7、ラブコメの終着
第44話 真実の舞台裏
翌日。俺は東雲家の門の前にいた。この間、鳥羽にこっそりと案内してもらったのだ。
天気は相も変わらず晴天で、ほんとに梅雨なのかと疑いたくもなってくる。
鳥羽曰く、今日この場所で親達との話し合いが行われるらしい。
親達の仕事が忙しいと聞いていたから、話し合いの場を設けられるとしてももっとあとになるのではないか、と思っていた。だから昨日今日で時間が取れるとは思ってもいなかったのだ。昨日のことを考えると丁度いいタイミングなのは間違いない。それが必然か偶然から分からないが、どうやらラブコメの神様は俺に味方してくれているようだ。
通話状態になっているスマホから話し合いの様子が聞こえてくる。鳥羽のポケットの中に通話状態のスマホを入れてもらったのだ。これでリアルタイムで中の状況を把握しつつ、ベストタイミングで中に乱入できる。奇しくもあの告白の時と立場が逆になったな。
これこそが俺の考えた作戦の全てだ。
まず第一に東雲とのデートで好印象を与える。俺の事を好きになってくれたら万々歳だったが鼻からそう上手くいくとは思ってない。「好きではないけど友達としてはいい!」と思わせるのが目標だった。
そしてその次に東雲自身の失態のせいで不仲、すれ違いを引き起こす。そうすることで罪悪感を埋め込ませ、四六時中「月瀬君に謝りたい……」と思わせる。すなわち四六時中俺のことを考えさせる、ということだ。
第三に、昨日のデート。これは嫉妬心を煽ることが目的だが、そもそもそれは東雲が俺の事を既に好き、もしくは気にかけているという前提があって成り立つものだ。
だが、人は一度手に入ったと思ったものを逃すことが一番惜しい、と感じるらしい。例えば極端な例で宝くじ。これは漫画とかだとあるあるだが、一等が当たった、と思ったら実は去年のだった、というパターン。そもそも一等に当たる可能性はほぼゼロに近い宝くじだ。一等が当たらなかったとしてもそう落ち込むことは無いだろう。しかし、一度当たった、と思ったらとても落ち込むものだ。なんか違う気がする。
とにかくそれも踏まえての第三のデートだ。一度自分のことを恋に落とす、とまで言った男が他の女の子とデートしている。それを見て惜しい、と思うのは人間として当然の感情なのだ。
で、最後。今日、決着をつける。彼女がピンチになったところに俺が颯爽と駆けつける。
これでエンディングだぞ、泣けよ。
もちろんこれは理想論だ。全てが上手くいった、と仮定した場合に過ぎない。もしかしたら相当俺に怒ってるかもしれないし、話すら聞いてくれないかもしれない。
でも俺はやらなくちゃいけない。本気で東雲を落とす、このラブコメの主人公になる、と誓ったのだから。
決意をもう一度確認したところでイヤホン越しで彼女達の会話の流れが変わったことを悟る。
『は?何言ってんだよ!』
イヤホンから鳥羽の不自然なまでに大きな声が聞こえてきた。合図だ。
俺は即座に屋敷の敷地内へと入り、事前に鳥羽に窓を開けておいてもらっている客間の下へとたどり着く。そして近くには大きな木があった。俺はここを登って客間へと入り込めばいい。
木に手をかけ、少しずつ登っていく。木登りに慣れていた訳では無いが、幼い頃はよく木に登ったものだ。自然と登ることが出来た。そして気づくのだ。
木から窓へと跳び移ることの恐怖に。
想像以上に遠かった。決して行けないわけでは無いが、失敗も全然有り得る距離だ。
たしかにここに木があることは鳥羽から聞いていたが、窓までの具体的な距離は聞いていなかった。てっきりすぐ側に隣接しているものだと思っていたが、まさか少し離れているとは……
どうする?扉から正面突破?いや、間違いなく鍵がかかっているだろうし、それじゃあ間に合わないかもしれない。
ならばやはり一か八かで飛ぶしかないか?失敗すれば落下音が鳴り響きすぐ上の彼らに存在を気づかれてしまう。それに何よりダサすぎる。
だが、考えてる時間もない。跳ぶしかないか。
覚悟を決めてもう少し上へと登って、木の枝に手をかけると、手があるものに触れた。
「これは……縄?」
都合のいいことに木の枝に縄がかかっていた。縄の先を見るとそれは窓の上、屋根のでっぱりに結ばれていた。木と、隣の家を結ぶ形だが、枝と葉っぱがいい感じにその姿を隠していた。下から注視すればやっと認識できる程度だろう。縄は雨風に晒されたせいか、少し汚れていたが、あまりくたびれていないことから最近張られた物だと予想できる。
「鳥羽ぁ……!」
誰が用意したかなんて考えるまでもなかった。ここに俺が登ることを知ってるのは彼だけだ。
ターザンの要領で飛べ、ということだろう。
イヤホンからは今にも東雲が鳥羽と付き合うことを承諾してしまいそうな雰囲気が伝わってきた。結婚から付き合うにランクダウンしたのは良かったが、それだと結局同じだ。
俺は縄を握り、枝を強く踏み込む。
枝は強くしなり、パキパキと唸り始める。その姿は今のピンチな状況を代弁しているかのようにも感じられた。
枝が限界を迎える直前で俺は高く跳び、縄がピンと張る。
届け!!!!!!!!
ドガ、ズガン!ガチャドガ!
……痛っ!痛い痛い!
何とか窓には届いたが着地の時に足を挫いたようだ。すごい痛い。
え、えーと。周りキョトンとしてるけど…
さっき、東雲が私は翔と結婚する!とか言いそうだったから、とりあえずこう言っとけばいいか。
「その結婚……ちょっと待った」
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