第36話 ラブコメの『主人公』
……え、待って待ってどういうこと。何が何だか全く分からない。なんで……
必死に理解しようとして、結局何も分からなかった。
だって、さっきの言葉は私の後ろからでも目の前からでもなくて、お母さんの後ろにある……窓から聞こえたものだったから。
わけがわかっていないのは私だけではない。あのお母さんですら動揺しているのが分かる。翔のお父さんはもっと驚いている様子だ。そんな中、ただ翔だけは何故か笑みを浮かべていた。
「だ、誰だか知りませんけど不法侵入ですよ?警察呼びましょうか?」
お母さんはすぐに冷静さを取り戻してマニュアル通りのようなことを言うが、窓から入ってきた彼は止まらなかった。
「あ、すいませんね。でも……東雲は俺が貰いますから」
そこにはハァハァと息をしながら窓から入ってきた月瀬君がいた。
額には葉っぱがついている。窓の横にある木から跳んできたのだろうか。跳んでくるにしてはかなり距離あるけど……
……というか今サラッとすごい恥ずかしいこと言ってなかった!?
東雲は俺がも、貰うからとか。
なんでここに月瀬君がいるのか全く分からなかったけど、それでも彼は……とてもカッコよく見えた。
「何を言ってるの?あなたなんかが私の娘と結婚出来るわけないじゃない」
「官僚の人と結婚するのが嫌なら僕でもよくありませんか?まぁこんなの建前なんだろうけど」
「っ!」
それはお母さんが初めて見せた動揺だった。私はこの場に混乱しすぎてて、何が何だか分からない。お母さんが騙した?
堂々と話す月瀬君は推理を披露する探偵と言うよりも……
私に救いの手を差し伸べてくれるラブコメの主人公に見えた。
「そもそもですけど、そんな理由があるなら最初に言えば良かったじゃないですか。隠す必要は全くない」
「……取り乱してしまったけど、素性も知らないあなたの話を聞く義理はないわ。どうしても出ていかないと言うなら……力ずくでも出ていってもらうわ」
言い終えると翔の父に目で合図を送っていたのがわかる。
「ちょっ、さすがにそれは!」
さすがに目の前にいるおじさんのガタイの良さにたじろいでいたが、すぐに立ち直り、まっすぐと私の目を見てきた。
「東雲!お前はどうなんだ!俺の事どう思ってる!お母さん?官僚の息子さんに娘を渡したくないなら俺ならいいですよね?」
唐突に返事を求められたから慌ててしまったけど、何とか心を沈めて考える。
私は……月瀬君のことをどう思ってる?
というかそれ以前に月瀬君は彼女がいるんじゃないの?私に怒ってるんじゃないの?嫌になったんじゃないの?それなのになんで私なんかのところに来るの?
「ふ、ふふふ、そうね。わかったわ。梓があなたの事を好きって言うのなら今回の話は白紙に戻してあげる」
ここで……月瀬君のことを好き、って言えばこの呪縛から逃れられるの?もう……ホントなんなの。なんで覚悟を決めた後に君はやってくるの?そんなことされたら……答えはひとつしかないじゃん。
「月瀬君!」
ここ一番の大きな声で君の名前を呼ぶ。
「私は君のことが!」
なんも期待してなかったはずなのに、勝手に他の子とデートして勝手に苦しめて。折角覚悟を決めたところで自分勝手に家庭の事情に踏み込んできて。
いや、もちろん悪いのは私だ。自分勝手なのも私だ。最初の家庭の事情に巻き込んだのも私だ。だけどやっぱりドヤ顔を浮かべている月瀬君を見たら言いたくなってしまった。
この感情はこの言葉でしか表現出来ない。ならば素直になろう。
私は心の底からの笑みを浮かべて月瀬君を見つめる。
「私は、君のことが大嫌い!」
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