2、物語の序盤は大抵平和である。

第4話 何事にも万全の準備が必要


 夕食や風呂を済ませ、テレビのゴールデンタイムも終わった頃、俺は作戦を練ることにした。無論議題は東雲梓を落とす方法についてだ。


 とはいえ、作戦自体は東雲と別れた瞬間から考えている。今から行うのは何となく考えた作戦をノートに書いて形にする作業だ。頭の中だけでは寝たら忘れてしまう。


 インプットだけでなくアウトプットもすることが何事にも大切だからな。


 教師になったら言いたい言葉ランキング第十四位くらいのセリフを頭の中で呟いて勉強机に向かう。ちなみに一位は「えー、皆さんが静かになるまで五分かかりました」だ。


 作戦を練るためにシャーペンを握ったところでスマホが振動する。送信元と内容についてはある程度予測がついてるが一応見る。


『告白どうだった?笑』


 そこには予測通りな内容が表示されていた。既読無視するとめんどくさいから未読無視をするつもりだったが『笑』の一文字にムカついたので返信することにした。


『成功』


 小学生でも意味が分かるような二字熟語だけを送信する。非常に簡潔な文章だが、彼にはそれで十分だ。いや、文章ですらないか。


 フフフ、彼の驚く姿が目に浮かぶ。彼には問いつめなくてはならないことがあったが、れは明日直接言うとしよう。


 俺は通知を切り、そのままスマホを充電して、再びシャーペンを握る。


 ……さて、どうしたことか。


 東雲を落とす方法……恐らく誰もが思い浮かぶようなやり方じゃダメだ。それに俺の名前を覚えてないときた。今まで俺を風景の一部としか思っていなかったのだろう。二年生になってから二ヶ月、俺は一年生の頃と比べ、大分垢抜けをしていた自信があったからこそショックだった。しかし、そんな状況に俺はやはり興奮を抱いていた。


 名前すら覚えられてない難攻不落の美少女を一ヶ月で落とす。


 テンプレートとは違えどこれこそ俺の望んでいた物語の主人公ではないか。それに


「仮とは言えど付き合ってる」


 という大きなアドバンテージを持っているし、恐らく協力者も用意出来る。というか俺をはめたくせに協力しないなんてありえない。嫌でも協力させてやる。


「これは負けられない勝負だな」


 俺は彼女を落とすために一切の努力を惜しまないことを決意して、その感情を声に出す。


「よっしゃ!みてろ東雲!!」


「お兄ちゃんうっさい!!!!!」


 妹の歩波にドアを思いっきり叩かれる。一人で盛り上がってるうちにかなり声が出てしまっていたようだ。しかし、きっと東雲を彼女としてこの家に連れてきたのなら歩波は目を丸くするだろう。みてろ歩波。

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