにかく、逃げろや逃げろだ。


 * * * *


 我らは、東軍勢と再び戦うこともなく、無事大坂城にたどり着いた。

 もうへとへとである……

 予の尻は、日本ざるのごとく真っ赤である。

 ふらふらでたどり着いた予は、直ちに今後についての会合を開きたかったが、なんせ八歳の身体。無理がきかん。

 「あとを頼むぞよ」

 捨丸に当座の全権を託すと、ともえに支えられて奥へもどり、泥のように眠った……


 * * * *


 「お拾い様、お拾い様」

 ともえの心地よい声にて予は起きた。

 「うーむ、もう少し、寝たいよ、ともえ〜。」

 「もはや夜にございますよ」

 眠気が吹っ飛んだ!

 「し、しまったぁ〜、半日も寝ておったか!これはいかん、いかん」

 予は慌てておきた。

 「五条さまが、重大な件で、お目通りを願われております」

 「なに、そうか。直ちにこれへ通せ」

 「ここは、男子禁制の奥でございますが……」

 「そんな事、いっとる場合か!直ちに通せ!」


 かくして捨丸は、奥へ恐る恐るやってきよった。

 こういうところが苦手なヤツが目通り願うのじゃから、よほどの重大事に相違ない。

 家康がもう攻めてきたか?いくらなんでもそれはなかろう。 名だけになっておるにしても、予はまだ主すじじゃ。名目が立つまい?

 「どうした、捨。何があった?」

 「はッ人払いをお願いいたしまする」

 予は人払いを命じた。

 二人きりじゃ、捨丸に害意があれば予はおしまいじゃ。

 そんなことは捨丸にかぎって、と思いつつも、なにか怖いの。

 予も一人前に成ってきたのう、ぬしとは疑心難儀ぎしんあんぎであらねばならん。

 まあ、それはともかく……

 「で、なんじゃ?」

 「はッ。石田三成殿がここ、大坂城に来られております」

 「なに! あいつは逃げる途中、東軍に捕まったのではないのか?」

 「いえ、退却中、秀頼さまの御勇姿を聞きつけ、お喜びになり、万難を排してここにたどり着かれたそうでござる。今後、手となり足となりお助けしたいとのことです」

 「ふーん。それで皆、三成の帰参を知っておるのか?」

 「いえ。こたびの戦いについて、まず内々にお話ししてからということで、2,3の者どもしか知りません」

 ふん、やっかいな嫌われ者がやってきたわ、まずいのう。  

 しかし、史実とずれはじめたの、今後は気をつけねばのう。

 しかし、どうするか?

 三成については、これしかないかのう……

 よし、決めたわ!

 「三成は敗軍の将じゃ。あやつが、予に対してすることはひとつ!」

 「は? どうゆう意味でございますか?」

 「察せよ! おぬしが三成ならすることを、三成にさせよ。無理強いしてもじゃぞ、よいか!」

 困惑していた捨丸、そう言われて、はっと気づいた。

 「ただちに、そのように」

 捨丸はいそぎ出て行った。

 

 予は会合を開くべく、急いで夜食の湯漬けをたべ、表御殿へと向かった。

 そこには毛利輝元その他、大坂城に残っておった豊臣の重臣どもがあつまり、今後のことについて相談しておった。

 その中には、予が知らぬ面々もおった。

 予がはいっていくと皆、平伏した。

 予は輝元が譲った上座にどっかと座り、一礼して言った。

 「おくれてすまぬ。いやー予はまだ子供だで、睡眠は十分にとらんと、背が伸びんでのう」

 「ふ、は、は、は……」

 みな、冗談と思ってか、笑っておるわ。

 本気でいったんじゃが……

 身長は夜、伸びやすいなんてこと、この時代はまだ知られとらんか?

 さて本題に入らねば。

 「さて、今後じゃが、もちろん徳川家康を糾弾し、ここ大坂城にて軍を集め、対抗する。最後は徳川家をほろぼすのが目的じゃ」

 みな、これは大変じゃと顔を見合わせておる。

 予が念を押す

 「よいの!」

 「は、はーっ」

 一斉にみな、平伏をする。

 「それで、関ヶ原の戦いは私戦じゃと宣言し、両方の総大将、家康と、三成の責任を問う」

 一瞬、間を取って宣言する。

 「双方とも、責任をとり、直ちに切腹しろとな」

 かなり無茶苦茶な話ではあるが、輝元をはじめ、重臣どもも、覚悟を決めたとみえ、何も言わん。

 そこにタイミングよく、捨丸がはいってきた。

 「申し上げます!」

 「いかがいたした?」

 予はとぼけて言った。

 「三成さま、敗軍の責をとって、ただ今切腹なされました」

 「なんと! おしい男をなくしたの……

 したが、是非もない。責任は責任じゃからのう」

 そう言った後、予は輝元をじっと見つめた。

 輝元、予をみて覚悟をきめたとみえ、こういいおった。

 「わが家中のものどものふるまい、ちゃんと責任はとらせまする」

 他のものどもは驚いておるだけじゃ。

 阿呆どもめ!こいつら、思うたとおり、あてにならんぞ。

 「それで、近隣の武将たちは一体、どうなった?」 

 「よくわかりもうさんが、かなりの西軍派は、領地に逃げ帰ったと聞きおりまする」

 「ここに、逃げ込んできたのは?」 

 「今のところ、宇喜多勢のみでござる。秀家どのは行方不明でござる」

 ふん、そんなもんじゃろ、ますます逃げる奴が今後、増えよう。

 「そうか、まあ、とりあえず、みな領地に帰ればよいわ。一度、仕切りなおしじゃからのう」

 とりあえず、こんなもんか……

 「しばし解散じゃ。予が呼ぶまで各自、持ち場に戻れ。

 右筆よ、各武将への檄文、書けたらもってこい」

 不承不承、予に一礼すると、みな戻っていった。

 「捨は残れ。聞きたいことがある」

 皆がいなくなってから、当然、三成の様子を聞いた。

 「拙者が秀頼様の意を伝えますと、色々、言っておられました。

 が、拙者ががんとして引かないと解るとあきらめられたご様子でござった。

 しかし、最後まで自分は悪くないと切腹されませんでしたので、拙者が無理矢理手に短刀を持たせ、腹をえぐり、首を落としました。首はここにござる」

 捨丸はさらしに包んだものをそっと差し出した。

 「もう良い、家族に送っとけ。懇ろに弔えとな」

 「このこと、ないしょじゃぞ、よいな」

 「は、心得てござる」

 捨丸は首と一緒に下がっていった。

 三成め、武将ではないの。

 武士なら責任とって切腹するか、尻に帆かけてとんずらするものぞ。

 のこのこ来るとは!あいつ、骨の髄まで官史じゃのう。


 さて、次の一手はこれじゃのう。

 予は輝元を表御殿に呼び出した。

 輝元は来るなり、平伏して言った。

 「わが一族の不始末、まことに申し訳なし」

 「そうじゃのう……

 小早川はもう、毛利の一族とは言えんが、吉川の裏切りはひどいのう。あれなくば、家康にむざむざ三成も負けなかったろう」

 予の情報の早さにびっくりしておったわ。

 だが、小早川秀秋は、予の親戚で、小早川の養子になったはず。

 それで、豊臣を裏切ったから罪が重い。

 吉川広家も憎たらしいが、輝元の一門だから、ここは助けとこう。

 「草をな、多数、関ヶ原に走らせたのよ」

 嘘ばっかり、我なが人が悪くなったの。

 「責はとらせます」

 「切腹はやめよ、毛利内部にうらみを残す。本人のみの追放でよいぞ。

 ただ、秀秋は予の親戚のくせに、ゆるせん!あいつのみは殺す」

 「は。承知つかまつった」

 「それでの、手始めに、福島正則をこっちに引き込みたい。豊臣譜代の代表じゃからのう。じゃが、あやつめ、東軍で、関ヶ原一番の働きをしおって、簡単にはなびくまい。

 それでな、今から高台院のもとへ予はいく。そして、高台院様に説得してもらう。

 聞くところによると、正則は高台院に頭が上がらんらしいぞよ」

 「しかし、高台院さまがその労をとってくれますでしょうか?それに、京までは東軍に属する軍勢が多いと思われます。

 危険です!ここで秀頼様に何かあったらおしまいです」

 「心配するでない。こちらには秘密兵器がある。大丈夫じゃよ」

 「し、しかし」

 無茶苦茶はわかっておるわ……

 常識的にはここ、大坂城にどっかと居座り、あれこれと指図をして、部下を動かすべきじゃ。

 じゃが、予は現代人まじりのガキじゃぞ。

死んだって、じっとしとるのはイヤぁー。

 絶対イヤじゃ!

 そのくらいなら、ここを逃げ出すわ……

 「たのむぞよ、おぬし。予の不在がばれぬよう、頼むぞ」

 予は抱きついて頼んだ。

 「あいみたがいであろう?のう?」

 輝元にはこれが利く!

 「は。」

 不承不承ながら輝元は、可愛くたのむ予の願いを断りきれず、承知すると、二の丸に帰って行った。


 「さて、捨よ。聞いた通りじゃ。準備せい」

 「な、なにをでござるか?」

 「決まっておる、騎兵隊じゃ。あれを、予の鉄砲騎馬隊を連れて行くぞ」

 「あれは未完成でござる、実戦で使ったことがござらん」

 「何事も、初めてがある。使うぞ!明日、出発じゃ」

 「はー、はは、はァ」

 捨丸、困惑しながら帰って行った。

 予も、どたばたと奥へ帰って行った。


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