第52話 最強小悪魔

 これが俺にとってのプロローグ。物語の始まりだったのだ。


 そして俺は作戦を細かに立てた。どんな分岐があっても対応できるよう、全俺プロデュースのリアルギャルゲーを。同時に主人公役も決めた。ラブコメをするためだけに垢抜けまでした月瀬がこれに唆らないわけがない。


 用意したものはこの作戦を文字起こししたテキストと、ロープ、遊園地のペアチケット軍資金等々……


 軍資金は基本的に月瀬のコーディネート用。


 ロープは木と家の屋根に結びつけた。夜間屋敷に忍び込んで「あなたを救いに来ましたお嬢さん」的な展開や、「その結婚!ちょっと待った!」などの展開を期待したものだ。俺の好みとかは関係ない。……一切関係ない。家への侵入経路を確保するに越したことはないから。うん。


 そして、梓に駆け落ちの提案をする。この時に真の理由を伏せて、親による理不尽な政略結婚だと話すのは、梓がこの作戦に乗ってくれる可能性を上げるため。本当の理由を話したら親への申し訳なさから結婚を承諾してしまうかもしれないからだ。


 その後、テストで月瀬に勝ち、告白させて、服装をコーディネートして、でもデートで少し笑いものにさせるためマネキン買いさせて。マネキン買いさせたのは場の空気のためだ。断じて面白がってやった訳では無い。


 そして、ひかりに会わせてデートの練習的なものをさせる、つもりだったのだが、ここで誤算が生じた。


 月瀬がひかりにぬいぐるみをプレゼントしている時だった。


「ありがとうございます!是非何かお礼させてください!」


「じゃあ――」


 内容は全く聞こえてこなかったが、このお礼が梓を落とす計画に関係していることであろうことは一瞬にしてわかった。


「……へー、月瀬先輩面白いですね。まぁお礼したいのはこっちですしいいですよ。詳しいことは後で聞きます」


 あいつは何を考えているのだろうか。


 解散後、俺はひかりに率直に尋ねることにした。


「なぁ、月瀬に何おねがいされたんだ?」

「えー、そういうのってあんま話さない方が良くないですかー?一応秘密は守るタイプなんですよ。そればかりは鳥羽先輩でもごめんなさい」


 ……ほー、てっきりすぐ答えるかな、と思っていたが。


 やっぱりひかりはなんだかんだ凄い良い奴なんだよな。なら仕方ない。これは月瀬たちに渡す予定のものだったが仕方ないな。


「ここに、遊園地のチケットが二つ、有るんだが。今度一緒にどうだ?」

「あ、なんか、月瀬先輩にデートしないかと誘われました〜」

「口軽っ!!」


「目的はわからないですけどね〜。あ、どうせならダブルデートとかどうですか?チケットもう二枚買えばいいだけなんで」


「なんか、最強だな。ひかり」


 ひど!っとか言っていたが俺は思考の波に飲み込まれる。


 それにしてもデート、か。目的はなんだ。少ない期間を無駄にしてまで他の女とデートする理由……


「あーなるほど、そういうことか。やるなあいつ」

「鳥羽先輩?」

「いや、なんでもない。デート楽しんでこいよ」

「は、はぁ……そうですか」


 ギャルゲーにおいて狙ってる子とは他の女の子とのデートはその狙ってる子の好感度を下げることにもなる。


 しかし、現実のラブコメではそれが変わってくるのだ。独占欲、嫉妬。それらを無意識の内に発生させるのだ。


 それを踏まえて俺は更に作戦の軌道修正をした。具体的には月瀬と梓のデートを失敗させ、梓に罪悪感を付加させることだ。勿論偶然に起きたこととして。


 そこから先はすこぶる上手く行った。あず姉にデートの邪魔をさせて、その後月瀬に事情を話した。その方が彼は燃える、と思ったからだ。


 そして一週間の期間を経て、運命の日。おばさんには何も知らせていなかったが、


「土曜に時間欲しいです。今回の結婚話について重大な話があります」


 と言ったら二つ返事で承諾してくれた。


 ……流石に窓から娘の婚約者が入ってくるなんて思ってもいなかっただろうが。


 その後どうやらおばさんは納得してくれたらしい。元より娘の為を思っての今回の計画だった訳だが、梓があれだけ楽しそうにしているのを見たのは久しぶりだそうだ。全く素直じゃない親だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る