1、物語は満を持して始まる

第1話 『告白』

 君たちは他人を好きになり、他人に告白したことがあるだろうか?


 恐らく、好きにはなったが告白はしなかったと答える人や、好きで告白したら成功した、もしくは失敗した、そう答える人が多いだろう。


 ただ、これはどうだ?


 他人を好きにならずに他人に告白する。無論、告白した後に、やっぱり好きじゃなかったと気がついた場合や、そこまで好きでもなかったが、その場のテンションで告白した場合は存在するだろう。


しかし、それらの場合は告白する相手とある程度仲が良いという前提があってこそ成り立つものだ。例えばどんなドラマでも小説でも、アニメでもいい。主人公がヒロインと親密度を一切上げず告白したことがあるだろうか。少なくとも俺はそんな変わった物語を見た事はない。


 ――だからこそ俺が今からすることは異常なのだ。


 好きでもない、話したこともない、そんな相手に告白しようとしているのだ。


 気持ちを整理しているうちに一人のクラスメートが教室に入ってくる。


 ――東雲しののめあずさ


 それが彼女の名前だ。小さくも綺麗に整った顔立ちに、軽く光沢がかかっていて、短くも綺麗に手入れされた黒髪、見るものが吸い込まれるような深さを秘めた黒く輝く瞳。その髪や眼とは対照的に白くつやのかかった肌。


 学校トップクラスの美貌の持ち主で定期考査は不動の一位。容姿端麗。才色兼備。そんな言葉でも表せない、絵に書いたような完璧女子高生。噂では親は大企業の社長だとか。


 昔の俺なら話しかけることすらもおこがましい。現に緊張で彼女の目を見ることも出来なかった。


「わざわざ放課後に呼び出して何の話〜?」


 彼女は腕を組みながら壁によりかかって言う。不機嫌ともとれる態度なのにそれすらも美しく見えてしまうから不思議だ。話したことの無い男子に貴重な放課後の時間を削られるのだから不機嫌になるのは仕方ない。


 今にも張り裂けそうな空気。


 いつもなら気にもならないはずの外の部活の掛け声がえらく耳に残る。


 ここで無言を貫くほど俺の心臓は強くない。まぁ、既に俺の心臓は既に弾けそうなのだが。


 ――どうせ罰ゲームだ。さっさと終わらせるか。


 今思えばくだらないゲームだ。定期テストの点数で負けたら告白する。俺はそんなただの悪ノリで始まったゲームの敗者だ。全く関係のない第三者の心をも弄ぶ最低のゲーム。


 百害あって一利なしだ。しかし、絶対負けないはずの勝負だったのだ。いや、今悔いても仕方がない。勝負を受けた時点でもう引き下がれない。いくら正当化しても最低なことをしているのはわかっている。告白なんてものはこんなデタラメな気持ちでやっていいものでは無い。唯一の救いは告白する相手が告白慣れしてる美少女ってことだ。俺の事を振ることで付く傷は他の人と比べれば浅いだろう。酷い理論武装だ。


 俺は心を決めると初めて彼女と目を合わせてから、一世一代のセリフを吐く。


「俺と付き合ってください!」


 二人しかいない、放課後の教室。いつもいる場所なのに今だけはどこか神聖な雰囲気を醸し出していた。そこに響き渡る俺の声。告白。


 いや、実際には響いていないのかもしれない。なんせ緊張で声が上手く出てるかも分からないのだ。だが答えは分かりきってる。学校一とも言われる美少女に告白したのだ。そんな彼女が、関わったことすら無い俺に「はい」の二文字を言うわけがない。


 とはいえ人生初の告白だ。緊張するなって方が無理な話だ。時計の音が一定のリズムを刻む。


 彼女をチラッと見てみると、なんとも取れない表情をしていた。告白を嫌がるわけでもなく、そして嬉しがるわけでもなく。必死に自分の感情を抑えているような表情だった。


そして、ただただ作業のように答えを発す。


「ん、いいよ」

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