第5話 変化は常に起こる

 変化は翌日、すぐに訪れた。朝、教室に入った瞬間に視線が集まるのを感じたのだ。これが芸能人の気持ちかぁ……と、感傷にひたっていると、早速友人くんが絡んできた。


「おい!月瀬!告白成功したってマジか!?」


 クラスに響き渡るほどの大声で尋ねてきた。そういうことって普通大声で言わないで、徐々に広がっていくのが暗黙の了解じゃないですかね……


 そんな思いも届かず大声を上げた友人……そして、東雲に嘘告白した原因でもある彼は鳥羽とばかける。すごい爽やかな名前だが、その名前に恥じない運動神経の持ち主でサッカー部の直エース候補。典型的なリア充ってやつだ。だがかくいう俺もクラスでの立ち位置は鳥羽グループだ。


 まぁグループとかそういう明確な区切りがある訳ではなく、みんなと仲良くやってるけど鳥羽とは特に一緒にいるよーみたいな所だ。もっとも他の人から見ればクラス内カーストトップとも思われる位置かもしれないが。だからこそ東雲が俺の名前を覚えてくれてなかったことにはかなり驚いた。


「え!つーくんまじ!」


「へー!やるじゃん!」


「日浦……坂城……お前らなぁ」


 そして、鳥羽に少し遅れて二人の女子が近寄ってくる。


 日浦ひうらみお坂城さかしろ椿つばき。二人とも今年になって絡み始めたメンバーで、間違いなく可愛い部類に入る女子たちだ。


 俺は告白の旨を皆に伝えようとしたが、ふと鳥羽に問いつめなくてはならないことがあったのを思い出した。


「そんなことよりお前どういうつもりだ!」


 聞くと日浦と坂城は頭に?を浮かべた顔をしたが、鳥羽は待ってましたと言わんばかりに答える。


「テストのことかなー?ちょっと本気で勉強しただけだよ」


 そう言いニッと笑ってくる。悪巧みが成功した子供のような笑みだ。しかし、俺が聞きたいことはテストの点数では無い。が、俺が言葉を発するよりも先に彼は興奮した様子で尋ねてくる。


「で?成功したのか?」


 はぁ…昨晩結果教えたんだけどな。


「まぁいいか。付き合うことになったよ」


 小さな声で答えると、二人の女子はキャーと声を上げた。


 しかし、俺の返事を聞いた彼は驚くわけでもなく、ドヤ顔で俺との距離を詰めてくる。


「まぁ俺に感謝してくれよ!俺が賭けに勝ったからお前はこの賭けの勝利よりも大きい人生の勝利を手に入れたんだからなっ」


『賭け』という部分が周りに聞こえないようにするためか、俺にだけ聞こえるようにボソッと言った。


「物は言いようだな。これで振られてたらお前とは絶交するつもりだったが残念だ」


「ハッハッハ。悪い冗談を〜」


 ……あながち冗談ではないんだがな。


 しかし、鳥羽と今絶交してしまったら東雲を落とす難易度がさらに上がってしまう。なんせ昨晩考えていた協力者は鳥羽のことだからな。


「まぁ確かに、結果だけ見れば良かったかもな」


「だろだろ?」


「だが、お前のテストの点と俺の勇気に免じて少し協力してくれないか?」


 彼は一年生の頃はテストで五割を取るのが精一杯と言っていた。現に去年傍から見て頭のいいようなキャラには見えなかった。それに比べて俺は常に七割キープ。今回のテストでもいつも通り七割程度の点を取った。勝利を確信してたのだが、鳥羽は今回急に八割以上の点数を取ったのだ。つまりは俺の事を騙していた。


 もちろんそんな事で騙される俺が悪いと言われればそれまでだし、そもそも勝負を受けた時点で俺が文句を言える立場でもない。だから俺が彼に問いたいのはその「嘘」についてでは無い。


「なになに?梓について聞きたいのか?」


 そう……鳥羽と東雲は家族ぐるみの幼なじみなのだ。

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