第6話 安易な賭けには乗るな
これはテスト前の話。だから勿論東雲に告白する前の話だ。テスト間の休み時間を使って俺が物理の勉強をしていた時、鳥羽が突然俺に話しかけてきた。
「月瀬月瀬!賭けしようぜ!負けた方が梓に告白な!」
突然話しかけてくるのはいつもの事だから別に驚きはしないが、内容が内容と言うこともあり勉強する手を止めて、思わず聞き返してしまった。
「告白ぅ?」
「うん、告白」
賭けで告白……ということはネタで好きでもない告白をするってことだろう。
ただ俺の知る限り、鳥羽はそんな最低な事を平気でやるようなクズ人間ではないことはわかっていた。仲良くなり始めてからそう時間は経っていないが、時間が経ってないなりにわかることもある。
だからこの答えに至るのに時間はかからなかった。
「なるほど……告白する勇気が出ないから追い込んで欲しいのか」
鳥羽と東雲は幼なじみらしいし、鳥羽が東雲のことを好きだとしても何も不思議ではない。ならば鳥羽の友人として出来ることはこれくらいだろう。
「告白する口実が欲しいのか?応援してるぜ」
そう言うと、彼は今まで見たことも無い照れた表情で頬を掻きながら
「おう……!悪いな。気ぃ使わせちまって」
そう言ったのだ。そんな顔を見せられたらもはや疑いの余地はなくなる。
今考えてみればわざわざ告白にそんな回りくどいことするか?と思ったが結果論にすぎない。当時の俺は人に想いを伝える方法は様々だ、と納得してしまっていた。
だがどうだ。昨日の放課後、具体的には俺が東雲に告白した十分ほど前の図書室。テスト結果を見比べて呆然としていた俺に手のひらを返したように言ってきたのだ。
「残念だったな!おっと、サッカー部の練習始まっちまう!梓には教室で月瀬が待ってること伝えといたからな!頑張れよ!」
鳥羽に裏切られたことや、今から東雲に告白しなくてはならない現実に頭が困惑していた俺は、爽やかな笑顔で教室を去っていく鳥羽を止めることは出来なかった。
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