第54話 エピローグ

「でも、翔なんかムカつくなぁ。あいつ、私に全てを押し付けて〜!あいつも困ればいいのに!」


 夕陽をバックに東雲はむすーとしていた。しかしそれは俺も同意だ。


「まぁ確かにな。あいつ今回役得だったからなぁ」


 多分最初から最後まで鳥羽の読み通りだったんだろう。だから一矢報いたい、というのには同意だった。詳しい事情を知らないとしても東雲がその感情を持つことには納得がいく。



「あ!いいこと思いついた!こうすればいいんだ!」

「え、どうやって――」




 え、どうやってやるの。という言葉は物理的に言うことが出来なかった。


 先程まで眩しいと思っていた夕陽も今はゼロ距離に密着している東雲に阻まれて見えなくなっていた。



 しばらく沈黙が続く。声が出なくなったのも数秒だけで、思わずつぶってしまった目を開けた頃には東雲も元の位置に戻っていた。


 走ったせいで乾いた唇はもうとっくに潤っていた。



「お、お前……今」


「違うからね!ただの今回の件のお礼だから!特別な意味なんてないから!」


 羞恥に頬を染めながらも胸を張って笑みを浮かべている。


 ……これ以上に特別な意味があってたまるかよ。


「東雲……梓って呼んでもいいか?」


 目を逸らしてボソボソと呟く。東雲も顔が赤くなっているが俺も同じくらい赤くなっているだろう。きっと夕陽のせいだけど。彼女を名前で呼びたいと言うよりも、今回の件を経て変わった俺達の関係をひとつの形として俺からも残しておきたかったからだ。彼女からは今さっきもらってしまったからな。


「うん!勿論だよ!歩くん!」


「へー、名前覚えててくれたんだ」


「だからあれは演技だって!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る