「姫、おれたちは魔王になってしまいましたけれど、心は国に捧げた勇者です。必ずやこの地より、国を助ける力となりましょう」

 エレンと顔を見合わせて頷いて、もう一度姫を見る。

「姫、あたしたちの分まで、ルーカスさんとお幸せにね!」

「えっ……」

 かあっと紅の差す頬に、おれたちまで嬉しくなる。

 おれたちは、この二人の幸せを守れたんだ。

「お前たち……」

「絶対だよ、ルーカスさん」

「本当に君たちは……。わかった。けれど、俺は二人のことだって、絶対に諦めないからな」

「大丈夫。おれたちも諦めてはいないから」

 これが、英雄と魔王の会話だとは、誰も思わないだろう。

 誰にも明かされることのない、語られることのない事実だ。


「二人とも、気を付けてね」

 ルーカスさんと姫に手を振って、別れを告げる。

 きっともう、二度と会うことは叶わないだろう。

 その姿が見えなくなっても、おれたちはずっと手を振り続けていた。

「ねえ、ダレン。姫のこと、好きだったんでしょ」

「エレンこそ、ルーカスさんのこと、好きだったんだろ」

 二人して泣いたことは、あの二人には内緒だ。

 それに、あの二人が互いに惹かれあっていたことは、わかっていたことだ。

 だから、やっぱりなという感じではあった。

「ルーカスさん、魔法使わなかったね」

「ダレンは、それも計算していたんでしょ?」

「まあね」

 彼は、魔力を使わないと思っていた。それが昔から変わらない、彼の甘さと優しさだ。

「さて、これからどうしたものかな」

「この城、本当に誰もいなかったもんね」

「そうだな」

「っ……! だ、ダレン!」

「何、虫でもいた?」

「違う! あたしたちのレベル!」

「レベル?」

 おれたちは、自分の力を数値化して見ることができる。

 おれとエレンは同じで、Lv.90だ。

 出発前にはLv.60くらいと、衛兵の中でもトップクラスだったが、この旅で更にアップしていた。

 そのレベルが、何だと言うのだろうか。

「何、もしかして魔王を倒して、尚且つ魔力を得たから、99くらいになってるとか?」

 だとしたら、結構嬉しいかもしれない。

 ここまでレベルを上げるのにも苦労したし、90以上となると、相当の経験値がないと増えていかないからだ。

「何を馬鹿なこと言ってるのよ。その目で、よおく見なさい」

「え? 何をそんなに騒いで……」

 目を閉じて、人差し指を額に当てる。

 そうして見えてきた数字に、言葉を失った。

「……は?」

「やっぱり、ダレンも?」

「何これ……増えすぎて、一周したとか?」

「何が一周するのよ。現実を見なさいよ」

 見えた数字は、なんとLv.1だった。

「そんな……」

「仕方ないわね。腕は落ちてないみたいだし」

 言いながら、銃をぶっ放すエレン。

 その弾痕で絵、というか落書きが描かれているところを見ると、確かに腕は落ちていないようだった。

『威力が落ちてるわね』

「なるほど」

「こんな状態になるなんて、ルーカスさんは言っていなかったのに……」

「もしかしたら、二人に力がわけられたことはイレギュラーで、そのせいなのかも……」

「そうなのかなあ……」

 唇を尖らせているエレン。

 いやあ、おれも腑に落ちないんだけれどね。

 今更言ったって、仕方ないじゃないか。

「とにかく、この状態で魔族や話を聞いていない冒険者たちがここへやって来ても困るから、レベルアップをしないとね」

「そうだね。でも、この城にはおれたちしかいないし、近くの森まで行かないとだね」

 この城の近くの森には、魔族の雑魚たちがいるのだ。

「は? 魔族を殺していくの?」

「あ……」

 しまった。今までは魔族を倒して経験値を得ていたけれど、これからはそうもいかないのか。

 気持ちはどうあれ、身分は魔王だ。

 むやみやたらに魔族を倒せば、問題が起こるのは必至。

 そうなれば、魔王が存命だと知れてしまう。

 こそこそと、雑魚だけを倒していかなければならないようだ。

『それって……レベル上げにすっごい時間かかるわね』

「頭痛くなってきた……」

「でもさ、ほら、この魔王システムのことがわかって元に戻れたら、レベルも元に戻るかもよ?」

 姉の提案に、それも一理あると思った。

 ルーカスさんが、元に戻っていたからだ。

「とりあえず、いろいろ探ってみようか」

 おれたちは、城の探検をすることにした。

 まずは、自分たちの新しい家となったこの城のことを知ろう。


 こうして、金髪の天才双子勇者は、この日Lv.1の魔王として、この世界に君臨したのだった。

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