ひらひらと後ろ手を振って歩いて行くリアム。

 おれも剣を回収した。

 こんなギリギリの戦いをしていてはダメだ。

 さっきだって、リアムが手を止めなければ、おれは負けていた。

 もっと強くなりたい。

 体も、そして心も。

「よし!」

 おれはそのまま森へと一人向かった。

 エレンが遠目におれの姿を見て、くすりと微笑んでいることも知らずに。


◆◆◆


 茨の地へ行ってから、数日後。

 おれとエレンは、西の街へと来ていた。

 同行者はクロエだけ。

 久々のメンバーに、まるで魔王の城を目指していた勇者の頃に戻ったような心地がした。

 もちろん、フードマントを被ってではあるけれど。

「ついにこの日が来たのね」

「ああ……遠目でも二人を見られたらいいね」

 今日は、ルーカスさんとシャーロット姫の結婚式の日。

 街の人々も英雄と姫を祝うために、国中から集まっていた。

 おれたちもその群衆に紛れる。

 もちろん、護石を握り締めて。

「もうすぐ来るみたい!」

 おれたちは、もちろん城には入れない。

 一般市民たちとともに、パレードを遠目に見るだけ。

 それだけでいい。

 一目、彼らをもう一度見られたら、それでいいのだ。

「来た!」

 歓声が上がる。

 ゆっくりと、馬車がこちらへ向かってくる。

 その中に、笑顔の二人を見つけた。

「元気そうで良かった」

「そうだね」

 民衆に手を振る彼らを見つめる。

 と、ルーカスさんが目を見開いたのがわかった。

 その口元が、おれたちの名を紡ぐ。

 顔を見合わせたおれたちは、二人で彼に向かってただ頷いた。

 顔を綻ばせる英雄の顔を見て、こちらまで嬉しくなる。

「シャーロット姫、綺麗だったね」

「ルーカスさんの正装、格好良かったね」

 馬車が通り過ぎたと同時に、喧騒に紛れておれたちはその場を去った。

 並んで歩きながら、魔王城へと向かう。

「幸せそうだった」

「おれたちに気付いてくれたね」

「嬉しそうにしてくれた」

「良かったね、エレン」

「良かったね、ダレン」

 手を繋いで歩く。

 誰にも気付かれることなく、誰にも知られることなく、ただ歩く。

 今日の数分間の思い出を抱いて、進む。

 きっと、もう会うこともないだろう彼らを想って、離れた地から幸せを願う。


 しかし、遠くない未来にまさかの邂逅が訪れることを、おれたちはまだ知らない。

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