第10話 デートwith鳥羽

 その翌日。土曜日。快晴。俺は待ち合わせで南船橋駅に来ていた。別にターミナル駅という訳ではないから、特に大きくはないが、駅の近くには大型ショッピングモールがあり、様々な小売店はもちろん、ランチ、バッティングセンター、映画館までなんでもござれな千葉県民御用達の場所だ。


 待ち合わせ時間は午後二時。少し遅い時間だが相手が部活なのだから仕方ない。


 俺は改札をくぐり、待ち合わせ相手が既に着いているかを探したが、姿は見えなかった。


 しかし、待つこと数十秒。彼の姿が見えてきた。どうやら同じ電車に乗ってたみたいだな。ホームからの改札は二つしかなので、階段前で電車から降りるのと、先頭車両から降りるのではだいぶ時間に差ができる。


 彼は俺のことを視認すると、爽やかな笑顔を向けて走りよってきた。なんというかリア充オーラがすごい。


「わりぃ!待たせた!」


「うん。すごい待ったぞ」


「そこは今来たとこって言えよ!」


 本当は今来たとこ、なのだが、折角俺の方が早く来たのでマウントを取ってみた。なんというか俺クズだな。


 ただ、本当に鳥羽はイケメンなんだよな。なんで俺がこうしてお近付きになってるか分からないくらい。部活から直で来るって言ってたのに部活指定のシャツじゃなくて、普通にオシャレしてるし。黒のジーンズに白のシャツ。その上には薄手の上着がかかっている。シンプルな季節のコーデという感じだ。おそらく何を着てもこの男は似合うのだろうが。


 あと、汗の匂いも全く漂ってこない。なんで部活終わった後なのに爽やかな香りがするんだよ。鳥羽怖。


 そんな爽やかイケメン鳥羽様は俺の事を頭から足までジトーっと眺め――


「やっぱり、ね」


 ボソッと呟き、嫌味ったらしい爽やかスマイルを浮かべる。


 鳥羽がやっぱりと呟くのに心当たりはある。俺は冬から変わらずに着てる使い古された紺のズボンに季節外れの温かそうなよく分からない英語が書かれたパーカー。お世辞にもオシャレとは言えない格好だろう。


 しかし鳥羽はその続きを言わず、単に思いついたかのように話題を切替える。


「で?なんも聞いてないんだけど。ららぽでも行くのか?」


 そういえば俺は鳥羽に『二時に南船橋駅』と事務的なメッセージだけ送り、それ以外のことは全く伝えていなかった。


「あー、とりまららぽだな。んで、服屋行くぞ。見ろよこのダサい服装」


 俺は脱オタしたつもりではあるが、あくまで学校内の話、だ。


「うん。そうだと思った。事情はわかってるし、この翔くんに任せなさい!」


 鳥羽は快く俺の提案を受けてくれる。やっぱり賭けの件を除けば基本的に良い奴なんだよな。すごい頼りになるし。多分女だったら惚れてた。女じゃないから知らんけど。


「でもなんだかんだ月瀬と遊ぶのって初めてじゃね?」


「あー、たしかにな」


 歩きながら、ふと思い出したように鳥羽は尋ねる。これが遊び、に含まれるかは知らないが、休日で会うのは初めてだ。あくまで仲良くなったのも二年生からだし、コイツも部活で忙しいしな。そもそも俺学校外で友達と遊んだことねぇや。基本的に俺はインドア派なんでな。悲しくなんかないし。土日に外出るのもすごい久々な気がする。


「にしてもかなり垢抜けたなぁ。リア充成り上がり系ラノベでも読んだのか?最近そういう系流行ってきてるし」


 そんな何気ない一言。思わずギクッとしてしまったがそれ以上によく分からない違和感のようなものを感じた。


 だがまぁ、鳥羽とは去年同じクラスだったわけだし、その感想が出るのも至極当然のことだ。


 俺はごまかすわけでもなく、ただ、正直に答える。


「おう。おかげさまでな」


「おかげさま?俺はなんもしてないけど?」


 はて?と首を傾げる。確かに鳥羽には自覚が無いかもしれないが、一年の頃、俺は鳥羽をひたすら観察して、スキルを学んだんだからな。さらに実践も鳥羽相手で練習していたまである。だから今の俺がいるのは鳥羽のおかげと言っても過言ではない。


 鳥羽には確かに感謝していた。しかし、それも全てあの賭けで裏切られてしまったのだ。勿論勝手に自分が感謝して勝手に裏切られたと言われたらそれまでなのだが。


 だからこそ俺は悪態をつきたくなってしまった。


「俺に告白させといてなんもないって?」


「話違うじゃん!それはごめんって!」


「てか、なんで俺に告白なんかさせたんだよ」


 思わず言ってしまったことだったがこれは前からの疑問だった。仮とはいえ俺と東雲が付き合うことに鳥羽のメリットを全く感じなかったのだ。それに鳥羽は無意味なこともしないようなやつだ。だからこそ俺に告白させたのは何らかの理由があるのではと探ってしまう。


「ん?んーと、なんとなくかにゃ?」


「誤魔化すなよ……」


 にゃっといいながら猫の手をしておどけてみせる。こうなっては多分何回聞いても話を聞いてくれないのだろう。ならばとりあえず諦めよう。今理由を探ったところで起きたことは変わらないのだ。


「そういえばなんとなく近いからららぽにしたけど大丈夫だった?」


 こういう服選びは近くのショッピングモールではなく、表参道とか渋谷の店に行くべきではないのかと思ったのだ。


 我ながら全くこういった知識がないなと思う。


 ちなみに表情の作り方や髪型のセットなどは鳥羽の見よう見まねだが、学校では勿論制服なので、私服の真似はできない。だからこそ今日は鳥羽に服を選んでもらおうと思ったのだ。ネットでのファッション知識でも良かったのだが、それが必ず合うか不安だったのと、一応デートの軽い下見もしときたかった。


 この前日浦と坂城を断ったのはそういう理由だ。リア充になって初めて彼女たちと関わった俺は、オタクのままだったら関わりもしなかったであろう彼女らに対し、リア充を演じなくてはいけない。そこに私服のダサさなどあってはならないのだ。


 彼女たちがそんなことを気にしないのは分かっているが、ケジメのようなものだ。ホントは鳥羽にもリア充を演じていたいが、もはやコイツには全てバレてるであろうから別にいい。


「別にららぽでも全く問題ないよ、めちゃくちゃショップあるから」


「ならいいや」


「お!そろそろだな。じゃあ俺に着いてきな」


 そんなことを話しているうちに入口が見えてきたようで鳥羽が先陣を切る。


「おう。任せるわ」


 今日はひたすら、鳥羽について行くだけ。これが遊びってやつか。すごい楽でいいな。絶対違うと思うけど。


「んじゃ、とりまスタバ行くか」


 そうだなまずはスタバに……ってスタバ?

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