第25話 デートの終わりあるいは……
「……なんだったんだ今の」
「……ごめんね。お姉ちゃんはああいう人だから」
俺が口を開いたのはもう全てが終わった後だった。
東雲姉の全てを凍てつかせるような冷たい言葉の前に俺たちは沈黙していることで精一杯だった。凍ってしまった体が解凍された時には既に姉はいなかった。
翔の代わりにはなれない。そんな言葉が頭の中で繰り返される。確かに今行ってる賭けは遊びといえば遊びになるかもしれないし、本気なら覚悟してね、と言うのも周りからの東雲の人気や期待を考えたら分からなくもない。ただ、翔……恐らくは鳥羽、の代わりになれない、というのは意味がわからなかった。そしてその答えが東雲が賭けを誘ってきた理由に直結するだろうということも直感していた。勿論今それを考えてなにかが変わる訳では無い。
横目で東雲を見ると顔をくしゃくしゃに歪めてしまっていた。その表情は単に怯えている、というだけではないように見えた。
これを演技と言うのはさすがに東雲に失礼だろう。
「と、とりあえず買うかこれ」
何とか凍りついた空間を温めさせたい、というよりも自分自身がこの空間に耐えられなくて声を出す。
起きたことは変わらない。ならばせめて今のデートを楽しみたい、と思ったための発言でもあった。しかし東雲は首を横に振る。
「ごめん。それはまたの機会で。私もう帰るね!」
……正直この展開は予想出来ていた。
姉の発言が東雲にどういった影響を与えたのかは分からないが、東雲とこのままデートをしても楽しめないことは間違いなかった。
だからこそ驚きはなく、東雲が帰りたいと言ったならそれに従うまでだった。止めることなんてしない。焦りは禁物だ。
「そっか。じゃあまたね」
返事は来なかった。俺はそんな東雲を見送ることしか出来なかった。
こうして俺たちの初デートはあっけなく幕を閉じた。
手を見ると握られた二匹のゾンビぐまが恐ろしい目で俺の事を見つめていた。
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