第17話 後輩とゲーセン②

 クレーンゲームに陳列されているぬいぐるみだのキーホルダーだのを見ながらふと考える。プリクラを撮るために、ナンパしようとしたら「偶然」後輩女子がいたとのは出来すぎではないか?それに、事態が事態でスルーしてたが、鳥羽は誰ふり構わずナンパするようなやつでもない気がする。


「鳥羽、仕組んだか?」


 ひかりんには聞こえないくらいの音量で尋ねると、鳥羽は自分の髪をくしゃっとつかみ、あちゃー、とおどけた顔をする。


「バレてたかー。でもほんとに偶然なんだよ?」


 容疑を一部否認した鳥羽はポケットからスマホを取りだし、続ける。


「インスタでひかりがこの近くにあるレストランのパスタをアップしてたから、あいつのことならプリクラ撮りに行きそうだな、って思って来てみたらほんとにいただけだよ。」


 インスタ、俺はまだ使ったことがなかったが、そろそろ始めてもいいかもしれない。


 そんなことを考えていると視界の端でひかりんがぴょんぴょんと跳んでいた。なにあれ可愛い。


「はわわ〜!このぬいぐるみすごい可愛いです!鳥羽先輩取ってください!」


 ぴょんぴょんと跳びながら鳥羽にお願いするひかりん。俺じゃなくて鳥羽に頼ることから人望の差がはっきりと見える。今日知り合ったばかりだから仕方ないね。


「いやーさすがにこの大きさのぬいぐるみでこのアームじゃ難しくないか?」


 と、言いながらも鳥羽は百円を投入し、三本爪のアームを操作する。スムーズに動いたアームは回転しながらぬいぐるみの体をガシッと掴みそのまま持ち上げようとする、が、ぬいぐるみは少し持ち上がっただけですぐにアームから解放されてしまった。


「やっぱり無理だよ!ひかり、残念だけど諦めようぜ」


「えー!鳥羽先輩でも無理なんですか……でもこれ欲しい……なぁ?」


 言いながら胸に手を当て俺のことを上目遣いで見つめる。「なぁ?」って言われてもな。そんなお願いされて二つ返事でオッケーするほど俺はチョロくはないぞ。


「じゃあ、やってやるよ」


 もちろんオッケーするけど。俺はチョロいよ。悪いか。


 でも仕方ないじゃん!後輩に自分の得意なことでお願いされたら断れるか!?それに、俺の言葉を聞いたひかりんは顔をパーッと輝かしている。そんな顔されたらやるっきゃねぇだろ!


「んー、とタグは……あまりにも小さいな」


 ぬいぐるみを取る事に決めた俺はクレーンゲームへと近づき、百円を入れる前にぬいぐるみを色々な角度から観察する。


「せ、先輩?」


 初めに着目したのはぬいぐるみに付いている白いタグ。そこにアームの爪を入れて取る作戦。だったがタグは小さく、爪を入れるのはほぼ不可能だった。ならばぬいぐるみの場所に着目する。ぬいぐるみは出口の穴のすぐ右にあり、穴の方向に足を向けている。そして、穴のところにガードとなる壁はない。ならば取る作戦はひとつだ。


 数十秒の間考察した後、やっと百円を投入する。


「一クレでいけるか?いや、ここは確実に二クレだな」


 ボソッとつぶやき、アームを操作するためのボタンに触れる。そして、目的の場所へとアームを動かしそのまま降下させる。


 ――そこはぬいぐるみ脚の部分の脇、何も無いところ。


「せ、先輩!何やってるんですか!ぬいぐるみに触れてすらいないですよ!」


 笑うように言ってくる。しかし、本番はここからだ。


 アームはそのまま静かに閉じていき、そのまま何も掴まずに上へ上がる。しかし、閉じたアームは先程触れなかったぬいぐるみの足をすくい上げる。アームが閉じたことにより先程は触れなかった少しはみ出た足の部分が触れたのだ。


 アームはぬいぐるみを傾けさせるが、少しするとアームから離れてしまう。そしてそのままぬいぐるみは元あった体勢に戻る。すかさずもう百円を投入し、そのまま同じ感じで「最初より少し左にずれた」ぬいぐるみの足をめがけてアームを動かす。すると今度はぬいぐるみがアームから離れて元の体勢に戻る際に勢いよく穴へと吸い込まれた。


「よしっ!取れた!」


 ドヤっ!と二人の方を向くと、ひかりんはすごい目をキラキラさせてた。鳥羽は嘘だろ……って顔をしてた。これが俺TUEEEE系主人公の気持ちか!


「月瀬先輩!すごいかっこよかったです!ありがとうございます!」


 そう言い、ぬいぐるみを貰うために手を伸ばす。


 俺もそれに応じてぬいぐるみを渡す。


「ありがとうございます!是非何かお礼させてください!」


 まぁたった二百円。プリクラを見ると四百円ってかいてあったから全然安いお仕事だ。でも折角お礼をしてくれるならお言葉に甘えよう。


「じゃあ――」


「――――」


 隣にいる鳥羽には聞こえないように声を潜めて、あるお願いをした。


 それを聞いたひかりんはきょとん、と目を点にしていたが、すぐに小悪魔的な笑みを浮かべる。


「……へー、月瀬先輩面白いですね。まぁお礼したいのはこっちですし。いいですよ。詳しいことは後で聞きます」


「おう。また後日連絡するわ」


「了解です!」


「あ、連絡先交換しない?これ俺のQRコード」


「はい!よろしくです!」


 そう言い、またもピシッと敬礼のようなポーズをとっていた。


 見たか。人は成長するんだよ。メッセージアプリの連絡先交換なんてお手の物だ。


 隣で鳥羽が「おいおい!なんの話してんだよ!」とか聞いてきたけど無視した。ゴメンな鳥羽。

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