第41話 デートの真実
地獄のような一週間がだった。学校ではできるだけ東雲と関わらないようにして、東雲の罪悪感を煽った。すごい心が傷んだけど最初に利用したのはそっちだから、という理論武装で納得して、俺の作戦を何とか実行することにした。でもやっぱり心が痛い。ラブコメの転は偶発的に起こるものであって本来自発的に起こすものでは無いはずだからな。
そして俺は今、二週連続でスタバに来ていた。土日、次の土曜日、と連続でスタバに来てるのだから最早俺はスタバのプロと言っても過言ではない。過言だな。俺の手にはカスタムされたダークモカチップフラペチーノ。最初にここに来た時に鳥羽が頼んでいたやつだ。だから鳥羽レベルには達しているとは言えよう。
勿論、スタバに来たのは俺がスタバの味にハマったからでは無い。確かに上手いことには上手いのだが、やはり高い。もう千五百円くらい使ってる。少し我慢すれば映画を一回見れる代金だ。
その出費をしてまでここに来た理由は……デートだ。ただ、相手は東雲ではない。東雲から一回会わないかと、誘いを受けたが心苦しくも断った。こういう言い方をすると極悪人みたいだが、東雲の罪悪感、嫉妬心、独占欲、心の底にある気持ちを引き出すための布石だ。
ダークモカチップフラペチーノが半分くらい無くなったところで目的の人物が視界に映る。彼女は俺の姿を発見すると、その特徴的なピンクベージュの髪を揺らしながら小動物のように走りよってきた。
「おはようございます!先輩!」
元気な声の持ち主の彼女は先週知り合ったばかりの後輩であり、俺の浮気相手役である、西野ひかりだ。
ひかりんは小悪魔のような笑みを浮かべて俺の事を覗き込んでくる。
「先輩……もう浮気ですか?あの時デートしてくれ、って言われた時ビックリしましたよ」
そう、俺は彼女にぬいぐるみを取ってあげたとき、お礼に俺とデートしてくれ、と頼んでいたのだ。さすがにこんな展開になるとは思ってはいなかったが、似たような展開を見越しての誘いだった。最早諸葛孔明もびっくりではないか?
最初はこの役を妹に頼もうと思っていたのだが、さすがに妹がそれを受けてくれる気はしなかったし、もしデートの相手が妹とバレてしまった場合、嫉妬させることが出来ない。それに折角お礼したい、って言ってたのだからそれに甘えさせてもらった。
勿論ひかりんには今日のデートの目的も俺や鳥羽達の事情も全て伝えてある。家庭の事情を第三者に話すことは気が引けたけど、俺も第三者だからいいだろうという無理やりな考えだ。というか伝えとかないとガチの二股になっちゃうしな。
「いやーこんなことに巻き込んじゃってマジでごめんな」
元はと言えば俺が鳥羽達の恋愛事情に巻き込まれたのが発端なのに、俺はさらに関係の無いひかりんを巻き込んでしまったのだ。やっていることは彼らと変わらないだろう。
「確かにぬいぐるみ代としては高すぎるけど……面白そうだからOKです!」
「面白そうって……」
「いいんですよ。私がやりたくてやってる事なんですから。先輩は気に病まないでください。高くはつきますけど」
ひかりんが優しく微笑む。ひかりんマジ天使だろこれ。小悪魔キャラだけど。
「あ、先輩先輩」
そんなことを考えていると、突然ひかりんが俺の腕を軽くツンツンと叩き、目線を俺の後方に向けた。俺は目線の方を向かずにそのまま正面見て軽く頷く。
「来た、か」
「はい。先輩の後ろの後ろくらいに座りましたね。鳥羽先輩とは目が合いましたけど今のところ東雲先輩にはバレてないです」
俺からは見えないが、俺の後ろに東雲と鳥羽が座ったようだ。
鳥羽は東雲に土曜日相談に乗って欲しいと言われたらしい。それを利用させてもらった。
とはいえ勿論それも元から考えていた作戦だ。俺と東雲のすれ違いにより駆け落ち作戦が上手くいかなそうになっている現状、東雲が鳥羽に相談をするだろうということは想像に容易い。
あとは鳥羽がさりげなく俺たちの存在を東雲に伝えればとりあえずはオーケーだ。
あとは経過を待つだけなので適当に雑談するフリでもするかと考えていると目の前からジトー、と湿った視線を感じたのでそちらを見やる。
「でも先輩……さっきも言いましたけどこれ、大きな貸しですよ。どう考えてもぬいぐるみの二百円と割にあってないですし」
ま、まぁそりゃ。たしかに女子高生の貴重な一日を借りてるわけだし、そもそも東雲と付き合っている噂が校内で流れている今、俺が早速他の女の子とデートしてる姿なんかを誰かに見られたら俺だけでなくひかりんの評判まで下がる恐れがある。
しかも単なる遊びじゃなくて「彼女を嫉妬させるために泥棒猫役を演じてくれ!」 って言ってるみたいなもんだからな。それを込みでよく引き受けてくれたなと思う。ひかりんには感謝してもしきれないな。俺なら絶対やらん。
「まぁそうだな。じゃあなんか俺にして欲しいこととかあるか?なんなら今のスタバ代俺が持つけど」
出費としては痛手だが、それをしても足りないくらいだ。
しかしそれはお気に召さなかったようだ。ひかりんはため息を吐く。
「昼飯も奢りで」
「お、おう」
一瞬「今度は普通にデートしましょ!」とか期待しちゃったけどそんなことはなかった。というかこの子昼飯も、って言ったよね。スタバは普通に奢らせるんですね。別にいいですけどね。
「はぁ!?」
お金足りるかなぁ…… 最近出費かさんでるからなぁ、なんて心配をしていると突然後方から大きな声が聞こえてきた。
「うるさ……気づいたみたいですね」
その声の持ち主は考えるまでもなく東雲だった。俺達がデートしてるのに気づいたのだろう。
勿論俺達はその声に気づいてないふりをする。
「先輩、なんかすごい見られてる気がするんですが」
「まぁこんな美男美女カップルがいたら目立つかもしれんな」
「もう先輩ったら!お世辞上手いんだから!そうですね!まるで私達、美女と野獣です!」
「おい、なんか変わってんぞ」
折角気まずい空気を紛らわすために気の利かせたジョークを言ったのに。しかも自分が美女なのは否定しないのね。別にいいですけどね。
「東雲が俺たちに気づいたなら移動するか。ちょうど飲み終わったところだし」
言ってそのまま席を立とうとすると、ひかりんが右手をパーにして無言で前に出してきた。
「そうですね、あ、でもその前に五百三十円ください!」
「……お礼するとは言ったが図々しい女はモテないぞ」
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