第2話
第二章(淀殿の登場)
【本文】
いやー変な夢みたな。
さあ、帰ろう。こもり地獄へ。
う、そうだった、またこもりかあ。
いまの夢の方が良かったな。
どうしよう。蒸発でもするか?いや、予は出来んなそんな無責任なことは。
うん?予だと?こ、これは。
「ほ、ほ、ほ。ここが夢のなかぞ。先ほどまでが現世じゃ。おぬしは秀頼様にすがって生きてくしかないのじゃ。秀頼様をお助けするのじゃ」
「しかし、おぬし強すぎる。秀頼さまを取り込みそうになっておる」
「おぬしが取り込まれなくてはならんのじゃ。少し弱らせねばな」
「えい!えい!」
「ぐわーッ。苦、苦しい」
この女、また予の頭に手をつっこみおった!負けてなるか、このやろう。
予も負けじと女の頭に手をつっこみかきまわす。
「ああーッ」
女も悲鳴をあげている。
「ぐわーッ」
「ああーッ」
悲鳴合戦だ。
女が消えた!予が勝ったぞ。現代人のしぶとさを舐めんなよ。
予を呼ぶ女の声がする。またあいつか!
そこで予は眼が覚めた。
「お拾い様、お拾い様」
なんだ、ともえちゃんじゃないの。
「お拾い様、お目覚めになりましたか。おかか様がお呼びでございます」
ついに来たか。対決のときじゃ。うまく言いくるめなくてはならん。
「うむ。あいわかった。今から行くとしよう」
予は身だしなみを整えた。ふと、鏡を見てみると、
そこには最初に見ただらしないデブではなく、
なんとなく精悍なデブが写っていた。
「うむ、予は変わったな」
自画自賛してると、皆がいっせいに平伏した。
なんとなく気分がよい。こりゃ、やめられんのう。
権力の魔力を垣間見た気がするぞ。
「いざ、かかさまの元へいくぞ。ともえ、付いてまいれ」
「はい」
其の返事や良し。同じ奥御殿の、淀殿が部屋に向かっていく二人。
そこは、予の部屋にまして広く絢爛豪華であった。
その奥、一段と高くなった場所に、ひとりのおなごが座っておる。
周りには大勢の女達が並んでおるのは、映画の大奥にそっくりだな。
予はずかずかと進み、その前に敷かれた座布団にどっかと座った。
ともえは末席に座ったみたいだ。
予は深々と頭を下げて言う。
「おかかさまには、ご機嫌よろしゅうございまする。」
映画の受け売りだが決まった!
その凛々しさにまわりの女子どもがざわめいている。
予は、はじめて見る淀殿をじっと見つめた。
なんだ、気のやさしそうな、若いおなごではないか。
細面で、眼は幾分切れ長。美人じゃ!
現代の眼でみても美人じゃ、上品な感じじゃのう。
うーむ、信長殿の面影はどこにあるのかのう。
などとじろじろ見てると、彼女(いやまさしく彼女と呼びたい)は、優しい声でいった。
「お拾い殿、そのように見つめられると恥ずかしい。何だか急におとなに御成りですね」
「あ、いやそれについてはお話が。人払いをお願いします。」
彼女は可憐にうなずいていった。
「皆の者、遠慮せよ」
女ものどもが、ゾロゾロとでていった。
大蔵卿いうあの老女が残っている。
予は、出ていかんか、ワレ。と睨みつける。
「わたくしは淀様のお側は離れられません」
「ばか者!親子の大事な話があるんじゃ。さっさと出てゆけ!」
予がにらみつけて低い声で言うと、老女は腰をぬかし、いざるように出て行った。
「うふふ、お拾い。怖いこと。あの頑固な大蔵が腰を抜かしましたよ」
「これは、これは。そこまで脅かすつもりではござらん。軽く言ったつもりでしたが。おかか様、後でわびを言っといてくだされ」
「良いのですよ。私も二人で会いたかった。可愛いわたしのお拾いちゃん」
たはは、そうだよな。八歳なんだから、予が不自然なんだよな。
「実は、夢の中にお父上がでてこられました」
「なんと太閤様が」
彼女は驚いて眼を見ひらいて言った。 か、可愛い!
親じゃなきゃ惚れそう。
「太閤様は、いや、父上はこのまま三成に任せておいては豊臣家は滅ぼされてしまう。ついては、跡継ぎのお前が指揮をとれと。
子供だから無理じゃと申したのです。すると、後ろから一人の小さき人が現れました。
父上が言われるには、黄泉のくにで知り合った知恵の神だとか。
で、かるたをして勝って、その賞金としてしばらく力を貸してもらえることになったと。
それで、私の中に神を入れられました。それで、急に賢く、大人になったというわけなのです」
「それで、太閤様はその後、なんと。私のことは何か言ってらっしゃいませんでしたかえ?」
うわっ。そっちかい。やはりか弱きおんなじゃのう、母上は。
「いいえ、何にも。あッ、これから地獄へ向かうので、みな達者でな、とのことでした」
「おお、こわや。太閤様、お可哀そう」
あんだけ人殺しといて天国行くほうがおかしいだろう。
予も含めて武士は地獄行きだとおもうよ。
「母上は天国間違いなし。予のなかの知恵の神がそういっております」
「おおそうか、うれしや。豊臣家のこと頼みましたえ?」
「おまかせください、母上」
ふー、うまくいったわ、わりと簡単にだませたな。
それにしても、淀殿かわいいなー。
では、ともえ、帰るぞ。予は意気揚々と予の部屋に戻った。
さて、腹が減った。晩飯じゃ。
さぞかし豪華なものが出てくるかと予は楽しみにしとった。
「お拾い様、晩ごはんにございます」
「うむ」
高い足のついた膳が並べられた。たいしたことないなー。
なんだかわからん魚の煮魚。味噌汁、なすの漬け物。白米のご飯。
これだけかー。
よくこれでデブになったな、お拾いクン。
仕方ない、まずは食うか。
予は黙々と食う。姿勢を正し、上品に、大量に。ご飯に味噌汁をぶっかけ、かきこむ。
どうみても現代人からみたら、品のない食べ方なのだが、これがどうして、どうして、品よく感じる。
さすが豊臣家の惣領である。
しかし、何度もおかわりする。これは太るぞ!
この、飯は冷えてるわ、、味噌汁はぬるいわ、煮魚は冷えてだだ辛いわで、ちっともうまくないのによく食うな、君は。
側では、侍女がおなじものを食っておる。毒味役かな?
あー肉くいてー。
「ごちそうさま」
とにもかくにも飯を腹いっぱい食い終わった予は、眠たくなった。
ど、どっと疲れたぞよ。
八歳にはきつい一日だったからな。
も、もう寝るぞ……
「ともえ、予は寝るぞ」
「え、まだお勉強が。先生が表御殿にお待ちですが?」
「なに、中止じゃ。そう伝えて、帰せ。それから当分こんでよいとな」
「心配はいらん。手当ははらうとな」
「それから、ともえ?」
「はい」
「終わったら、寝室へ来よ。待っておるぞ」
ともえは、黙ってうなずくと、恥ずかしそうにうつむいていた。
ウホーッ、ホホホ。
予は意気揚々と寝室にはいり、布団の中で待つつもりだったのだがァ。
寝てしまった。
「もうし、もうし」
「なんじゃ、うるさいぞ、予は疲れておるのだ、寝てるのだ、起こすでない!」
す、す、ス、す、す。
「もうし、秀頼さま」
「う、起きてしまったではないか!明日も忙しいというのに!」
「いえ、まだ夢の中でございます」
「わ、お前はあの亡霊女、まだやるというのか!くるならこい、負けんぞ!」
「いえ、いえ、とんでもありません。この間はすみませぬ。これこのとおり」
亡霊女が、目の前で土下座していた。
しかし、白の着物をまとい、まさしく亡霊という感じじゃな。
などと予の悪い癖で批評していると、おんなはしゃべり始めた。
「はじめからお話いたします。実は、さる高貴な方に命じられ、秀頼さまをお助けしてくれる人をさがすことになりまして。それであなた様をお連れしたわけです」
「しかし、どうやって予を未来から連れて来られたのか?まあ魂だけとはいえ。あッ、そうだ、おまえのおかげで、予は事故ったんだぞ、どうしてくれる!」
「いえ、私は未来などには行けません。黄泉の国へ、魂で行き来できるだけでございます。黄泉の国にはいろいろありますが、一番みだれた国に着いたところで、あの場所に出会いました。その中にあなた様の、前のお身体がはいっておられました。そして魂がちょうど離脱しようとしておりましたので、これ幸いとここ、秀頼様の中にお連れいたしました」
「ふーむ、左様か。ならば第二の人生をくれたお前に感謝しなければならんかな?」
「いえ、めっそうもございません。この事、あるじ様に報告したところ、たいそう怒られまして、今までのことを詫び、秀頼さまをお願いしてこいと命じられました」
「あるじとはだれじゃ、正直に話せ」
「はい。高台院さま、ねえねえ様にございます」
高台院?たしか北の政所のことだよな。でも、ねえねえ様って?
予の記憶ではねね様のはず。記憶違いかな?
「それで、高台院さまはなんと?」
「ここにいたれば、あなた様に豊臣家と秀頼のことすべてをお願いしたい。協力は惜しまぬとのことです。よろしくお願いいたします」
おんなは、再び深く、深く平伏した。
「こちらとて一蓮托生じゃ!」
破顔一笑、胸を張る!
「なんの、家康などわが知識とハッタリで滅ぼしてやるわ」
「ああ、頼もしきお言葉。よろしく、よろしくお願いいたします」
おんなは、平伏したまま、消えていった。
今言ったろ、予はハッタリじゃと。
みんな、純真じゃな、すぐころっと信じるぞ。
しかし、ここは過去と信じておったが、違うかもしれんの、うーむ。
そういえば、本で読んだ秀頼の年齢は五、六歳ではなかったか?
予はいま、八歳じゃぞ… 違うなぁ。
ということはここは異次元の世界かもしれんし、予の記録が間違ってただけで、本当の過去かもしれん。
まーどっちでもよいが、とにかく高台院様と一度会わなければならん。
親衛隊を作ったら、真っ先に会いに行こう。
どちらにせよ、大坂城の中だけでは息がつまる、どこかに遊びにいきたい。
なぜにこんなに遊びにいきたくなるのかな?
身体は、八歳じゃからのう、仕方あるまい。
「お拾いさま、お拾い様」
「こんどはなんじゃ!」
「朝でございます」
「……あいわかった」
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