第24話 お姉ちゃん

「着いたねー!じゃあ適当に見よっか!」


「そーだな」


 そんなこんなでヴィレヴァンに着いた俺たちは適当に雑貨を見て回ろうとして、ふとトマトの形のリュックが目に入る。


 なんかさっき自分が顔を赤くしてトマトみたいだって思ったのをフラッシュバックした。てかトマトの形のリュックって初めて見たわ。丸ければなんでもいいのかよ。


 でもこんな感じで他の店には置いてないようなグッズが置いてあるのがこの店の魅力でもあるんだけどね。正直誰が買うの?というようなグッズもかなり売っているが。


「月瀬君!月瀬君!私これ好き!すごい可愛い!」


「ん?なになに?」


 東雲はやけにはしゃいでいて、まぁ可愛かった。だから、東雲を可愛くしてる原因のものを見ようと、目線の先を見る。


「……えっ」


 そこにあったのは小さなクマのキーホルダー。それは、来ている服はボロボロで、何故か白目を向いている。少なくとも俺の感性では可愛いとは思えないクマのゾンビのキーホルダーだった。


「可愛い?これが?」


「うん!すごい可愛い!」


 なるほどね。可愛い東雲が可愛いと言うならこれは誰がなんと言おうと可愛いのだろう。


「じゃあこれプレゼントするよ」


「え、悪いよ!」


 東雲の手からキーホルダーを取り、レジへと向かう。遠慮する声が聞こえたが、このくらいは俺にカッコつけさせてくれ。


「あ、じゃあ私もおそろのやつ買うから交換しよ!」


 おー、何それすごいカレカノっぽいわ。決してこのクマが可愛いとは思えないけどおそろって響きにものすごい魅力を感じた俺はその提案を甘んじて受け入れる。


 どうせ買うならわざわざ交換しないで最初から自分で買えばいいじゃん、というのが正論かもしれない。間違いなくその方が合理的だろう。しかし世の中のカップルは他の人からしたら意味の無い、それでも当人達の間だけには確かな意味のある行為を好むものなのだ。


「じゃあ俺色違いのこれで。他なにか見る?」


「とりあえず買いたい!レジ近いから行こ……あっ」


 言い終える前に突如として東雲の言葉が止まる。なにか買い忘れたものがあったのかなぁ、とか思ったのだが、その予想はすぐに外れることになる。


「あれ、梓じゃん」


「お姉ちゃん……」


「お姉ちゃん!?」


 これはまたベタな展開だなおい。


「梓と……その隣にいるのは彼氏?」


「どうも」


 軽く会釈する。東雲姉……天才の姉は天才と決まっているのがお決まりだからどうせ東雲姉も天才なのだろう。事実、ルックス、という部分では東雲と張り合っている。そして東雲にはない大人ならではの妖艶な雰囲気が纏われている。


「君が例の……なるほどね」


 ふむふむ、と頷きながら俺を見定めるかのように眺めるお姉さん。


 ここでふと考える。


 二次元において、お姉ちゃんキャラと言うのは優しいシスコンお姉ちゃんか、視聴者からのヘイトを集めるような敵対お姉ちゃんの二択だ(偏見)


それが現実に当てはまるかは知らないが、今回ばかりは俺の第六感が告げていた。この人はそれに当てはまってしまう、と。


第六感とは言ったけどそんな大層なものではない。ただの今までのオタクとしての知識みたいなものだ。


「あ、今デートなんでまた今度でいいですか。それじゃあ」


いずれにせよデートにおいて第三者の介入がプラスに働くことはなかなかない。だからこそここで長話する意思はないことを伝える。


「あ、デートの邪魔しちゃった?そうだよね!ごめんごめん!それじゃあお姉ちゃんは去るとするよ!」


 隣でほっ、とため息を着いたのが聞こえた。俺もそれは例外ではなかった。でもそう甘くはなかった。


「あ、でも最後に」


 ふと、思い出したかのように付け加える。


 やめてくれ。嫌な予感しかしない。


 時間が凍る。先程まで可愛いとも思えた様々な種類の雑貨が統一感なくこちらを不気味に覗く。


 空間をも支配した彼女の言葉の前では、大人しく言葉の続きを待つことしか出来なかった。


「遊びも程々にね。本気なら覚悟してね。あと君は翔の代わりにはなれないよ」


そう言った彼女の表情は……どこか寂しさを含んでいるようにも見えた。



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