第12話 唐突の茶番劇

 思いもよらぬスタバの注文という難所を突破した(?)俺は先に座っている鳥羽の元へ向かう。


 なんかあれだな。店員さんのリア充感すごい。なんか、「私はあなたとは違うのよ」みたいなオーラを醸し出してる。なんかマウントお化けみたいな。すいません偏見です。全国のスタバ店員さんすいませんでした。


「だいぶ時間かかったねー」


「こちとら大変だったんだからな」


 見ると、既にダークなんとかが少し無くなっていた。しかし、いつかはあの長い詠唱をしてみたいものだな。どんだけ修行が必要なのかは分からないが。帰ったら調べて修行しよ。


「まーまー、デートの練習だと思って。スタバの注文できない彼氏とかダサいだろ?」


「いやダサくは……確かにダサいな……」


 うん。ダサくないと言おうとしたが彼氏が「スモールで」とか言ったらやだな。


「まぁ飲めって!」


どうやら俺のスモールが余程面白かったようで未だに笑いながらアイスティーを勧めてくる。


ただ、折角だ。どんな味かは気になるところだな。自販機で紅茶を買う三倍くらいの値段を払っているからには期待値も高くなる。


 付属されたストローに口をつけ、中にある液体を一気に吸い上げる。


 ――ん!これは!


「で?どうよ?人生初のスタバの味は?」


「甘い」


 確かに上手いのだが、格別に上手い訳でもない。なんというか、別にファミレスのアイスティーの方がコスパいいし、何より飲み物を飲んでるはずなのに喉が乾くという矛盾。なんならむしろ――


「マッ缶の方が好きだわ」


 うん。やっぱりあの黄色い甘々のザ、健康に悪そうなコーヒーが至高ですね。


 マッ缶……真っ黄色な缶の色が特徴だが、それ以上に特徴的なのはその甘さだ。コーヒーなのに原材料名に加糖練乳、砂糖、コーヒーの順に記載されてるほどだ。


「……マッ缶て!いやそれはないな」


 俺の感想が信じられなかったらしい鳥羽は呆れた様子だ。コイツさてはマッ缶の魅力を理解してないな?


「そういえばここ、マッ缶だけの自販機あったよな?そこ行こうぜ」


「あー、そんなのあった気がするなぁ、って、服買いに行くんだろ!」


 ……先に寄り道したのはお前じゃねえか。


 そんな言葉は心に閉まっておいた。そんなことで鳥羽の気を損ねても嫌だしな。


 しかし俺の気遣いとは反対に、鳥羽は更なるおかしい提案をしてくる。


「んじゃ飲み終わったし行くか!って言いたいところだけど、折角だしデートの練習するか」


「いや、お前何言って……」


「月瀬君!ここ私のオススメの店なんだけどどうかなー?」


 吹き出した。鳥羽はテンションも声のトーンも変えて、東雲の真似をする。普通男が女の声を出すと俗に言うところのオカマみたいな声になると思っていたが、なんというか鳥羽の東雲ボイスは様になっていた。一瞬ショタボみたいだと思った俺を全力で殴りたい。


「月瀬くん顔色悪いけど大丈夫?」


 ……誰のせいだと思ってんだ。


 鳥羽は百パーセント面白がってやってるだけだろうが、俺は、俺のために一肌脱いでくれてる、と解釈して、この謎ノリに乗っかることにした。鳥羽のショタ……東雲ボイスを聞きたいからとかいう理由では全くない。


「え、えっと、悪ぃ、あまりの美味しさに気を失いかけてた。いや、さすが鳥……東雲のオススメの店だな」


「でしょでしょー?ここ穴場なんだからね!他の人には言っちゃダメだよ!」


「あー、あれか二人だけの秘密☆ってやつだね」


「いや、それはキモイわ」


「おい」


 確かに自分で言っててキモイな、とは思ったが、先に変なこと始めたのお前だからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る