第23話 デートあるいは駆け引き⑤

「いやーほんと美味しかったなあの店!」


「うんうん!月瀬君よく知ってたね!」


 東雲と策略とか駆け引きとかを抜きにして話したのは先程が初めてじゃないだろうか。もし、あんなに目を輝かして「美味しい!」って言っていたのが演技だとしたらもうお手上げだ。


 俺たちはランチを終え、次なる目的地……は特になく、ただフラフラ歩いていた。


 こういう時は男がリードするんだよね。うん。


「どっか行きたいところあるか?」


 何気ないトーンで言う。一応目的地の候補は考えてあるが、東雲の希望があるならそれに従った方がいいだろう。


 東雲は少し考えたあと閃いたように言う。


「うーん、あ!雑貨屋さんとか行かない?ヴィレヴァン」


 ――ヴィレヴァン。他では手に入らないような書籍や変わった柄の雑貨、アニメグッズなども取り揃えている、オタクからリア充まで若者御用達の店だ。確かにそこなら適当にプレゼントとかも買ってあげれるしいいかもしれないな。


「よし!そこ行くか」


「あ、でもちょっと待って、少し遠回りしていい?」


「え、あ、うん。いいけどなして?」


「まぁちょっとね、……ぷッ」


 そこには子供みたいに無邪気に笑う東雲がいた。


 ……嫌な予感がした。


 歩くこと数分。俺たちは東雲先導で先程来た道を戻っていた。遠回りしてどんな所へ行きたかったのかは検討もつかなかったが、たどり着いたこの場所には見覚えがある。


「洋服……屋?」


 そう、そこは昨日俺が鳥羽と共に服を買った場所。ただ、東雲がそのことを知るはずもないし、服を選びたい、というわけでもなさそうだ。


 東雲はニコニコ笑いながらスマホを取り出す。


「はい!月瀬君はここに立って!撮るよー」


 スマホを構えながら手で俺を壁際へと押す。先程の壁ドンとは立場が逆の形だ。わざわざこんなところまで来て壁ドンを?という疑問は先程の疑問とともに払拭されることとなる。


「んー?気づかないかぁ。後ろ見てみ?」


 言われるがままに見てみる。


「あ……」

 後ろには俺と全く同じ服装のマネキンが感情なく立っていた。


「服装『自分』で選んだんだよね?可愛い彼女の前だからって見栄張っちゃって〜!」


 このこのー!と言いながら腕で俺の脇腹をつついてくるがそんなことは全く気にならなかった。


 鳥羽てめぇ。ここまで読んでやがったな。


「いやーさっき月瀬君がトイレ行った時にね?近くにこの洋服屋さんがあって、軽く見てたら、あれ?この服見た事あるなーって。それでトイレから出てきた月瀬君を見た時に笑っちゃって!」


 無邪気に笑う顔からは演技ではない、仮面の中の本性、心からの笑いに見えた。


 その笑顔が見れただけでも満足か……と思いたいがやっぱりそうはいかない。


ショーウィンドウに反射して映った俺の顔はトマトのように赤くなっていた。

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