6、物語の真実

第37話 デートの終わりあるいは真実

 遡ること一週間。今俺は取り残されていた。一緒にデートをしていたはずの東雲が急に帰ってしまったのだ。


 追いかけたところで先程のようなデートは続けられないだろう、と踏んだ俺は手に握られた二つのキーホルダーを購入し出口を抜ける。


 これからどうしたことか、と悩んでいると、ついさっき聞いた声が耳に届いてきた。


「もしかして大変なことになっちゃった?」


 視線の先には東雲姉が壁にもたれかかって腕を組んでいた。先程までの全てを凍てつかせる冷たさはなくなっていて、どこにでもいるような美人なお姉さんがそこにいた。いや美人なお姉さんはどこにでもいないか。


 何故手のひらを返すかのように一瞬でここまで印象が変わったのかは自分でも理解している。


『遊びも程々にね。本気なら覚悟してね。あと君は翔の代わりにはなれないよ 』


 この言葉を言った時の彼女の表情が寂しそうなものだったからだ。いや、そもそも冷たい印象は姉を見てから明らかに普通ではなくなってしまった東雲がいたからこそのものだったのかもしれない。もし東雲がいない時に彼女と出会っていたら印象は全く違っていただろう。


「ごめんね〜。邪魔する気はなかったんだけど」


「それはさっきも聞きました。結局めちゃくちゃ邪魔したじゃないですか」


「結果的にはそうなっちゃたんだけどね〜」


 全く反省をしている口調ではなかったが、別に俺も彼女に反省をして欲しい訳では無い。それ以上に聞かなきゃいけないことがあった。


「いや、別にいいですよ。それより今からお茶しませんか?」


 ナチュラルな流れ……かはどうか分からないけど東雲姉に誘いの言葉をかける。ただ、もちろんナンパ、という訳では無い。セリフだけ見たらそれそのものだが、俺はまだ理由もなく初対面の人にナンパするほど垢抜けしてる訳では無い。


「なに?振られたからナンパ?サイテーだね」


「そうなんですよ〜。今一人で悲しくて」


 軽口を言われたのでヘラヘラした表情を作って軽口で返す。これがナンパでないことくらい彼女にはわかっているだろう。


 だから俺は表情を一気に変えて真面目なトーンで言葉にする。


「全部、話してください」


 最後の意味深な言葉にあの表情、そしてわざわざ俺を待っていた、ということは話す気がある、と解釈していいのだろう。彼女が東雲と俺との賭けについてどこまで関わっているかは知らないが、俺の知らない情報を沢山持っていることは確かだった。


彼女は俺の言葉に頷いてから、先程までのヘラヘラした態度を変えて優しげな微笑みを浮かべながら真面目なトーンで返す。


「……そうだね。スタバでも行こっか」

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