第2話 賭け
全くトーンを変えず、当たり前のように返された言葉。予想してなかった言葉に頭が真っ白になる。
「え?今なんて……?」
教室に響き渡ってるのではないかと思わせるほどに鼓動が高鳴る。
「二度も言わせないでよ。君と付き合ってあげるって言ったの」
全く表情を崩さず、彼女は繰り返す。そうかこれは夢だ、なんて思って自分の額をつねってみたが、普通に痛みを感じた。しかし、手で触れてみたことで、痛さ以上に自分の額が熱くなっていることがわかった。
分かってはいたがどうやらここは現実の世界のようだ。
ただ、ここが現実と分かっても、なぜ彼女が俺の告白にオーケーしたのかは全く分からない。噂では野球部のエースからの告白も断ったとかなんとか。
「なんで?って顔だね。でもその前に君が心にもない告白をしてきた理由を教えて欲しいな?」
ここで初めて彼女の口角が上がった。全て見抜いているぞ、と言わんばかりの笑みに体がすくむ。
「好き、だから告白したに決まってんだろ」
嘘だ。
口からでまかせに過ぎない。
しかし、彼女はやはりそれを見抜く。
「さすがに、顔を見れば分かるよ。君は告白をする人の顔をしてないもん。それに私たち今までほとんど話したこと無かったし。一目惚れ、ってこともないでしょ?」
……これ以上誤魔化しても無駄か。
そう結論を出し、改めて彼女の目を見つめる。
「いや、悪かった。確かに俺はお前に好きでもないのに告白した。でも、人に告白するのに理由はいるか?」
すごいカッコイイこと言った気がする。だが、猛烈に恥ずかしさが押し寄せてくる。後で家の布団に顔をうずめることになるな。
そのセリフを聞いた彼女は笑いをこらえるような表情になって答える。
「人を好きになるのに理由がいるか?ならカッコよかったかもしれないけど、告白するのには理由があるのが普通だよ。気がついてなかったら可哀想だから言わせてもらうけど君、とてもカッコわる……」
「あー!!わかってるからそれ以上言わないでくれ!」
ここ一番大きい声で遮る。やっぱり柄にもないことするもんじゃねえな。
俯いた顔を上げて前を見ると東雲の表情は俺が告白する前より大分軽くなっていた。
「まぁ、君が告白してきたのはどうせ賭けに負けたからとかかな?時期的に中間テストも終わったばっかだし」
ニヤッとしながら今度は探偵のように俺に指を指しながらそう言う。
一発で本当のことが言い当てられたので思わずドキッとしてしまう。
どうやら全て見抜かれてたいたようだ。
――しかし、そこまで分かっていたのに俺の告白を受けたのは何故だ?
その俺の心を読んだかのように彼女は続ける。
「告白を受けた理由は、人を好きなるという感情を知りたかったからだよ」
なんでもないかのように彼女は言う。
……なるほどわからん。人を好きになる感情……ロボットか何かか?
必死に言葉の意味を理解しようとしたが諦める。そして、俺が沈黙したことにより教室に沈黙が流れる。さすがに何か気まずいので話題を変えることにする。会話はキャッチボールが基本だからな。
「なぜ俺なんだ?」
疑問をそのまま口にする。人を好きになる感情を知りたいのならそれは別に俺である必要は無い。そこには微かな期待も混じっていた。ただ、そんな期待とは裏腹に、帰ってきたのは――
「タイミングが良かったからよ」
――そんな言葉だった。ますます疑問は深まる。
「タイミング?なんのだよ。」
「ひみつ」
彼女はニコッと笑みを浮かべながら言う。
――タイミング?一学期の中間テストも終わった五月後半。この時期のイベント……定期テストか?あるとしたら彼女も定期テストの賭けに負けて、嘘告を命じられた場合か。だが彼女の学力は学年トップだ。賭けに負けるとは思えない。それに何よりこんなくだらない賭けをする人でもなさそうに見える。しかし、今まで多くの人からの告白を振ってきた彼女が急に関わりのない俺の告白に応じるほどの理由……だめだ。見当がつかない。
俺はまた答えを出すことを諦め、結局最初に諦めたことに戻って質問する。
「じゃあ、人のことを好きになる感情を知りたいってどういうことだ?」
「はぁ、質問攻めだね。別にいいけど。人のことを好きになる感情を知りたい。言葉の通りだよ。君は私を惚れさせなさい。ただ……」
ほんの一瞬間を作ってから続ける。
「私とも賭けをしない?」
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