第21話 デートあるいは駆け引き③
たわいもない話をしながら歩く内に次なる目的地へとたどり着く。
目の前に見えるのは洋食店。時刻は十二時。ちょうどランチタイムだ。俺がここを選んだ理由は口コミからだ。大型ショッピングモールということもあり、飲食店は多々あるが、その中でも美味しく、かつ値段が安い店となると限られてくる。
気合いを入れ、店のドアを開く。別に気合を入れるほどの行為ではないが。
カランカランという音とともに店に入ると、白と黒の制服に身を包んだ店員さんがやってくる。
「いらっしゃいませ!お客様何名様ですか?」
その言葉に俺は口を開かず指で二を作ることで答える。
「二名様ですね!こちらへどうぞ!」
そしてそのまま席へ案内される。案内された席は店の端にある四人席。俺は奥の方の席へと座り、向かいに東雲が座る。端の席というのが何か特別感を醸し出している。東雲は早速メニューを開き、うーん、と頭をひねっていた。その迷ってる仕草も何か絵になっていて、ついつい見続けてしまった。
すると、メニューから離した東雲の目が俺の目と合ってしまう。お互い逸らすことはせず、見つめ合う形がしばらく続いたが、東雲は何かニヤニヤした様子で尋ねてくる。
「注文決めた?」
その言葉でハッ、と現実に戻される。いかんいかん。何頼むか決めなくては。確か口コミだとオススメは……
「この煮込みチーズハンバーグにしようかな」
「なるほどー!ハンバーグか!。なら私はカルボナーラにしようかな」
何故俺がハンバーグを選ぶとカルボナーラなるのかは分からない。チーズ繋がりかね。
そんな連想ゲームをしながらも「すいませーん」と手を挙げて店員さんを呼ぶ。こういう所は男が積極的にやらなくてはな。
注文を簡単に済ませると、ねぇねぇ!と正面から呼びかけてくるのが聞こえてきたので応じる。
「おう。どうした」
言うと、先程のニコニコした顔はどこへ行ったのか。斜め下を見ながら顔を朱色に染めた東雲がいた。その仕草はまるで小動物のようで、これが演技とわかっていても思わず頭を撫でたくなるほどの可愛さだった。
「あの、さ。私の事好き?」
モジモジしながら言う。頭を撫でようとする右手を左手で必死に抑えながら、東雲のセリフを逆に利用してやるつもりで答えてもいいが、これは罠だろう。
「……そっちが教えてくれたら教えてやるよ」
これが駆け引きと言うやつだろう。危うく「うん。好きだ」って言いそうになった。そんなこと言ったら俺の負けだ。
俺の答えを聞いた東雲は一瞬舌打ちしたようにも見えたが、照れた顔は変えずに、やはりモジモジしながら返事をする。
「わ、私は……月瀬君のこと……」
言葉が一瞬途切れる。目線が交差し、俺の頬が熱くなったのを感じた。東雲はフーっと息を吐いた後、意を決したように続ける。
「なーんとも思ってないよ。いや、申し訳なくは思ってるかな」
それはあまりにも冷たい声だった。先程熱くなった頬が一瞬にして元あった温度よりも下がるのを感じる。そんなセリフを発してもなお、東雲の表情は何故か照れてて、何故か手はモジモジしてて。まるで声と体が一致していないような。海外ドラマに下手くそな女優がアフレコしたような。そんな猛烈な違和感があった。それに申し訳なく、とはどういうことだろうか。嘘告をした俺が思うならまだしも彼女が罪悪感を抱く理由なんてどこにも無いはずだ。
しかし、先程のセリフはまるで聞き間違いかのように明るいトーンで続ける。
「で?月瀬君はどうなのかな?」
その豹変ぷりに思わず腕が震える。そして改めて認識する。俺はこいつを一ヶ月で落とさなくてはならないのだ、と。
ならばやはりここは鬼門だ。好き、と言う訳にはいかないが攻めるべき場面だろう。
俺は今までの経験から、好き、と言わない愛情表現を考える。そして、閃いた。
好き、と言わないで相手を照れさせる方法。それは――
「べ、別にあんたのことなんてなんとも思ってないんだからね!勘違いしないでよね!」
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