第47話 逃避行

 ……気まずい。親の前で娘さんに告白したんだからそりゃそーだけど。

 明らかに睨まれている。


「……よっしゃ!逃げんぞ!」


「え!逃げるってどこに?」


「どこかだよ!駆け落ちすんだろ!」


「え!ええ……うん!」


 腕の腕を掴むおじさんの手を無理やり払い、そのまま窓へと駆け抜ける。


「お義母さん!娘さんは貰いますね!それではまた挨拶しに行きます!」


「ちょ、待ちなさい!」


 さっきまで散々俺の事を追い出そうとした人が今度は待ちなさい、か。皮肉が聞いてていいな。


 窓に片足をかけて、後ろを軽く振り返ると東雲が後ろからダッシュで着いてきていた。


 俺はそれに手を差し伸べる。


「ごめん!お母さん!許して!」


 その言葉とともに俺の手を掴む。

 そして、窓から勢いよく飛び出る。


 正面からなびく一瞬の風を正面から受けながら、お互いの顔を見合って、笑いあった。


 スチャッ

 ドガドガ!


「いっ、たぁ!」


 同時にふたつの音が鳴り響く。綺麗な着地音と着地に失敗した音。

 もちろん後者は俺。強く握ったはずの手も飛んでる途中で離れてしまったようだ。


 するとすぐ横から大きな声が聞こえてきた。


「アハハ!バカみたい!だっさ!」

「わるかったな……」

「ん」


 言いながら転んだ俺に手を差し伸べてくる。


「おいおい、立場が逆だろ」


 なんで助けに来たはずの俺が助けられてるんですかね……とか思いながらも手を握る。


「そうかもね!ほら、逃げるよ!」

「おう」


 俺たちはそのまま門を駆け抜け、どこか遠くまで走り続けた。

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