第13話 誰にでも出来る服の選び方

 先程のことは俺の脳内から消して、俺たちはスタバから出た後、鳥羽の先導によって洋服屋へと来ていた。その洋服屋からはどことなく高級な感じが漂っていて、とてもでは無いが俺一人では入れなさそうな場所だ。というか鳥羽と一緒でもあまり入りたくない。


「んじゃ、俺の服なんでもいいから似合いそうなの適当にコーデしといてくれ。俺はトイレでも行ってくるわ」


 別に尿意を感じていた訳では無いが、服屋の正面側にトイレが見えたので入ろうとしたのだ。


 他力本願だか、人生でまともに服を選んだことがない俺が高そうな服を選んでも宝の持ち腐れになるだけだ。うん。仕方ないね。まぁどうせ鳥羽はそんなことを許さず、一緒に入る羽目になるだろうが。


 しかし、鳥羽は不機嫌な顔一つせず、にこやかな笑みを浮かべ――


「いいよー!なんでもいいんだよね。コーデ考えとくよ!」


 ――「なんでも」の部分を強調しながらも、裏があるとしか思えない発言をした。


 勿論、ただの親切心の可能性もあるが、なにか怪しい。


「ちなみに聞くが、何を買うつもりだ?」


「月瀬に似合いそうなレディースのお洋服!『なんでも』いいんだよね?」


 ほらな?言っただろ。こういう奴なんだよ。


「デートに女装して来るやつがどこにいるんだよ」


「梓が男装して来るかもしれないよ?」


「来てたまるか」


 一瞬、男装女装のデートを思い浮かべて、「なんかいいな」って思ってしまった俺をそろそろ本気で殴りたい。てか殴るかもう。


「痛っ!」


「え、なに急に!!憑依でもされた?」


「なんでもない」


 急に自分を殴った俺も俺だが、憑依された?なんて感想はでないだろ普通。


「冗談はこの辺にして月瀬の服選びなんだから月瀬も一緒に入んぞ……あ」


 急に会話が途切れたと思ったら、鳥羽は何かを閃いたように目をキラキラさせて、俺の後ろにある何かを指さす。


「な、なにか思い浮かんだのか?」


「マネキン買いすればいいじゃん!」


 鳥羽の指先を見ると、そこには店のショーウィンドウの中に置かれたマネキンがあった。さすがにここで「マネキンを買うのか?」とボケるほど頭は悪くない。あれだ。マネキンの着てる服を買うんだな。


「なるほど……?でも本当にそれありなのか?」


 なんというか服のコーデって時間をかけて自分に似合うものをゆっくり吟味するものだと思ってた。まぁ女子高生でもあるまいし、さっさと服が決まる分には大歓迎だけど。それだとわざわざ鳥羽を誘わなくてもよかったかもしれない。


「店員さんの選んでるコーデなんだから俺が選ぶよりいいに決まってんだろ。よし入るぞ。というか、買うだけだから俺いらないな。俺は外で待ってるから」


 確かに洋服屋の選んだコーデなら間違いないだろう。いつの間にか立場が入れ替わってるが、これなら俺一人でもさっさと買って立ち去ればいいだけだからな。楽勝だぜ。


「んじゃ行ってくるわ!」


 そう張りきって店へと入った俺だったが、店員さんに「あ、あのマネキンの服どこにありますか?」と聞くまで数分の時間を要しましたとさ。いや、でも仕方ないじゃん。なんか店員さん私服でスタバの店員さんみたいなオーラしててトラウマが呼び起こされたんだもん。あと、「お似合いですよー」って言われるのが怖かったから「試着なさいますか?」って聞かれた時は全力で拒否った。というか、洋服屋の店員ってどんなに似合ってなくても「お似合いですよー」って言うよね。最も「全然似合いませんよ〜」なんて言ったら大炎上だからしかたないけども。

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