第16話 後輩とゲーセン①

「どうやらひかりは友達がこの後塾だから解散の予定だったんだって」


「そうなんですよ!私取り残されちゃって!ぜひ良ければご一緒させてください!」


 恐らく初めて見るであろう少し小柄な女の子が明るく挨拶をしてきた。


 なんというか普通に可愛い子だった。少しパーマがかけられているピンクがかった茶髪、ピンクベージュと言うのだろうか。それが肩にかかるくらいのセミロングに伸ばされている。そして、たくさんの恒星が中にあるのかような明るい目。周りから天使の囀りが聞こえてきそうな神秘めいたオーラを出している。


「あ!私は西野にしのひかりって言います!鳥羽先輩とは同じ中学校でその時からお世話になってるんですよ!えーっと先輩は確か月瀬先輩でしたっけ?」


 西野さんはニッコリと天使のような笑みを浮かべながら握手をするために右手を出してきた。明るい子で、ひかりん!って感じだ。キラリン☆みたいな。何言ってんだ俺。


 それにしても俺話してもない子に名前覚えられてたぞ。なんだろうこの嬉しいけど恥ずかしいような気持ち。


「改めてよろしく。鳥羽のクラスメートの月瀬歩だ」


 答えながら差し出された手をスムーズに握る。手汗やばいかも、とか考えたが何とかなったようだ。握手だけで何を緊張しているんだ俺は。


 しかし、それも束の間。すぐに次の試練が襲いかかる。


「私のことは気楽にひかりって呼んでくださいね月瀬先輩!」


 天使のような笑みを浮かべたままそんなことを言ってきたのだ。


 想定外の出来事に頭がショートする。いくら俺に女子に対する抗体があるとはいえ名前呼びなんてしたこと無い。まだ日浦と坂城に対しても苗字呼びだし。しかし、ここでチキって「西野さん」とか「西野」とか呼べば鳥羽が全力で笑ってくることはわかりきっている。何も考えず三文字言うだけ。余裕だ余裕。それにこれもリア充として当たり前のスキルだ。


 しかしここでもう一人の俺が囁く、「ただ名前呼びしても面白くなくない?」と。


「わかった。じゃあひかりんで」


 気がついた時には声に出していた。


 隣で鳥羽が吹き出したのがわかった。あれ今俺なんて言った。あれれ?


 西野さんは面食らったような顔をしていたが、すぐに笑みを浮かべ、握るのをやめた右手をそのまま額の近くまで持っていき、敬礼のようなポーズをとる。


「じゃあひかりんでよろしくですっ」


 あっ……なるほど?瞬間的な感情でひかりんって言ったのね俺。ま、まぁ直接下の名前を呼ぶよりあだ名の方がなんかいいよね。いや、ダメだろ。


「ご、ごめんやっぱりひかりで……」


「えー、ダメですよ。男に二言は無いですよね?月瀬先輩?」


 うん。そうですよね。でもひかりんか……うん。それにしても俺には名前で呼ばせようとするくせに、そっちは月瀬先輩って呼ぶのせこくないですかね。まぁもちろんそこで「俺のことは歩先輩って呼んでくれ」なんて言えるわけないし、仮に呼んでくれてももっと恥ずかしくなるだけだからベツニイインデスケドネ。


 一方鳥羽はずっと笑っていた。後で覚えとけよ。お前のこともかけるんって呼んでやる。うわ気持ち悪。


「んじゃ、自己紹介も終わったしどこか行こっか。どこいく?……プッ」


 鳥羽はまだ笑っている様子で問いかける。いい加減やめろって。泣くよそろそろ。

「でも折角ゲームセンター来てるんだし!やっぱり撮りません?プリクラ」


 ……もう泣くわ。やっぱりってなんだよやっぱりって。ゲーセンの代名詞はプリクラじゃねえだろ。それならゲームセンターじゃなくてプリクラセンターに改名しろ。略してプリセン。なんかプリンセスみたい。


 これもどうせ為す術なく撮ることになるんだろうなって覚悟を決めようとしていたのだが――


「いや、プリクラはまた今度にしような?な?」


 ――鳥羽が西野さん、もとい、ひかりんの提案を断ったのだ。


 鳥羽ぁ!信じてたぞ!元はと言えばお前が悪いんだけどな!


「えー、いいじゃないですか……あ、そういえば月瀬先輩は彼女できたんですよね。ゴメンなさい忘れてました!確かにそんなことは出来ないですよね」


 てへっと手を合わせながら謝ってくる。なんかこの人さっきから動作が大袈裟なんだよね。まぁ可愛いからいいんだけど。というか、俺と東雲が付き合ってること他学年にも広まってるのな。


「なら仕方ないですね……じゃあクレーンゲームでもやりますか!」


「おう。それなら月瀬も歓迎だろ?」


「ん、クレーンゲームならいいよ」


 こうして俺たちはクレーンゲームへと向かうことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る