第8話 昼休みくらいは休息を
そうこうしている内にやってきた昼休み。ちなみに午前中の授業は窓の外の風景をぼーっと眺めているうちに気がついたら終わっていた。内容は一切頭に入ってきてない。
時間が経つにつれ、俺に対するクラスメートの絡みも減ってきたから、昼休みはゆっくり休むつもりでいた。
俺の通うこの京浜高校には公立高校にしては珍しく大人数を収容できる食堂がある。数年前に新設された際に新しく加えられたそうだ。だから公立高校なのに校舎が綺麗でもある。さらに、千葉県内でも上位に位置する偏差値なのでかなりの人気校だ。
俺はいつものように鳥羽と一緒に食堂でご飯を食べるつもりだった。日浦、坂城とは仲がいいが、飯は別れて食べる時と一緒に食べる時がある。食堂で食べる時と何かを買ってきて教室で食べる時、様々なケースがあるので自然なことだろう。
ただ、今日はまた別ケースだった。
食堂でばったり東雲と南に出会ってしまったのだ。勿論偶然じゃないとは思うが。そしてそのまま一緒に四人で食う流れに。正直「今日くらい梓と食えよー!」と、言われるだろうな、と思ってたからそれと比べればマシかもしれないが。俺は『生姜焼き定食』と書かれた食券を係のおばさんに渡し、生姜焼き定食が出てくるのを待つ。
唯一の救いは東雲が愛妻弁当を持ってこなかったことか。
そんなくだらなくてありえない仮定を考えている内に頼んだ定食が出てきたのでテーブルへ向かうことにした。テーブルに着くと、既に俺以外の三人は席について、昼飯を食べていた。
「よぉ、遅かったな。もう食べ終わっちまうぜ」
そう言い、既に四分の三以上が食べられているうどんを見せられる。しかし、早いのは鳥羽だけではないようで、南ももうすぐ完食しそうな雰囲気だ。
……ちょっと早食いすぎない?俺遅れたと言っても数分も遅れてないよ?
彼らの早食い度合いに唖然とし、東雲の方を見てみると、そこにはまだ食べ始めたばかりと思われる天丼があった。なるほど、考えなくてもわかる。
「謀ったな?」
そんな俺の言葉を聞いて鳥羽と南はニヤリと笑う。
「二人はーお互いのことのどこが好きなの?」
でも、初めから二人だけにするならわざわざ回りくどいやり方をしなくてもいいのに、と思ったがこの南からの質問を聞いて悟った。
こいつら、俺らを見て楽しみたいだけだ、と。
強制力のない質問だったが、東雲を惚れさせるためだ、と自分を納得させて、恥ずかしさをしのぎ答える。
「朝も言ったけど優しいところが一番の理由かな。実はこの前俺が彼女を傷つけてしまうことを言ったんだよね。もちろんすぐに後悔したんだけど、東雲は自分も辛いはずなのに、そんな俺のことも認めて、励ましてくれて……救われたって言うか。ほんとダメだな俺も」
と、昨日の告白のことをさもいい感じの雰囲気で言う。ここでのポイントは自分の頼れなさアピール。普通逆じゃね?と思うかもしれないが、東雲はいわゆる完璧人間だ。可愛くて勉強も出来て運動も出来る。ならば「キャー!月瀬君頼れる!」という方針よりも「もうっ月瀬君たら私がいなきゃ何も出来ないんだからっ」的な展開を期待したもの……だが、最初は実験みたいなもの、そこまで期待はしていない。
さて手応えは……?
と、東雲を見てみると、照れを隠すように手で顔を覆っていた。
……あれ?意外と??
そんな微かな達成感を得ながらも逆にその姿を見て俺も羞恥の嵐に襲われる。
しかし、南は攻撃の手を緩めない。
「おアツいことで〜!じゃあ梓はどうなのかな?」
興奮した様子で今度はターゲットが東雲に移り変わる。ターゲット変わってもどっちにしろ恥ずかしいから関係ないんだよな。だって全体攻撃だもん。
対して東雲は、顔を赤くしながらも小さく今にも消えてしまいそうな声で答える。
「え、えっと……全部?」
鳥羽と南から黄色い歓声が湧く。でもそれはダメだ。破局フラグだ。ソースは特にないが。
「おアツいねぇ!あ!私たち用事があるんだ!じゃあごゆるりとー」
と、言い南が東雲の背中をかるく叩いて去っていく。それに合わせて、
「じゃ、頑張れよ!」
鳥羽も南のように俺の背中を叩いて南を追うように去っていった。違ったのは叩いた威力だな。すごい痛かった。だが、彼らが居なくなるのは別に想定内だから良いのだが、問題は――
――彼らがいなくなった瞬間東雲の照れが消えて真顔になったのだ。
「いやー、イチャイチャするふりも大変だね」
と笑いかけてくる。その笑みは先程まで俺に向けてきていたものではなく、昨日の告白の時に向けてきたクールな笑顔だった。ただ、その笑みに明らかな違いがある訳では無い。傍から見たら恐らく気づかないだろう。そう思いながらも、どうしてもハッキリさせたいことがあったので、恐る恐る聞くことにした。
「一応聞いておくが、今日の行動全部演技か?」
「うん!そーだよ!」
どうやら俺の質問は想定内だったようで間を開けずに演技じみたトーンで返ってきた。
そして頬杖をつきながら俺を見下すような、けれどもどこか面白いものを見るような目で続ける。
「それにしても、その程度じゃ全然私ドキドキしないよ?真面目にやってる?さっきの長文めちゃくちゃキモかったし」
「キモかった……」
やっぱりもっと簡潔に言うべきだったか……。もしかしたらキモイかもとは思ったが改めて言葉にされるとくるものがあるな……
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