第7話 高度な駆け引きあるいはただのイチャラブ
そして今に至る。
俺は一呼吸おいてから目の前の鳥羽を睨んで言う。
「まぁとにかく協力しろ。お前の真意は今は聞かないでおくが、明日開けておけよ。部活オフだよな?」
「え、いや朝練あるけど。午後は空いてるけどね?でも梓とデートしなくていいの?」
自分が攻撃されてるのにも関わらずニヤニヤしながら煽ってくる鳥羽。しかし、わざわざ煽りに反応してはキリがない。
「わかった。午後からでいいよ。追って連絡する」
「えー!何それ私も行きたい!」
先程まで黙っていた、恐らく会話の内容をイマイチ理解していない日浦が声を上げる。
「あ、じゃあ私も私も〜」
それに便乗する形で坂城も気の抜けた声を上げる。
彼女らと仲良くなってから未だ一ヶ月ということもあり今まで一緒に休日に遊ぶことなんてしてなかったから、一緒に行く、という言葉は素直に嬉しいものだった。しかし、俺はその誘いを断らなくてはいけない。
「いや、さすがに付き合って一日二日で女子と遊ぶのは流石に……ね。埋め合わせするから!」
とってつけたような理由だったが二人は不満そうな様子だった。
「えーでも翔とのデートはありなんだ?」
「いや私はむしろそれいい!」
冷静に考えれば男子同士の遊びに嫉妬する彼女なんてなかなかいないとは思うが、むしろそれいい、ってどういう意味ですかね日浦さん?
こんな軽口を叩きあってると教室の後ろ側がざわつき始めたのがわかった。どうやら東雲が登校してきたようだ。その東雲を囲うように女子たちが群がる。
「月瀬と付き合い始めったってホント!?」
この声の持ち主は南彩音。ショートカットな茶髪に、ルビー色に輝く瞳。さらに、バスケ部のレギュラーなのも納得のスタイル。東雲に負けず劣らずのルックスで、東雲と普段から仲良くしていることから男子の一部から「東南コンビ」と呼ばれてるとか呼ばれてないとか。
しかし、その大きな声とは反対に、東雲は小さくつぶやくような声で
「うん……マジだよ」
と、頬を赤らめながら答える。周りから黄色い歓声が聞こえてくる。俺はその東雲の昨日とは違う振る舞いに胸を打たれる。まず間違いなく演技だろう。勿論俺以外はそんなこと知る由もないが。
逆に俺も同じことをすれば東雲は俺に惚れるのでは?とか思ったけどそんな甘くないだろう。
そんなことを考えてるうちに南が俺の元へニヤニヤしながら近づいてくる。
「ズバリ!東雲さんのどこが好きだったのですかっ!」
手でマイクを作り、からかうように俺に尋ねる。
折角だし仕返ししてやるか。
「えーっと、なんだかんだ優しいところかな」
自ら照れた顔を作り出し、しどろもどろに答える。辺りから歓声が沸く。そこに混じって「リア充爆発しろ」って聞こえてきた気がするが気のせいだろう。
ちなみに、好きなところを聞かれて「全部」って答えるカップルはすぐ別れるらしい。ソースは特にないけど、全部と答えることは具体的な好きなところが思い浮かばないということだからな。
感触を確かめるために東雲の方を見ると、東雲も俺の方を見ており、目が合うと、ニコッと照れながら笑みを浮かべた。逆に俺がその笑顔にやられてしまった。
コイツ……これ演技なんだぜ?静まれ俺の煩悩。
「次は〜梓は何で月瀬君のどこが良かったの〜?」
俺が自分との戦いをしている内に南はターゲットを変え、東雲に尋ねる。
ただ、俺にはどこが好きだったの〜?って聞いたくせに東雲にはどこが良かったのー?って聞くのはなんか失礼じゃないですかね。
……ここで「なんだかんだ頼りがいがあるところかな」なんて言われたら俺の精神は耐えられなくなるだろう。よしっ、耳を塞ごう。
しかし、耳を塞ごうと、手を顔に近づけたところで鳥羽にその手を遮られてしまう。
「ちゃんと聞かなきゃな」
スカした笑顔で言ってきた鳥羽のことをさらに呪う。
耳を防ぐすべを無くした俺は諦めて東雲の答えを待つ。
「え〜そんなの恥ずかしくて言えないよ〜!」
顔を赤らめて手を振りながら言った言葉は予想外のものだった。
そんなあまりにも大きすぎる昨日とのギャップは演技と分かっていても、俺の心臓を直接掴んでくる。
それにしてもコイツこんなキャラだったのか。思えばまともに関わったのは昨日が初めてだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます