第27話 もうひとつのプロローグ①
一ヶ月前
私の父は日本でも有名な金融機関の社長で、母はその副社長。だから金にこそ困らないけど家の中では私には周りの子達とは程遠い生活を強いられていた。家族旅行どころか家族揃って食事をすることすらも私の記憶には残っていない。
物心ついた時には家政婦さんがついて世話をしてもらっていて、家にいる間はほとんど勉強。でも学校には通わせてくれた。私が友達と遊びに行くと言ったら素直に行かせてくれた。勿論習い事の合間を縫って、だけど。多分その時くらいからだろう。私が偽物の自分を演じることになったのは。
次第に「富豪のお嬢様」として友達と関わるよりも「憧れの友達」としてみんなと関わった方が自分も相手も幸せになることがわかった。上から目線で高級マカロンをプレゼントするよりも相手の目線にたって十円で買った駄菓子をプレゼントした方が喜んでもらえたこともあった。だから、気づいた時には家での自分と友達の前での自分を使い分けていた。
もっとも、そのせいで今ではどれが本当の私なのか分からなくなってしまったんだけどね。
さてさて、突然私の境遇を振り返ったのにも理由があって。
私達は今、私の家のとある一室にいて――
「「は?」」
――目の前にいる女性の発した言葉にとても驚いていた。
……え、今お母さんなんて言ったの。いや、聞こえたことには聞こえたけど理解が追いつかない。意味がわからない。隣にいる翔も同じように驚いている。
「だから、二人で結婚しなさい」
やっぱり聞き間違えじゃなかった。だとしても急に結婚って、昭和か。意味がわからない。そもそも結婚できるのって男子は十八歳からじゃなかったっけ。
「もちろん今すぐに、とは言わないわ。高校卒業してからすぐに結婚して欲しいの」
「はぁ……それはまた急ですね」
声を上げたのは翔。私はじっと言葉の続きを待つ。
「翔君のお父様の企業と私の企業で同盟関係を結ぼう、ってことになって。今この二つの企業で少しいざこざが起きててね」
翔の父も金融企業の代表を務めている。つまりはこの結婚は戦略結婚ということだろう。
――そんなの願い下げだよ。
確かに翔とは幼い頃からよく遊んでいたけど、私は彼のことを一度も恋愛対象として見た事がない。兄妹、もしくは姉弟だと言う風に捉えていた。恐らくそれは翔も同様だろう。
それに今どき政略結婚なんてものがあるということにも驚いた。
「結婚する相手くらいは自分で決めさせて欲しいんだけど」
言っても無意味だと薄々感じてはいたけど、必死に声を振り絞る。
しかし、お母さんはそれをものともしない。
「あら、お似合いの二人じゃない。不服はないわよね?それじゃ私は仕事に戻るわ」
お母さんは言い終えると直ぐに部屋を去った。有無を言わせぬ迫力がそこにはあった。ぱーって言いたいことだけ言って、返事は聞かずにぱーっと帰る。ホントに嵐のような人だ。
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