「気にせず、早く終わらせなさい」

「え? ……あ」

 そういうことか。

 おれはやれやれと肩を竦めて、視線を足元に戻した。

 確か、サラマンダーは芋虫の姿だった。

「あれ?」

 おれは目を疑った。

 そこにいるはずの芋虫がいない。

 おれ、ちゃんと呼んだよな?

「……もしかして、これ?」

 代わりに、何か転がっているものがそこにはあった。

 しゃがんで凝視してみる。

『サラマンダーなら、それよ』

「やっぱり!」

 何とそこには、繭に包まれた蛹がいた。

 芋虫が成長してる……!

「え、これ、戦えるのか?」

 火を呼び出すことはできるようだ。

 だが、シルフの竜巻やノームの土の壁のようなことは、できなかった。

 しばらくは、考えて力を使わないといけないらしい。

「嘘だろ……ウンディーネだけじゃなく、サラマンダーまで……」

『まあ、早く強くなることね。最終の姿になったら、サラマンダーは強いわよ』

「え、本当?」

 希望が見えた。早くサラマンダーには成長をしてもらおう。

 ヤル気が出てきたおれは、早速今日も鍛錬をしようとエレンの方へ向かう。

「おい、エレン。もうサラマンダーはいないぞ。いつまでそこに――」

 おれは、それ以上先へ進むことができなかった。

 突然、エレンの隠れていた壁が崩れたのだ。

「――っ、エレン!」

『ちょっと、突然何?』

 叫び駆け出す。

 どうして壁が崩れた?

 何があった。

 エレンは無事なのか?

「エレン!」

 崩れた瓦礫の山が、おれたちの再会を阻む。

 しかし、その山の向こうから声が聞こえた。

「ダレン!」

「エレン、無事か?」

「あたしは大丈夫! そっちは?」

「良かった。こっちも無事だ。だけど、どうしてこんな……」

 ただただ惑っていたおれだったが、聞こえてきた声に動きを止めた。

「なあ、今声がしなかったか?」

「え? 本当に?」

「お前、ビビってんじゃねえの?」

「はあ? ちげえよ!」

「それよりも、こんなところで武器を振り回さないでよ。壁が崩れたじゃん」

「はは、悪い悪い」

 それは、数人の男女の声。

 上の階の廊下を歩いているようだ。

「それにしても、本当に魔王ってもういねえのかな?」

「わからん。噂だったし、この辺じゃあ最新の正しい情報を得るのは難しいからな」

「だよなあ」

 どうやら、彼らは冒険者一行のようだ。

 魔王を倒す旅をしていたのだろう。

 これは、面倒なことになった。

 騒がしい上に、あいつらのせいで城が傷付けられた。


 ――おれたちの家が、壊された。


「ダレン、あたし向こうから回って来るね」

「あ、ああ。気を付けて」

「うん」

 瓦礫の向こうで、たたっと駆ける足音が遠ざかるのを聞きながら、おれは思う。

 俺は今、怒ったのか? と――

「あいつらに会うと面倒だ。隠れていないと」

 どうせ、玉座の間へ向かうに決まっている。

 そこに魔王がいるという情報は、誰もが知っている話だからだ。

 だから、そこに魔王がいなければ、大人しく帰るに違いない。

 少しばかり、どこかに隠れてやり過ごそう。

 そう決めて、エレンが来るのを待っていたおれだが、一つ重要なことを忘れていた。


 この城にはもう一人、住人がいたことを――


「あら、どちら様でしょうか」

 そしてそれは、早くも出会ってしまった。

「え、誰……」

「魔族?」

 おれは、中庭からその様子を見ていた。

 見ているしか、できなかった。

「エマ……」

 そして、頭を抱えるのだった。

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